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第七十四話

そして迎えた六日目。


「市場行きましょう!」

アルージェは張り切っていた。

担当した四日目がなにかも裏目に回ってしまい、

思っていた通りに行かず、今日こそはと決意する。

アルージェには王都は分からぬ、アルージェは村の農家である。


「おっ、少年、今日はなにやら張り切ってるな」

ミスティもアルージェが張り切っていることを見て感じ取る。


「はい、四日目はほんと何も進まなくて、お情けで今日があると思ってますので!」


「この中では少年が一番上の立場ということになっているから、そこまで気にすることはないと思うがな」


「あくまで書類上なんで!実際ミスティさんは貴族ですし、マイアさんは貴族のメイド、ルーネなんて僕をシュークリーム買ってくれる人位にしか認識してないですよ」


「どうした?張り切りとは裏腹にえらく思考が落ち込んでるじゃないか」


「いや!そんなことないです!さぁミスティさんもマイアさんもルーネも早く用意してください!行きますよ!」


「なら、いいが、ルーネは用意できてるだが、今日はロビーではなくそこで待っていてくれ、なに、今日はすぐに用意終わるさ」


「わかりました!ルーネおいで!」


寝転んでいたルーネがアルージェの呼びかけに反応して、駆け寄ってくる。

「えらいなー、ルーネは」

そういい頭を撫でたり、じゃれついたりしていると割と早いタイミングで、ミスティから声がかかる。


「用意できたぞ、それでは向かうか」


「はい!」


みなで宿屋をでて市場に向かう。


「市場って日によって売ってるもの違うんですよね?何かいいものがあればいいなー」


「こればかりは運だから何ともいえんさ」


「そうですよねー」


そんなことを話している間に辺りがガヤガヤと騒がしくなってきて、市場の入り口が見える。


「かなりにぎわってるんですね!」


「王都だからな、フォルスタとは比べものにならんさ」


アルージェはキョロキョロとしながら歩きお目当ての屋台を見つける。

「おぉ!武器が並んでる!!」

目を輝かせて、屋台に駆け寄る。


「ミスティさん見て!トンファーだよ!トンファー!」


「変わった形の武器だな」

ミスティははしゃいでいるアルージェを見て少し微笑む。


「いらっしゃいってガキじゃねえか」

店主は元気に声を掛けたが、アルージェのことを見て、少しガッカリする。


「姉ちゃん、壊したりしないように見張っててくれよ」

その後、アルージェの後ろにいたミスティに声をかける。


「子供が触って壊れるくらいのものなら戦いには使えないだろ」


「ははは、確かにそりゃそうだ、こりゃ一本取られたな、好きに見てってくれ」


「ありがとうございます!」

アルージェは武器一つ一つを手に取り、じっくりと眺めて、手入れが行き届いていないことに気付く。


「全体的に手入れがあんまりされてないみたいですけど」


「あぁ?冒険者達がどこからか拾ってきたものだからな、そこまできれいなもんはねぇと思うぜ」


「そうなんですね、武器達かわいそうだ・・・、少し手入れとかしてあげちゃだめですか?」


「おいおい、よしてくれよ、売りもんだぞ」


「失敗したら代金払いますから!」


「なんだ、どっかの鍛冶屋の倅か?売りもんをなんだと思ってるんだ、まぁ支払ってくれるなら構わんがよ」


「ありがとうございます!」


「一番酷いのは、んー」

置いている武器を見渡して、立てかけられていた大鎌のような武器を手に取る。


「おっとっと」

重さですこしよろける。


「おい!気を付けてくれよ!」


腰につけている、アイテムボックスから手入れに必要な道具を取り出し作業を始める。

「へえ、内側だけじゃなくて外側にも刃をつけてるんだ、変わってるなー、うわ刃部分血とかのせいでめちゃくちゃ切りにくくなってそう、大きいから重量で何とか切断できてたみたいだけど、これじゃあ嫌だよね」


刃になっている部分をシャリシャリと砥石で研ぐ。

「接続部分も少しガタが来てるな、外側の刃ばかり劣化してるから使ってた人はきっと鎌での戦い方知らずに使ってたんだろうな、内側だけじゃ使いにくいからって外側も刃に変えてもらったのかな、接続部は詰め物でごまかすしかないな」


はじめは嫌がっていた店主だが、アルージェの手際をみて、接客もせずにアルージェのやり方を見始めていた。

周りにも初めは武器に詳しい人が「あの年でなかなかの手際だ」と言って話しているくらいだったが、武器を使っている冒険者なんかも集まり始めて、

「なるほど、そういう風に修復するのか」と勉強を始めている。

店主に「あの子は君のところの?」と質問をする人も出始める始末。


「アルージェって意外とすごいやつなのか?」

ミスティがルーネに尋ねると、なぜかルーネが誇らしげに「バウッ」と吠える。


「そうなのか、この短剣は刃こぼれとか手入れとかする必要なかったから詳しいことはよくわからんが、確かに野営している時でも夜には欠かさずに手入れしていたな」

ミスティはアルージェの意外な一面を目の当たりにして、関心する。


「できた!おっとっと」

手には見違えるほどに美しくなった、大鎌があった。


近くにいた冒険者が「その大鎌売ってくれ!これからの俺の相棒にしたい!」とアルージェに声をかけてきて、

初めて周りに人だかりができていることに気付く。


「えっ、なんの集まりですかこれ?」

意味が分からなくて、ミスティさん達を目で探す。


アルージェがキョロキョロとしていたのでルーネが「ワウッ!」と吠えて自分の居場所をアルージェの脳内に共有する。


「あぁ!そんなところに!」

アルージェは人だかりを掻き分けてミスティさん達と合流するが

「あっ、鎌持ってきちゃった、店主さんに返してくるね」と

もう一度人だかりの中に入っていく。


「店主さんこれ、返しますね」

アルージェが大鎌を店主に渡すと、

「ただのガキかと思ったがなにもんだ?」


「武器が好きなだけの子供ですよ!なんか人集まってきちゃったんで、他のやつもやろうかと思ったけどやめときますね、武器達に謝っててください、では!」

と店主が返事したころには姿が消えていた。


「嵐みたいなやつだったな、にしてもどうすっかなこの大鎌」

他に並んでいる武器とは明らかに一線を画く出来に安く売るのを躊躇われる状態になってしまった。

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