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第六十話

フィーネさんと食事に行った翌日から王都へ行くための準備に入る。

手持ちのアイテムボックスの中には武器がかなりの量入っているので、

最長3ヶ月の長旅になる予定なのでなるべく準備はしておきたいが、

欲しい物全てを入れることはできないので、多少は現地調達ができそうな食料品などは減らしておく必要があるだろう。


ミスティさんはギルドマスターの部屋で出ていったきり見ていないが、

父に話をすると言っていたので恐らく家に戻っているのだろう。


「どれくらいでミスティさん達戻ってくるんだろう」

アルージェはルーネを撫でながら呟く。


ルーネは丸まり、尻尾を振りながら目を瞑っている。


「ん?そもそも、辺境伯は一度しか会ったことが無いただの平民の男に愛娘を預けるんだろうか、いや無いな、これは辺境伯から許可が出ずに一緒に王都に行けないのワンチャンあるな、ルーネと2人なら王都までもきっとあっさり着くだろうしそっちの方が助かるな」

どこの馬の骨かわからない男に愛娘を預ける父親は居ないだろうとタカを括る。



「とりあえず、テントとかは遺跡に届けに行った時に買ったのがあるし、その他の必需品探しに行こうかな」


アルージェが立ち上がると、ルーネも目を開けて、立ち上がり伸びをする。


「よく考えたら必要な物自体は大体揃えてるから、同じもの買い足すくらいかな、それと少しお金も稼いどこうかな、きっとどれだけあっても足りないだろうし、またしばらくラベックさんのとこでお世話になろう!よしそうと決まれば行こうルーネ!」


そして、ミスティ達から連絡がないまま1週間が経過したが、

今日の仕事が終わってからで問題無いのでギルドに来て欲しいと通達があった。


この間にラベックさんのところで運送の仕事をしていたので、

アルージェの懐はかなりホクホクで、ルーネは毎日シュークリームを食べられてホクホクで非常に満足度の高い1週間だった。


ただ、王都に行くことをラベックさん話したときはかなり大変だった。

まずは行かせまいと引き留めから始まり、従業員達からの「飯いこうぜ!ここ居心地最高だろ!胃袋掴むぜ!」作戦、極め付けはラベックの娘さんリリィさんからの色仕掛けでどうしても手放したくないようだったが、全てを鋼の精神で乗り切り、ラベックさんも今回は諦めてくれた。


「初めて仕事に来た時、そして今回二連敗だアルージェ、ここまで頑なだとは思わなかったぜ!だが俺は諦めねぇ!王都から戻ってくることがあればまたウチにきてくれや仕事は捌ききれない程あるからよ!王都にいっても達者でな!ハハハハッ!」

アルージェの背中をバンバンとラベックは叩く。

間違いなく紅葉が出来ているだろう。


「では、これで失礼します!」

ラベックさんに頭を下げて、倉庫から出ていく時、従業員がアルージェとルーネに声を掛けてくれて温かい気持ちになった。

中には最後になるかもしれないからルーネをモフモフさせて欲しいという従業員もいて、

ルーネは満更でも無さそうにモフモフさせてあげていた。


「ほんと、居心地いいんだよね、ここ」

アルージェが呟く。


ルーネをモフモフしていた従業員は満足げに

「あんがとな!ルーネ最高!モフモフ最高!」と言い残し仕事に戻っていってルーネもこちらに戻ってきた。


「フンスッ!」

自身の毛並みを自慢するかのように鼻息が漏れる。


「ルーネも満足したみたいだね!それじゃあギルドに行こうか」

ルーネに跨り、ギルドへ移動を開始する。


ギルドに到着すると見覚えのある馬車が停まっていた。


バァンッとウェスタンドアを開くと、

音に反応してギルドにいた人が入り口を見る。


アルージェはそんなことお構いなくすぐに対応してもらえそうな受付がないかを見渡していると、奥からふわふわ茶髪の元気っこの受付嬢さんがこちらに気付きフィーネさんに声をかけに行っているのが見えた。


「あれ?このパターン夢で見たかな?デジャブ?」


奥からフィーネさんが笑顔で近づいてくる。


「アル君、今日もお疲れ様!ミスティさんが個室で待ってるわよ、ほら行きましょ」

フィーネはアルージェの手をとり個室へ移動を始める。


手を繋いで向かうのもだいぶ慣れてきたな、周りなんていつものことだと気にしてもないんだもんな。

人間の適応力ってすげぇよ!


個室前でフィーネが止まりノックをすると、「どうぞ」と返事があったので、

「失礼します」と扉を開けて入る。


アルージェとルーネもフィーネに続いて入ると

中にはミスティさんとマイアさん、それとブレイブライン辺境伯が優雅に紅茶を飲んでいた。


「え!?」

辺境伯がいると思わず、声が出てしまう。


「配達依頼の時以来だな、アルージェ君と言ったか、そんなとこに突っ立ってないで座りたまえ」


嫌な予感しかしないが、言葉に従い辺境伯の向かい側に腰をかける。


「それで早速だがアルージェ君、娘に物品の配達を依頼しただけでどうやったら魔法契約を結ぶことになるのかな」


「あー、えーと、僕から言い出した訳ではなくて・・・」


「ミスティが赤の他人である君の生活を保護すると言い出したということかね」


「まぁ、そういうことですね、経緯をお伝えさせていただいてもよろしいですか?」


「いや、必要ない、そこはミスティから全て聞いたよ、それを聞いて少し君に興味が出てね、命を救ってくれたんだろ?」


「僕が何かしなくてもミスティさん達ならどうにかなっていたかもしれないので命を救ったと言えるほど大層なことではないかもしれません」


「ふっ、具体的にどのようにして助けたのか聞きたいところだが、ミスティも君も何かを隠しているのは明白だな、まぁいい」

そういうと辺境伯はフィーネの方へ目線を送り、

「ギルドマスターに訓練場が空いてるか確認してくれないか?」


「えっ?訓練場ですか?」

フィーネは一瞬動きが止まったが、そのまま部屋から出てギルドマスターに確認にむかう。


「さて、アルージェ君、私は辺境伯だ、つまりこの国境に近い街フォルスタと周辺一帯が私の領地だ、必然的に戦いが起こった時すぐに対処出来るように備えている」


「えぇ、当然そのように理解しております」

アルージェは嫌な予感がするなぁと思いながら答える。


「そのせいか我が一族は少し変わった風習があってね、ーーー強いものが正義なんだ、何か気に食わないことがあれば決闘で決着をつける、変わっているだろう」


「そ、そうですね、すごく変わっていると思います」

目線を辺境伯から逸らす。


「是非ともミスティとマイアの命を救ったその力を見せてほしい」

辺境伯から殺気?オーラ?何かはわからないがアルージェに敵意が向けられる。


ドアがガチャリと開くとそれは収まった。


「辺境伯様、ギルドマスターに確認したところ訓練場は空いているようです」


「わかった、すぐに向かうとしよう、アルージェ君、受けるという認識で問題ないか?」

辺境伯がアルージェに確認をする。


辺境伯、外敵が侵攻してきた際に、本隊が到着するまで持ち堪えることが強いられる。

その為、武に対する思いは貴族の中では随一だと分かる。

それはつまり武に対して誠実で力こそ全てを体現する、言っていた風習も理にかなっている。


そこまで武に向き合ってきた辺境伯にどこまで対抗できるかはわからない。

幼少期から剣を振ってきたが、恐らく辺境伯だって同じだろう。


そこに辺境伯の一族が培ってきた技術、経験、太刀打ちできないとは思うがどこまで通用するのかは知りたい。



「君のその顔」

ブレイブライン辺境伯が指摘する。


無意識の内に笑っていたようだ


「武の人間だな」

辺境伯は嬉しそうに笑う。


「辺境伯と剣を交えられるなんて光栄です!」

アルージェは自身の感情を抑えられず大きな声で返事をした。

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