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第五十九話

あれからフィーネさんから報酬を受け取り、個室を出て帰ろうと扉の前まで移動したが、ルーネにまた袖を引っ張られる。

目的をまた忘れていると、教えてもらう。


「そうだった!本当に色々あって抜けちゃうよ!」

方向転換をして、受付の方を向くと、お見送りしていたフィーネが首をかしげる。


「フィーネさん!ちょっと教えてほしいことというか相談というかがあるんですけど、まだ時間ありますか?」


「うーん?ちょっと待っててね」と残し、受付に言って二言ほど交わしてから2階に移動を始めた。


10分程経っただろうか階段を降りてくる私服のフィーネがこちらに戻ってくる。


「今日はもう帰らせてもうことになったから、今からご飯行きましょうか、ルーネちゃんも入れるところだから安心してね」

そう言うと、アルージェの手を引き、ギルドを出る。


急に引っ張られたので、少しバランスを崩し「おおっと」と声を出してしまうが、すぐに立て直しついていく。


フィーネは足取り軽く移動する。


「料理屋はどの辺にあるんですか?」

手を引かれながらアルージェが確認すると「ここから少し歩いたところよ」と返事が返ってくる。


「ねぇ、ルーネ、僕とフィーネさんが乗っても動ける?」

時間が掛かるなら少しでも早く行ける方がいいと思い確認する。


「バウッ!」

余裕!と元気よく返事をもらった。


「フィーネさん、ルーネに乗ってみませんか?」


「えっ?」

立ち止まりルーネに視線を向けるとルーネは元気よく「バウッ!」と吠える。


アルージェの方へ視線を向けると既にルーネに跨っていた。


「さっ!フィーネさんも!」

そういってアルージェは手を伸ばすがフィーネはなかなか捕まろうとしない。


「ちょ、ちょっと怖いかなぁ・・・なんて」

そういって、モジモジするフィーネを見かねてルーネが、

フィーネを無理やりアルージェの後ろ側に乗せて移動を始める。


「ちょ、ちょっと!ルーネちゃん!」

フィーネは慌ててアルージェの背中にしがみつく。


それに気づいたアルージェはフィーネの方を少しだけ向いて、

「大丈夫ですよ、ルーネはすごいんで!」と誇らしく語る。


少し慣れてきたフィーネはアルージェの背中にくっついていたことに気付いたが、

「もう少しだけこのままで」と体勢を変えなかった。


それから数分で、目的地のご飯屋へ到着する。

「ルーネちゃん!あの青色の屋根のお店!」とフィーネが指示を出すと

ルーネは少し速度を落とし、店の前でピタりと動きを止める。


ルーネが止まったので、まずアルージェがルーネから降りる

フィーネからは少し「あっ」と声が漏れる。


「どうかしました?」

アルージェが振り返り、フィーネを見ると顔を背けて、「なんでもないです!」と言われた。


よくわからないなと思いながらアルージェはフィーネが降りるのをフォローする為に手を伸ばす。


「ありがとうございます」

フィーネはその手を取り、ルーネから降りる。


「ここ、すごい高そうですけど本当に合ってますか??」

店構えを見てアルージェがフィーネに確認するが、「はい、ここで間違いないですよ」と取った手を離さずにそのまま歩き始める。


アルージェはルーネに視線を送ると、ルーネは頷き後ろから付いてくる。


店の前にはドアマンだろうか、男性が立っていた。

「ようこそ、おいでくださいました、ご予約などはされていますでしょうか」


「いえ、していません」


「かしこまりました、空き状況など確認して参りますので、少々お待ちください」

そのままドアマンが中に入ろうとするが、フィーネが声をかけて引き止める。


「ついでにシェフにフィーネが来たと伝えていただけますか」


「かしこまりました、伝えて参ります」

そのままドアマンが中に入っていき、待つこと数分、扉が開き「フィーネ様、ご案内いたします」とドアマンが個室へ案内してくれる。


「フィーネさん、フィーネさん、シェフと知り合いなんですか?」

アルージェが興味本位で聞いてみると、「まぁ色々とね」とウィンクされてごまかされた。


アルージェとフィーネが席につき、ルーネは絨毯の引かれた床に座る。


「当店へお越しいただきありがとうございます、本日のコースはあちらでございます」

ドアマンが黒板を指す。


どうやらコース料理は決まっているようだ、

それにしてもよくわからないものばかりで食べられるか不安だ。


「それでは、ごゆっくりお寛ぎください」


ドアマンは綺麗な礼をして、個室から出ていく。


机にフォークが並んでおり、どれもピカピカに磨かれている。

外側からか内側からか前世でも習ったけど、「絶対使わねぇw」とか思って真面目に聞いてなかったことを少し後悔する。


ルーネの方をちらりと見ると、ルーネはうきうきで今か今かと料理を待っているようだ、

すごい勢いで尻尾を振る音が聞こえるから間違いない。


「アル君?」


「はい!?」

急に声をかけられたので驚き反射的に大きな声が出てしまう。


「ふふふ、緊張してるの?大丈夫よ、今日は2人だしテーブルマナーとか気にしないでも」


その言葉を聞きルーネが「ボウッ」軽く吠える。


「そうだったわね、ルーネちゃんも一緒だから三人ね!」

ルーネは満足そうな顔をしてまた尻尾をブンブンと振っている。


その様子をみてアルージェも少し緊張がほぐれる。

「そうですね、今日は気軽に過ごさせてもらいます」


「そうそう、アル君はまだ子供なんだから、難しいこと考えなくてもいいんだから」


そこで料理が運ばれてくる。

軽く食べられそうな茶碗蒸しのような料理だった。


テーブルに置かれているスプーンで一口食べる。

すごく美味しい。

そのままぺろりと完食する。


「アル君もルーネちゃんもお腹空いてるのね、私のも食べる?」


「えぇ、そんなの悪いですよ」

アルージェは遠慮するが、ルーネは常識の範囲で元気な返事をする。


「はいはい、どうぞ」


「こら!ルーネ!」

アルージェは躾ができてないと思われるのが恥ずかしくて叱るが、ルーネはお構いなしでフィーネの茶碗蒸しを完食していた。


「まぁまぁ、気にしないでいいから、それで、アル君の相談って言うのは?」


脚を組み替えて頬杖をするその仕草に、大人の魅力を感じる、先ほどまでのフィーネさんとは大違いだった。


目を合わせるのが恥ずかしかったので、少し俯き

「実は、王都にあるルミアス魔法学校に行こうかと考えてまして」


少し顔を上げてフィーネに視線を向ける。


「実は今回の依頼を受けて、まだまだ強くならないといけないと思ったんです」


「そっか・・・・、受付嬢の立場からだとアル君が決めたことだから応援するよ、でも私の立場から言うと行って欲しくないかな」

フィーネは少し寂しそうな顔する。


「私ね、アル君くらいの年になる弟がいたの」

フィーネが悲しそうに話始める。


「私の弟は動物と仲良くなるのが得意な子で、外に出たら自然と周りに動物達が集まってくる不思議な子でね、アル君と同じように10歳になったらすぐ冒険者になって、動物達と連携して上手に依頼をこなしてたなぁ」


フィーネの頬にツーッと涙が流れる。


「ずっとソロで活動してて、私がパーティに入ってって言っても動物達と連携が取れなくなるからって頑なにパーティに入らなかったのよ」

フィーネは頬を伝う涙を拭き取る。


「アル君を初めて見た時、ルーネちゃんとすごい仲良さそうで、それを見て弟の面影を感じたのそれから関わっていく内に弟と重なるとこが多くて、本当に弟なんじゃないかって思っちゃったもん、私がソロだと危ないからパーティに入ってっていっても全然入ってくれないんだもん、流石に笑っちゃったわ」

涙を拭き何とか笑顔を見せるが、目は赤くなっているのが見えた。


「だから、いつも良くしてくれてたんですね、疑問に思ってたんですけど納得です」



「そう、かもしれないわね」

フィーネ自身にも思い当たるところがあるようで誤魔化すような返事が返ってくる。


「弟さんは・・・?」


「依頼途中の事故で死んじゃったわ、弟みたいな戦い方する人達はテイマーって言うのかな?テイマーは使役しているものと連携しないと力を出せないのよ、もちろん例外もいるけどね、個人の力は皆無なの、剣に長けてる訳でも魔法が使える訳でもなくて、使役しているものが強いってのが一般的な認識ね、弟もそれで依頼中に使役しているランク以上の魔物と当たって死んじゃったみたい、死体も魔物に食い散らかされて残ってなかったわ」


フィーネはアルージェの方を見る。

「アル君もテイマーなんでしょ?だから本当に心配なのよ、王都までの道のりは子供の足なら3ヶ月はかかるの、その間に弟みたいにって考えたら私・・・」


どうやらフィーネさんは僕を本当に心配してくれているみたいだった。


「フィーネさん、ーー僕はそう簡単には死なないです、ルーネがいる、ミスティさん、マイアさんも居ます」


「でも「何より僕には神様がついてますから、そう簡単には死なせてもらえないですよ!」」


「神様・・・・?」

フィーネはアルージェの言葉を聞き理解は出来なかったが、何故か大丈夫だと思わせる何かを感じた。


「わかりました、その代わり王都に着いたら毎月ちゃんと手紙送ってください、それで今回は手を打ちます」


「絶対に送ります!」

この場に似つかわしく無いほど大きな声で元気よく返事をする。


「ふふふ、ここちょっとした高級店だから、静かにね」

フィーネは人差し指を立てて顔の前にだしてウィンクする。


「あっ、すいません…」


「フィーネさんの話聞いてたら僕も姉だと慕っていた人のこと思い出しました、血が繋がってる訳じゃ無いんですけどね」


「えぇ!?アル君そんな人がいたの!?聞いてないよ!」

先ほどまでの纏っていた大人な雰囲気を全て台無しにするフィーネであった。





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