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第五十七話

鍛冶屋を出て、ルーネに道案内を頼んで、冒険者ギルドへ到着した。


冒険者ギルドの前にはどこかで見たことあるような貴族様の馬車が停まっているが、

それよりも王都にいく方法が知りたいという気持ちが勝ち、気にせずギルドに入る。


バァンッとウェスタンドアを開くと、

音に反応してギルドにいた人が入り口を見る。


アルージェはそんなことお構いなくすぐに対応してもらえそうな受付がないかを見渡していると、奥からふわふわ茶髪の元気っこの受付嬢さんがこちらに気付きフィーネさんに声をかけに行っているのが見えた。


「あれ?フィーネさんとなんか約束してたっけ?」

とルーネに確認するが、ルーネも分からず首を傾げる。


「んー?」と考えていると、フィーネさんが鬼の形相で近づいてくる。


「あっ、フィーネさ」

声をかけようとすると、「アル君!!来て!!」とアルージェの言葉を遮り手を繋がれて「ルーネちゃんも一緒にくるように」と言い放ちそのままギルドマスターの部屋に連れていかれる。


道中「大丈夫、お姉ちゃんも一緒に謝ってあげるから、死ぬ時は一緒だよ」とよく分からない言葉を呟いていた。


フィーネがギルドマスターの部屋にノックし、中から「入れ」とギルドマスターの声が聞こえる。


「失礼します」

フィーネが先に部屋に入り、「アルージェ君をつれてきました」と報告する。

アルージェはとりあえず中を覗くとミスティさんが優雅に紅茶を飲んでおり、メイドさんは姿勢正しく後ろで待機している。

「あ、どうも」と頭を下げるとミスティさんがこちらをチラッと見て、紅茶に意識を戻す。

メイドさんを見ると丁寧なお辞儀をしてまた物言わぬ像と化した。


「こっちにこい!」

ギルドマスターから怒鳴られる。


「は、はい!」

ギルドマスターの圧に負けて直立し、腕も体にピッタリ沿わす。


「フィーネからの推薦でアルージェを今回の依頼に抜擢したが、これはどういうことだ、説明しろ」

ギルドマスターはかなりカンカンのようで、

魔力だろうか、それとも別の何かだろうか、不明だが、机の上に置いていた書類が風圧吹き飛ぶ。


フィーネはその圧に負けず、「申し訳ございません」とただ頭を下げている。


アルージェは今の状況についていけず、

「本当に何が起こっているのか把握できていないのですが、初めから説明してもらえないですか」と素直に言うとそれを聞いてギルドマスターは立ち上がり放たれる何かで後ろに飛ばされそうになるがルーネが後ろに立ち支えてくれる。


「お前は」とギルドマスターが口を開くとミスティがギルドマスターの言葉を遮る。


「私からお話します」


それを聞くとギルドマスターからの圧は収まり、椅子に腰をかける。


「アルージェ様には、はしたない姿(泣き崩れた姿)を見られた責任を取ってもらわないといけないと考えています」


その言葉に「えっ?」とすっとんきょな返事をする。


「それに私(の触手達)にあれだけ乱暴しておいてあの村に放置するなんて信じられない」


「ちょっと、外でお話しませんか?」

やったことは事実なのだが、その誤解を招く言い方が非常にまずい、何か反論しても余計に誤解を招く言い方をされると立場が本当にダメになるとアルージェは判断し、提案する。


「えぇ、構いませんよ」


返事を聞いて、ミスティと腕をとり、部屋の外に出る。


部屋から出る時にちらりと見えたギルドマスターとフィーネさんの視線が本当に怖かった。

当分は忘れられないだろう。


部屋から出て、人気のなさそうな場所を見つけたので、そこに移動する。


「ちょっと何でそんなに誤解を招く言い方するんですか!」


「少年はアルージェと言うんだな、名前を聞きそびれていたからちょうど良かった、それにしても、あの受付嬢はなかなかの胆力だな、ギルドマスターからの圧を受けてもあそこまで食い下がれる者はなかなかいないと思うぞ」


「いや、マイペースだな!こっちはミスティさんのせいで、打首の危険すらあるんですけど!?」


「ははは、そうだろうな、貴族の言葉は重いからな」


「もしかして僕に負けたから怒ってるんですか?」


「まぁ、それも少しは有る、怒っていると言うよりかは少し拗ねていると言ったところだろうか」


「そ、そんなぁ、でもミスティさんを止めてなかったら、村の人達は・・・・」

「そうだな、あの村はおそらく無くなっていただろう」


「な、なら!」


「しかしな、私も人生を賭けてあの本を探していたんだ、アルージェには分かるか、

メイドから悪魔憑きだと罵られ疎まれ、誰からも相手にされない幼少期、母からは娘だと思えないと言われ、社交パーティにも出たことが無い、そんな少女が抱いた、たった一つの小さな願いの為に人生を賭けた計画をただの少年に潰されたこの気持ちが」

冷静に振る舞ってはいるが、内に秘めた怒りを抑え込んでいるのが分かる。


「・・・・・っ」

想像を絶する程の痛み、ミスティさんの心の叫びを聞いた気がする。

想像しただけでも辛いそんな心の叫びにアルージェは言葉を失った。


「そんな顔をするな少年、もう割り切った過去の事だ、正直、今はあの時止めてくれたことに感謝しているよ、どうやら私はただ利用されていただけだったみたいだからな」

ミスティは悲しみを帯びた顔で遠くを見つめる。


「それに、村人達には何故地震が起きたのかも言わないでくれたんだろ?優しいな君は」

そう言ってアルージェの頭に手を置く。


「ありがとう、少年、君は恩人だ」


アルージェは顔を上げてミスティの方を見るとミスティはとても綺麗で微笑む顔にドキッとした。


「おや、今私のことを見て少し心が揺れたか? いいぞ、アルージェなら結婚しても」


「な、何言ってるんですか!僕を子供だと思って!」

アルージェはプイッと顔を背ける。


「からかいが有るな、君は、ふふふ」

ミスティがアルージェの頬を撫で、「さて」と呟く。


「アルージェはこれからどうするんだ?」


「そうだ、今日来たのは王都の魔法学校に行こうと思ったから距離感とか聞きに来たんだった」


「ふむ、そうか、ならまずは皆の誤解を解くことからだな」


「そうだった、ミスティさん、みんなに誤解だったって言ってくださいよ、このままじゃ僕本当にこの町から追い出されちゃますよ」


「ふふふ、そうだな、誤解だったと皆に言うのは構わないが、条件がある」


「できる事ならしますよ、ただ当分は王都の方にいるので帰ってきてからになりそうですけど」


「ん?あぁその辺りは大丈夫だ、私は人生を賭けてやっていた事が誰かさんのせいで全て水の泡になったから、やることがないんだ、だから君たちに同行しようと思っている、もちろんいいな?」


「えっ?一緒に王都に行くんですか?辺境伯様から許可が出るならいいですけど、ただ一緒に行っても楽しくないですよ?」


「家に戻ってもどうせ皆に嫌な顔されるだけだからな、君と一緒にいる方がよっぽどいいさ」


「はぁ、わかりました、なら一緒に王都に行きましょう、ただほとんど野営ですよ、そんなに余裕があるわけじゃないんで」

どうにかしてミスティがついてこないように条件をつけるが、「あぁ構わん、私もマイヤも野営は慣れてるぞ」とひらりひらりとかわしてくる。


「そ、そうですか、ならいいですけど」


「どうにかして、行かないようにしたいのが見え透いてるぞ、アルージェ、誤解とかなくてもいいのか?」


「うわー、ミスティさん達と王都に行くの楽しみだなぁ!ハハハ!」


「そうだろうそうだろう、初めからそう言ってくれたらさらに可愛いのにな」


「揶揄わないでくださいよ!」


「ははは、可愛いやつめ、さぁ皆が待ってるぞ、早く誤解解いて、王都にいくぞ」

そういってミスティさんに手を引かれてギルドマスターの部屋に戻っていく。

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