奥様方の井戸端会議で仕入れた情報を信じて、
表通りに新しく出来たと言われていた鍛冶屋に来たのだが、本当に鍛冶屋か?
と思うほど綺麗な見栄えの店がそこにはあった。
鍛冶屋なのに中が見えやすいように道に面してる箇所は全てガラス、扉はよくわからないクルクル回る扉。
なんだろこういう鍛冶屋も需要あるんだろうかと、貴族様が買いに来るんだろなぁ、
ほらあそこになにやら家紋が付いた馬車が停まってるしなぁなんて考えながら
店の中に入ると、
シュッとした、いい感じの男性店員が、背筋をピンッと伸ばし、パリッとした服を着て立っていた。
男性はこちらに気付き優雅に近づいてきて
「何かお探しでしょうか」と良い声をかけてきた。
どう考えても場違い感の有る服装で入ってきているのに、なんて丁寧な対応なんだと感激しながら
「以前、冒険者ギルドから紹介された鍛冶屋がこの辺りに移転したと聞いて探しているのですが」とアイテムボックスから冒険者ギルドに加入した時にフィーネさんからもらった地図を取り出し、「ここにあった鍛冶屋なんですけど」と地図上の鍛冶屋の記号を指挿しながら男性に見せる。
「なるほど、少々お待ちくださいませ、店主に確認して参ります」
綺麗なお辞儀をして、裏の鍛冶場へ優雅に移動して行った。
「ルーネ、前にきてた鍛冶屋此処だと思う?」
「ワウ!」
ルーネからは間違いないと確信が伝わってくる。
「ほんとかなぁ、確かにあの鍛冶屋は武器の作り良かったよ、誰にでも使えるようになってしね、でも平均的な作りの武器で此処まで成り上がりができるもんなのかな?」
「バウッ!」
それでも、ルーネは以前来た鍛冶屋だと脳内に訴えてくる。
ルーネと話していると奥からバタバタと騒がしく、見慣れた店主が現れる。
店内を見回し、アルージェの姿を捕捉すると、全力で走り込んでくる。
「待ってたぞ!!坊主!!」
久しぶりに見たけどこんなキャラだっけと思いながら、
「本当にここに移転したんですね!武器の修繕がしたくてお店に行ったんですけど無くなってたんでびっくりしましたよほんと!修繕は諦めて、新しく買わないといけないかと思いました!」
「いやー、すまんな、坊主が作って譲ってくれた短剣がたまたま王様直属騎士団の団長の目に止まって、それからはもう訳のわからないまま、王様に謁見、短剣を献上、その後褒美として、店をこんなところへ移転、壁を壊して店ガラス張りにされるわ、もうこっちが意味わかってねぇよ」
店主が早口で話すのでアルージェもついていけず、
とりあえず万能相槌の「大変だったんですねぇ」を放つ。
「坊主もわかってくれるか」
そういい何故か暑苦しい抱擁をされる。
もちろんあんな暑い場所で仕事をして汗だくなので匂いがしょっぱいし、
きている服もびちゃびちゃである。
そして何より、力が強い。
明らかに子供に対して出す力ではない。
気絶しそうになったが、ルーネが服を噛み引っ張って助けてくれた。
「ありがとう、ルーネ、気絶するかと思ったよ、うぅ、なんか服が濡れてる」
アイテムボックスから布を取り出し、服を拭く。
ん?なぜだか少し空気が冷えた気がするが気にしない。
「店主さん、短剣を作らせてもらった時の話って覚えてますか?」
「あぁ、武器修理をする場所にさせてほしいってやつだよな!」
「そうです、ちょっとすごい戦いをしてしまったので、手持ちの武器がほぼダメになったので、修理したいんですが、今日とか使えますか?」
「その言葉、待ってたぜ、坊主、ついてこい」
そういうと、店の奥へ移動したのでアルージェとルーネもついていく。
「ここだ!」
部屋の中を覗くと鍛冶のために必要な炉や道具が揃っていた。
「坊主専用の鍛冶スペースを勝手に作らせてもらった、俺はあっちのスペース使ってるからここは勝手に使ってくれ、ここに入るには店先にいたロランドに声を掛けてくれ、んじゃ俺は仕事に戻るぜ、店がどこになったって俺にできることは鍛冶だけだからな」
そういうと颯爽と自身の鍛冶部屋に戻っていった。
「ありがとうございます!」
アルージェが頭を下げると店主は振り返ることもせず右手を上げた。
「よっしゃ!武器修理するぞ!ルーネ手伝ってくれる?」
「バゥ」
疲れてるから嫌だと脳内に伝わってくるが、「そういえば、今回かなりの収入があったしシュークリーム食べたくない?」と聞くとやったるワン!と脳内に伝わってくる。
「相変わらず、現金なやつだなぁ」と苦笑いする。
「あれ?そういえばここの店主さん名前聞いてなくない?、まぁいいか」
そのまま作業に取り掛かる。
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あれから何日が経っただろうか、
鍛冶屋と宿屋を往復し、
来る日も来る日も武器の修理、打ち直しを繰り返す日々だった。
ルーネも帰りに毎日シュークリームを買ってあげると手伝ってくれるので、
かなり効率的に作業が出来た。
そして最後の一本の打ち直しが終わる。