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第五十話

圧倒的な物量で押してくる、無限に生えてくる触手を見て、アルージェの心は折れなかったが、

それでも先ほどまでのように近づかせてくれることはもうないだろう。


落としたショーテルと拾い接敵を試みるが、近づくことができない。

極太触手を切り裂いたショーテルの切れ味も限界を迎えており、使い物にならない。


「もう近づかせることはない、最大のチャンスを逃したな少年」

ミスティは短剣を構える。


何か手がないかとスラ弓を取り出し矢を放つが、先ほどよりも増えた触手に矢も弾かれる、ジャベリンは投擲しても全て別の触手が受け折られる。

先ほどまでのようにミスティも受けるばかりではなくなった。

ミスティが短剣を振るいアルージェの近くに影を出し触手で攻撃を行う。

全てかわすか、切り裂くかで対応しているが、切り裂くことで武器が消耗し、アイテムボックスには武器の余裕もなくなる。


「本当にまずい、勝ったと思って油断して、チャンスを無くすなんて、剣士として最低だ」

何か打開できるものがないかと辺りを見渡すが、圧倒的な物量の触手しかない。


「あの武器もなんだ、無限に触手を出せる短剣?流石に性能壊れすぎでしょ、ミスティさんは全く消耗してる様子がない、えげつないマナ容量なのか、いやそんなはずはないはずだ、これはただの願望か」

ミスティの近くにある触手に目がつく、先ほどミスティに近づくために二本のショーテルで切り裂いた極太触手がアルージェが切り裂いた形でウネウネと動いていた。

「触手が回復しないのが、救いか、ん?」


ミスティの周りにある、触手はほとんどがアルージェが切り裂いた触手が集まっていることに気づいた。

「回復しないなら、もう使えないのだから普通は消すよな、なんで残す、もう纏わないって言ってた、もし、触手は定量だとすれば、ただ使いまわしていただけ?」

アルージェは最後まで抗おうと決める。

覚悟を決めて持っていた、武器を地面に落とす。


その様子を見ていたミスティは

「少年はよくやったよ、私も心優しい少年を殺すのは流石に心にクる、降参するなら命まではとらないさ、四肢は動かせなくなるだろうが私が養ってあげよう」


「負けられない、負けられるはずがない」


アイテムボックスから二本の剣を取り出す、どちらも一本の剣として作られたが、

対になっているのではないかと思えるほど形の似た二本の剣。


アルージェの誕生日にもらった剣と、シェリーが生きていれば貰うはずだった剣を両手に持ち構える。


「村の人達の為負けられない、僕を信じて先に進ませてくれたルーネのために負けられない、ここまでずっと修行をつけてくれた両親の為に負けられない、何よりこの剣を持つはずだったシェリーの為に負けられない」


覚悟の決まった顔をミスティに見せる。


「シェリー、一緒に戦ってくれるかな?なんてね」

「もちろんだよー!」


声がしたような気がしたので辺りを見渡すがミスティしかいない。

アルージェは少し微笑み「じゃあ行こうか!」と真正面からミスティに向かっていく。


「気でも狂ったか!!」

ミスティは追い込まれすぎて少年は気が狂ったと思ったが、笑いながら向かってくる。

アルージェを見て、短剣を振り抜き触手で妨害をする。

だが先ほどまでと比べ動きが違った、無駄のない動きで二本の剣を使い全ての触手を避けずに切り裂いていく。


全て切り裂くアルージェに対し、短剣を振り抜き鞭を扱うように極太の触手をアルージェに叩きつけようとするが、それも二本の剣に切り刻まれる。

「クッ、ならこれで」

単体で運用していた触手を複数での運用をし、アルージェにぶつけようとするが、アルージェもそれら全てを負けじと切り刻む。


「何故だ、どこにそんな力が残っている!!」

ミスティは明らかに動揺し、焦り始めていた。


その様子をアルージェが見る。

「やっぱり思った通りか、なら僕の体が動かなくなるまでやってやる」


ミスティは何度も物量で攻めてくるが、全て切り裂き徐々にアルージェが近づいていく。

無傷の触手だけではなく、ミスティの近くにあった傷ついた触手も戦闘に加え始めるが、無傷の触手よりも射程の短かない触手などここまできたら大したことない。

触手を使ってアルージェの周りを繭状に固めて動けなくするが、それすらも全て切り裂く


自信の管理下にある、触手の数が明らかに減っていくことを実感していた、

「なんで、なんで、そこまで頑張れるの、もう止めてよ!私はただ普通の女の子になりたいだけなんだよ!なんで!なんで邪魔するの!!」

先ほどまでの余裕な口調は崩れ、子供のような口調でミスティはアルージェに訴える。


それでもアルージェは触手を切り裂き、ミスティに近づいていく。


「やだ!やだ!こないでぇ!なんで私のちっぽけな願いも壊そうとするの!やめてよぉ!!」

今管理下にある触手を全てアルージェにぶつけていく。


アルージェが目の前に現れる。

短剣で触手を動かそうとするが、「あっ」とミスティから声が出る。


管理下にあった触手は全てアルージェに切り裂かれすぐに使用できるものはなくなっていた。


「僕の勝ちだ」

アルージェはミスティの頭にポンと手を置くと、

ミスティの短剣は手から滑り落ち、膝から崩れ落ち、ペタンと座り込み、「負けちゃった・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も呟き、涙を流し始めた。


アルージェはミスティがもう戦えないことを確認して、光の柱を止める方法がないかを確認していたが、

中にあった一冊の本を取ると、光の柱が収まる。


「これで地震も起きないし、あの村も大丈夫だな」


手に取った本を確認せず、アイテムボックスへ入れて、ミスティに声をかける。

「ほら、ミスティさん村に戻ろう?ここは崩れそうだし危ないよ」


声をかけたが全く動く気配のないミスティの手をとって「ほら、いこう」というと

力なく立ち上がり、アルージェに手を引かれてただついてくる。

落ちている短剣をとりあえずアイテムボックスに入れる。


ミスティを連れて、遺跡の入り口付近まで移動すると、

ルーネがお座りしているのが見えた。

その隣にはメイド服の女性がうつ伏せ倒れているのが見えて、勢い余って殺しちゃったのかと思ってドギマギしていると、ルーネは鼻先でメイド服の女性を転がして仰向けにすると、

息をしているのがわかった。


「お疲れ様、やるじゃん」とルーネに向かって言うと、「バウッ」と鳴き声と今までにないほどのドヤ顔を見せてくれた。


「なら村に戻ろうか、ルーネ背中にメイドさん乗せられる?」

確認すると、器用に鎖を使ってメイドさんを背中に乗せてテトテトと歩き始める。


村につく頃には夜が明けていて、少し明るくなっていた。

入り口に着くと村人達が集まってきて、戻ってきた三人と一匹の怪我に効きそうな薬草を持ってきてくれた。


その騒ぎに気付き、村長夫妻が家から出てくる。

「よう戻ったな、飛び出したと聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったわ、だがお主達が飛び出したおかげで助かった命があったんじゃな」

そう言ってミスティさんとメイドさんの方を見る。


「そうかもしれないですね、あの光の柱が起こした地震のせいで遺跡が崩れてミスティさんが巻き込まれていたので助けてきました、詳しいことを伝えたいんですけどそろそろ意識が限界みたいで休ませてもらますか」


「あぁワシの家でぐっすり寝るが良い」

ルーネはメイドさんをミスティさんが看病されているところに連れて行き、そのまま村長の家に戻ってきた。

ただそこからの記憶は無い。



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