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第四十二話

門を出て、薬草の採取ポイントである森までルーネに乗せてももらう。


「よし、ルーネこの辺りからゆっくり行こう。動物の肉も取る必要があるから、なるべく物音を立てないようにしないと。流石にこの辺りにはいないだろうから、薬草を取りつつ、少しずつ奥に入っていこうか」

アルージェの言葉にルーネは小声で返事する。


薬草は思っていたより簡単に見つかった。

これはロイから教わっていたおかげだ。

まさか森での生存術がここまで役に立つとは思っていなかった。


ちなみに見つかった薬草をルーネに匂わせると匂いがきつかったみたいで牙を見せて怒られた。

ただ、匂いは覚えたようで、採取の効率が上がった。


「薬草はこれくらい取れれば僕が使う分もあると思う!ルーネありがとう!次は肉だね」

動物がいた痕跡を探して、痕跡のありそうな場所を見ていく。


アルージェがルーネに止まるように指示を出す。

ルーネはアルージェの指示後ピタリと立ち止まる。


アルージェがアイテムボックスからスラ弓を取り出し、矢を番える。

そして狙いを定めて矢を放つ。


「グオッ」

矢が命中したのだろうか動物の鳴き声が聞こえる。


「よし、ルーネ見にいこう」


アルージェが確認に行くと鹿の様な動物の目に矢が深く刺さっていた。

どうやら即死したようだ。


「ごめんよ」

アルージェは手を合わせて、血抜きを始める。

その後手際よく内蔵を取り出す。


取った内臓をルーネに渡してみるが、牙を見せ怒り始める。

「ルーネはこういうの食べないんだね、まぁ好物がシュークリームだもんね」

持って帰るか悩んだが、二束三文で売れるだろうと思いアイテムボックスに収納する。


「よし、肉も確保できたし町に戻ろうか」

肉もアイテムボックスへ収納して、水筒を取り出す。

手を洗ってからルーネに跨るとルーネは町まで駆け抜ける。

門に着くとまだそこまで混んでいなかった。


「流石に昼過ぎくらいだとまだみんな戻ってきてないんだね」

門番にお疲れ様でーすと声をかけて、ギルドカードを見せると何事もなく町に入れた。


アルージェ達がギルドに戻ると、声がかかる。


「おぉ、アルージェ!今日も運搬の依頼か?」

アルージェが振り向くと、張り裂けそうなほどの筋肉にピチピチのハイレグを着て筋肉を見せつけるモヒカンの男性が立っていた。


「いやー、実はブロンズになったから、今日は初めて町の外に出たよー!」

側から見れば不審者に見えるが、ギルドでの顔見知りである。


初めはその服装のせいで危ない人だと思っていたが、実はシルバーランクの冒険者だ。

討伐依頼で程々に稼いで後はじいちゃん、ばあちゃん達のお手伝い依頼を受けている善人である。

そんな生活をなぜしているのか本人に聞いたことがある。

本人曰く「俺は小さい時はじいちゃんとばあちゃんに育ててもらったからせめてもの恩返しがしたい」そうだ。


「おぉついにか!でもアルージェにはそんな依頼も簡単だろうな!ルーネもいるし」


「ふふふ、ルーネのおかげでこんな時間に終わったよ」

アルージェは少し誇らし気に話す。


「おぉ、やるじゃねぇか」

男性はルーネの方を見る。


「アルージェのこと頼むな!」


男性の言葉にルーネは「ガウッ」と力強く返事をする。

「ルーネは良いやつだなぁ!」


「依頼帰りだから受付行ってくるよ」

アルージェはモヒカン男との会話を区切り受付に向かおうとする。


「おう!足止めして悪かったな!」

モヒカン男はアルージェに手を振りギルドから出て行った。


アルージェが受付に行くと受付はフィーネさんではなく初めて見る人だった。

髪色は薄いピンク、長さは肩くらいまで伸ばした女性。


「こんにちは。達成確認をお願いしたいんですが」

アルージェが声をかける。


「はーい、お疲れさまでーす」

おっとりした返事が返ってくる。


まずは依頼票を提出する。

「依頼は〜、薬草採取と肉の調達ですねー、確認してもいいですか〜?」

アルージェは言われた通りアイテムボックスから薬草と鹿を取り出す。


「アイテムボックスですかー、いいですねぇ」

受付嬢はルーペのようなものを取り出して、物を確認していく。


「はーい、確認できましたぁ。こちら報酬明細でーす。確認して問題なければサインお願いしまーす」

明細は確認すると血抜きをしていたので、肉の報酬が少し高く設定されていた。


「文字書けないんですけどどうしたらいいですか?」


「ならー、拇印でも大丈夫でーす」

アルージェは朱肉を親指につけて押す。


「はーい、ではこちらが報酬でーす」


「ありがとうございます!」


そのままルーネの為にシュークリームを買って宿に戻り、ベッドに腰掛ける。

「外に出ると疲れるねぇ」

アルージェルーネと話していると夜が更けいく。


翌日もギルドに仕事を受けるために向かう。

ギルドに入るとアルージェを見て近づいてくる男性がいた。


「アルージェ!うちのパーティ考えてくれたか!?」

男性はアルージェの近くまで来ると声をかけてきた。


「ゲッ」

アルージェから声が漏れる。


「ゲッとは失礼だな」

この男はリッキー。

アルージェの仕事ぶりを見て、自身がリーダーをしているブロンズランクパーティ「ゴールドウィング」に誘ってくれている。

ルーネが居るからと断っているが、熱烈な勧誘をしてくるので、少し苦手なのだ。


「い、いやー、前にも言ったけどルーネがいるからあんまりパーティは考えてなくて」


「君とルーネがうちのパーティに入ってくれたら完璧な布陣なんだよ!そこをなんとか!」

確かにリッキーが居るパーティは非常にバランスのいいパーティだ。

タワーシールドを担ぎヘイトを集める戦士が敵からの攻撃を受けて、魔法使いと二刀流の剣士が殲滅する。

すでに十分すぎると思うが、ルーネと僕に偵察役をしてほしいと打診があった。


確かにパーティを組めば、安定してお金を稼ぐことができるようになるだろう。

だが、パーティみんなで達成金を分けるので、どうしても一人当たりの収入が減る。

そしたら稼ぎを増やす為にその分多く依頼を受ける必要が出てくる。

そういう点であまりパーティを組むことにメリットを感じていないのだ。


それに今はまだ悪い人とは思わないが、何か一つ気になることができた場合。

連携が難しくなり、効率も悪くなるだろう。

何よりルーネがパーティを組むことを望んでいない。


「何度も誘ってくれてありがたいけど、今は本当に考えてないんだ。ごめんよ」


「そうか。今回も一旦引くが、でも俺は君を諦めないからな!」


「は、はぁ」

良い加減、別の人を誘った方がいいとは思う。


そんなこんなで依頼が貼られるのを待っていると、ふわふわ茶髪の元気っ娘受付嬢が僕を見つけてこちらに駆け寄ってくる。


「アルージェさん!少しいいですか?」

受付嬢にもここ何週間かずっと真面目に仕事しているので名前を覚えてもらえていた。

アルージェには幸太郎としての記憶もある。

日本にいた時に短期バイトなんかもしたことがあった。

その時に教わったことをこの世界でもしただけなのだが、どうやら勤勉だと評価をもらったみたいだ。


「あ、えっ、はい?」

朝から元気な受付嬢に気圧されて、アルージェは返事が出ない。


「アルージェさんに頼みたいことがありまして!奥の部屋でお話、大丈夫ですか?」

奥の部屋ということはどうやら僕を指名した依頼があるらしい。


「はい、お願いします」


「では!ついてきてください!」

元気っ娘受付嬢に奥の部屋に通される。


「ルーネも一緒に行って大丈夫ですか?」


「アルージェさんの大事なパーティメンバーなんですよね?大丈夫ですよ!」


「ありがとうございます。ルーネ行こう!」


「ウォウ」


奥の部屋は個室になっており、防音設備などが完備されている。

一応冒険者もギルドに言えば貸してくれるらしいが、使ったことはない。


部屋の中に入ると、フィーネさんが立っていて、手を振ってくれる。

この場で手を振りかえすわけにもいかないので、軽く会釈をする。


「ギルドマスター!アルージェさん連れてきました!」

元気っ娘受付嬢がギルドマスターに声をかける。


「おう、助かった」

歳を取って見えるが、筋肉の発達は若者よりもすごい男性が立ち上がる。

どうやらあの人はギルドマスターのようだ。


ギルドマスターはこちらを見て、まず奥にいるルーネを見て持っていた剣に手をかける。

だが手前にいたアルージェに目を向けて剣から手を離す。


「お前がアルージェか」

ギルドマスターはアルージェを値踏みするように下から上へと目線を動かす。


「ただの子供じゃねぇか!フィーネ、本当に大丈夫なんだろうな?」

ギルドマスターはフィーネの方へ視線を移す。


「はい、アルージェ君以外に適任はいないと思われます。初受注時に以降スビア商会のラベックさんからずっと指名を受ける程、スビア商会からも信頼が厚いです」

フィーネがギルドマスターに返答する。


「ラベックがかなるほどそりゃすごいな。アルージェ、こちらに来い」


「はい」

実際はたまたまアイテムボックスを持っていて、たまたまルーネに乗って最速で商品を届けられるだけだから指名されていただけだ。

あくまで自分の実力では無く、偶然だとアルージェは考えている。

だが、スビア商会としてもその”だけ”が喉から手が出るほどの逸材だったのは間違いない。


アルージェはギルドマスターへ近づくと、ソファーに腰掛けていた男性の方へ体を向かされる。

この辺では見ないかなり質のいい服を着た男性。


「こちらはブレイブライン辺境伯様だ」

ギルドマスターから紹介が入る。


「ブレイブラインだ。よろしく」

男性はそういうと右手を前に出してきた。


「お初にお目にかかります。アルージェと申します。そしてこちらがパーティメンバーのルーネです」

アルージェはなるべく失礼の無い様に返答し、握手を交わす。


「ほう」

ブレイブラインはアルージェを興味の目で見るが、すぐに表情を戻す。


「今回はこちらが頼む側だ。そこまで堅苦しくならないでくれ」

ブレイブライン辺境伯からそのまま着席するように促される。


「失礼します」

アルージェはギルドマスターの隣に着席する。

ルーネはアルージェが座ったソファーに横に移動し、お座りをする。


「さて、早速だが、依頼の詳細について話したいと思うのだが構わないか?」


「はい、お願いします」


「依頼は実にシンプルで簡単だ」

ブレイブライン辺境伯がそばにいた執事に合図を送る。


執事は自身の腰に携えていたすぐにアイテムボックスから、 小箱を取り出す。


「この箱を娘に届けてもらいたい、ただし中身を見ないでほしい」


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