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第四十一話

鍛冶屋でアルージェが短剣を作成してから数週間が経った。

あの日アルージェが作った短剣はグレンデの再来と喜ばれ、付与魔法もかかっていないにも関わらず王都にいる王の元にまで届けられた。


そんなことも知らずにアルージェはルーネと一緒に何度も荷物運びの依頼を受けては、宿に戻って寝る生活を繰り返している。

こんな生活だが安定した生活を送れるほどに稼いでおり、先程ブロンズランクに上がった。


日本の感覚なら遅いように思うかもしれない。

自分もそう思った。

小、中、高と学校は週五で行っていたし、週五で動くのが当たり前だと思っていたからだ。


だが、週五で働こうとすると受付のフィーネさんから待ったが掛かった。


「アル君!若いからってそんな無茶な働き方したらダメです!」だそうだ。

冒険者達は命の危険と隣り合わせで働いているので、そこまで働かないらしい。


受けている運搬の依頼はスビア商会のラベックさんがアルージェを指名した依頼ばかりだ。

ここ数週間ずっと熱烈なスカウトを受けているが、うまいこと言ってかわしている。


一番驚いたのは「今、うちに来てくれたら自慢の娘リリィを嫁にやる。家事はもちろん。読み書き計算なんでもこなす最高に可愛い娘だぜ」とラベックさんに言われたことだった。

「何言ってるんですか。リリィさんの意思も尊重してあげてください」とアルージェは断ったが、リリィさんも「アルージェさん。絶対に後悔させません!」と乗り気だったことに衝撃を受けた。

「リリィさんは綺麗だし、僕みたいな冒険者よりもっといい人見つかりますよ!」と言って乗り切っている。


初めは強引な勧誘に苦手意識は若干あったが、一線を引いてくれていて無茶苦茶な勧誘は絶対にしてこなかった。


そこらへんも踏まえてラベックさんにはとても感謝はしている。

ラベックさんが僕を指名して依頼を出してくれているおかげで、アイテムボックスに入ってる武器を売らずとも生活できるようになった。


だがブロンズランクになったのでこれから受ける頻度が下がるかもしれない。

町の外に出ることができるようになったからだ。

これはラベックさんに事前に伝えておいた方がいいだろう。


まぁ、それは明日に回そう。


「ルーネ!やっとブロンズランクになったからお祝いとして美味しいもの食べよう!!」

アルージェの言葉にルーネは目を輝かせて、「バウッ!」と吠える。


「何食べようかー?」

「アウゥゥ!」

「えー、シュークリームはご飯じゃないよー」

「クゥウ・・・」

「なら、ご飯食べた後シュークリームも買いに行こうか!夜食にしちゃおう!」

「バウッ!?」

「いいよー!よし、なら決まりだね!まずはご飯食べ行こう!」


シュークリームを食後のデザートにすることを約束してご飯に行くことになった。


そして翌日。

結局昨日はいつもの食べ歩きをした。

最後にシュークリームを買いに行くと屋台の店主が「シュークリームの良さがわかるやつが遂に現れたか!」と嬉しそうにしていた。

店主は上機嫌でシュークリームを大量におまけしてくれて、ルーネは歩き方で機嫌の良さが伺えた。


「けど今日の朝ごはんにもなると思ったら、まさかルーネ全部食べちゃうなんてね。流石にびっくりしたよ」

アルージェがシュークリームに手を伸ばすと、ルーネは前足でアルージェの手を払う。

それから威嚇をされて、一つも食べられなかった。


「まぁルーネの為に買ったからいいんだけどね。さぁ朝ごはん食べてからギルドに依頼受けにいこうか!今日からブロンズランクの依頼が受けられるよ!」


「バウッ!」

アルージェ達は受付にいるカティに朝食をお願いする。

カティさんが厨房から大盛りの朝食を運んでくる。

店主さんのご厚意で朝食は毎朝大盛りで出してくれる。


「店主さん!いつもありがとうございます!!!」

アルージェが厨房に聞こえる様に叫ぶと、厨房の入り口から握りこぶしが出てきて、見えたところで親指だけ突き上げられた。

ここまでの流れが様式美になりつつある。


ルーネと一緒に出てきた食事を全て胃に流し込み、アルージェはカティに話しかける。

「カティさん!僕達遂にブロンズランクに上がったんで、外の依頼を受けて遅くなるかもしれないです!」


「アルージェさん達遊んでいるように見えてちゃんと仕事していたんですね。驚きです」


「えぇ!?なんか辛辣・・・。そんなに遊んでるように見えます?」


「いえ、冗談ですよ。最近スビア商会の方とお話することがあったのですが、アルージェさんのことを絶賛してましたよ」


「えっ、繋がりがあるんですか?」


「はい、日用品は昔からスビア商会から購入しております。配達の時に軽く話に挙がってアルージェさんがどれだけ優秀かを聞きました」


「なんか恥ずかしいですね。仕事ぶりを言われてるのって」


「まぁ、悪い噂じゃないですからいいのではないですか?それよりそろそろ出ないといいクエストを受けられなくなりますよ」


「うわっ、ほんとだ!それじゃあ行ってきます!カティさん」


「はい、いってらっしゃいませ。今日もおかえりをお待ちしております」

カティはいつも通りとても綺麗なお辞儀でアルージェ達を見送る。


ギルドには鐘が鳴るギリギリに到着した。


「あぶなぁい!鐘が鳴る前になんとかついた!」

ルーネがいなかったら間違いなく間に合ってなかった。


「ルーネ、本当に助かったよ!」

アルージェがルーネの頭を撫でると、ルーネはやれやれと首を横に振る。


今日からブロンズランクの依頼を受けられる訳だが、ブロンズランクの依頼は基本的に大した依頼はない。

もしかするとラベックさんからの指名依頼を受けてる方が稼ぎは多いかもしれない。

ただブロンズランクの依頼を受けて何度か達成しないとシルバーランクに上がることはできない。


ブロンズランクの依頼には、薬草採取や肉の調達はもちろんゴブリン退治なんていう討伐系の依頼もある。


シルバーランクに上がるにはこういった依頼を一定数受注して、成功させる必要がある。

ゴブリン退治はパーティを組めば割と楽に達成できるらしい。

だが、ルーネがいるので、今のところはパーティを組む気はない。


ゴブリンについては前にルーネと出会った時に嫌ってほど倒したから当分は見たくない。

ただ危険と隣り合わせな依頼の為薬草採取の依頼より稼ぎは良い。

薬草採取ばかりしていたら宿に払えるお金がなくなる可能性があるから、いつかは討伐系の依頼も受ける必要も出ると思う。


そんなことを考えていると九時を知らせる鐘が町に鳴り響く。

受付嬢達が慌ただしく依頼票を掲示板に張り出していく。


「ブロンズだから大した依頼ないかもだけど僕も探さないと。ごめんだけど、ルーネここでちょっと待っててね」

アルージェが告げるとルーネはおすわりをする。

そして脳内に「了解」と意思が伝わってくる。


掲示板の方へ移動するとパーティを組んでいる人達はどれにするかという相談をしている。

ソロで活動している人はお目当ての依頼を見つけて、すぐに受付まで持っていく。

アルージェも掲示板に張り出されている依頼をマジマジと確認する。


「ふむ、ブロンズになると町から出ることが出来るようになるから、受けられる依頼は沢山あるな」

薬草採取、動物肉の調達、ゴブリンの討伐、コボルトの討伐、下水道に出たスライムの討伐等どちらかというと討伐系が多いように見える。


「薬草採取と動物肉の調達をまとめて受けて、少しでも稼げるようにしようかな」

アルージェが二枚の依頼票を掲示板から取り、受付に持っていくと久しぶりにフィーネさんが受付をしていた。


「アル君!」

フィーネはこちらに気付くと笑顔になり、軽く手を振ってくれる。


少し恥ずかしくなりながらも僕も小さく手を振りかえす。


「おはようございます。フィーネさん、この依頼を受けたいんですが」

そういって二枚の依頼票とギルドカードを提出すると、フィーネさんはテキパキと処理作業を終わらせる。


「アル君、いつの間にかブロンズランクになってたのね。男子三日会わざればってやつね」

フィーネは終始笑顔で、ギルドカードを返却される。


「フィーネさん最近受付業務じゃなくて奥の方の事務業務で忙しそうだったんで、全然会えなかったですもんね」


「用事がなくてもアル君に呼ばれたら、いつでも時間あけるから!いつでも呼んでね!」


「いや、それは流石に申し訳ないですよー」

実際、ここ数週間の間で依頼の受付をする時にフィーネさんを目にすることも有った。

だが、忙しなく動いていて声をかけるタイミングなんてなかった。


「遠慮しないでいいんですよー。あっ、アル君!よくみたらブロンズランク初の依頼なんですね!」

フィーネはちらりとギルドカードの情報が表示されている何かを見ていた。


「なら、私が注意事項を説明しないといけませんね」

フィーネは言葉では残念そうにしているが、表情はとても嬉しそうだった。


注意事項は簡単な内容だった。

要約すれば外に出ればどれだけ危険度の低い依頼であっても、何が起こるかわからないので気を抜かないようすること。

門から出る時は特段処理はないが、帰ってきた時はギルドカードを見せる必要がある。

番兵が出て行った人の顔をなんとなく覚えているらしいので、帰ってきていないとギルドに確認が入るらしい。


「わかりました!フィーネさんありがとうございます!」


「はい、では気をつけてくださいね」


アルージェはルーネに声をかけてギルドを出て、町の門まで向かう。

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