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第三十八話

スビア商会で荷物受領済サインをもらった受領書を依頼主のところへ持って行き、依頼達成のサインを貰わなければ依頼料は貰えない。


「あっ、すいませーん!!」

倉庫に戻ると先ほど依頼内容を説明してくれた青年を見かけたので、声を掛ける。

アルージェの声に気付き、青年が振り向く。


「おっ、ご苦労様。やっぱり子供には1往復でキツかったかな?」


「いえ、指定された荷物全て運び終わったので、サイン貰えますか?」


「ははは、面白い冗談だ。慣れたやつでも半日はかかるぜ」

青年は荷物を置いていた場所を見るが、荷物が無くなっていることに気付く。

そしてアルージェが持っていた荷物受領済の受領書を手に取り、サインを確認する。


「確かにルベックさんのサインだ。長年やってるから間違えるわけないし。ちょっとここで待っててくれるかい」

青年は倉庫の中へ走っていく。

アルージェは青年の背中を眺める。


待ち時間の間暇だったのでルーネと戯れて遊んでいた。

数分後、倉庫の方から青年とそこそこに歳見えるが筋肉の発達した男性が走ってきた。


「おう、こいつが言っていた子供か?」

「はい、そうです」


「待たせて悪かったな。俺はここの倉庫全てを仕切ってるラべックだ」

荷物の受領証にサインをくれた人に非常に良くだった。

いや似ていたどころではない、瓜二つだった。


アルージェは不思議そうな顔でラベックを凝視する。

その視線を察したラベックは「あぁ、本店にいたのは俺の兄弟だ」と説明する。


「そ、そうだったんですね。すごく似てたので驚きました」

「よく言われるよ。ガハハハハ」

ラベックは豪快に笑う。


「いや、すまん。世間話もいいんだが荷物のことだ。受領書にはルベックのサインがされていて、ルベックに確認したら、荷物を全て受け取ったって言われた。子供だから馬鹿にしてるわけじゃないんだ。どうやったのか教えてくれ」


「どうやってですか?」


「あぁ、この際方法はどうだって構わねぇ。荷物運びってのは、今までマンパワーでやっていて。ある程度の人数を雇って回してたんだが、それでも冒険者に依頼出すくらいに手が足りてねぇ。世界のどこかには転移魔法なんてものもあるらしいが、一介の商会ごときが持つことができるもんじゃねぇ。そこで相談なんだが、ウチで専属の運び屋にならねぇか?もちろん相応の金は出す。早く配達できればその分商品の回転が速くなって売上が上がる。お前さんくらい早く商品が運べるなら需要のある場所にピンポイントに商品を運ぶことだって可能だろうからそこでも売上が上がるだろう。どうだ?悪くねぇ話だろ?」

筋肉が発達している人はどうしても脳筋なイメージだけど、ギルドで戦ったグレイタといい、この世界ではそんなことないらしい。

筋肉のある頭脳派。

最強かな?


「ありがたい話ですが、実は昨日冒険者になったばかりでこれからってところなんです。なので今回はすいません」

アルージェは俯き申し訳なさそうに答える。


「なるほど、なら今回は諦めるとするか。だが!!絶対におめえの首を縦に振らせてやるからな!!あっ、後また冒険者ギルドに依頼するからその時は頼むぜ!ハハハハ!!」

ラベックは高笑いして、倉庫の方へ走って戻っていった。


「嵐みたいな人だな」


「ウチのリーダーがすいません・・・。本当に荷物が本店に届けられたかの確認をしたかっただけなんですが、リーダが君に興味持っちゃって」


「は、はぁ、大変ですね」

「そうなんだよ!リーダーってあんなに筋肉あるから、初めは見た時はどうせ力でなんでもかんでも解決する人だと思ってたんだよ。でもすごい手腕でこの倉庫の運営を始めて、今ではスビア商会の倉庫部門仕切ってる幹部っすよ」


どうやら本当にすごい人のようだ。

そんなすごい人から直々に声がかかるとは日本にいた時は考えられなかったな。

まぁ、いいアイテムを親から貰って、ルーネに乗って行っただけ自分の力ではないんだけど。


「これからリーダーからの熱烈なスカウトが始まると思うけどがんばってね」

「えっ、去り際のあれ本気だったんですか?」

ラベックは察してくれたのだと思っていたが、違ったみたいだ。


「リーダーはきっとあの手この手で君をウチに入りたくなるようにするだろうね、あぁ依頼完了のサインするね」

青年は呆けていた僕の手から紙を取り、サインしてくれた。


「んじゃ、今後ともよろしく!」

後ろ手に手を振り、青年も仕事に戻っていった。


「ルーネ、どうしよう。厄介な人に目をつけられたかもしれないよー!!」

アルージェはルーネの脚を抱き抱えるように座る。


「フンス」

ルーネは鼻息を荒くし返事して、アルージェの服の襟を咥えて背中に乗せる。

そのまま、ギルドへ運んでくれた。


ルーネが冒険者ギルドまで乗せて帰ってきてくれたので、すぐにギルドに着いた。

「まぁ、よく考えたら依頼を定期的に出してくれるのは今の僕にはありがたいことだよね。どうせ街中しか仕事できないし。変な人に目をつけられてのは事実だけど、ポジティブに考えれば僕を気に入ってくれたってことだしね」

ルーネに乗っている間に考えを纏めた結果、何も悪いことなんて無いように思えてきた。


「さて、依頼完了報告しに行こか」

ギルドに入ると今朝の様子とは打って変わって、中には冒険者はほとんど人がおらず、受付も暇そうに職員たちが談笑していた。


アルージェが受付に近づいていくと、会話をやめて今朝対応してくれた元気な受付嬢がカウンターに戻ってくる。

「お疲れ様でーす」

受付嬢は元気に労いの言葉をかける。


「依頼完了したので、報告にきたんですけど」


「おー!早いですねー!確認しますねー!」

受付嬢はとんでもない速さで処理を進んでいく。


「はい!お疲れ様でしたー!確認できましたので、こちらが報酬ですー!」

そこには思っていたより多くの銀貨が置かれていた。


「あれ?なんか多くないですか?」


「どうやらラベックさんという方から多めに報酬を渡すように指示があったみたいですよー!あ、あと言伝がありますよー「今後も頼むぜ!」だそうでーす!いきなり気に入られたんですかー?すごいですねー!」


「あははははは」

アルージェは乾いた笑いを出すしかできなかった。


アルージェは報酬を受け取り、ギルドを出てルーネに跨る。


「よし、ならこの地図に書いてある鍛冶屋に行こうよ!」

アルージェが指示を出すとルーネは鍛冶屋に向かって走り始めた。



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