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第三十七話

アルージェはギルドに到着して、依頼掲示板に依頼が貼り出されるのを待っていた。

この町では日本でいう午前六時から三時間に一度教会の鐘が鳴る仕組みでがある。

ギルドでは六時の次の鐘つまり九時の鐘が鳴り次第、依頼掲示板にその日の依頼を貼り始める。


なるべくいい条件の依頼を受けるためには、九時の鐘が鳴る時にはギルドにいる方がいい。

というのが冒険者の常識らしい。


ただアルージェはまだギルドランク”見習い”なので、町を出る依頼は受けられない。

ほとんど雑用みたいな依頼しか受けられないので、早く到着している意味はあまりない。

だがどんな雰囲気なのかは知っておきたかったので、今日は早めに来た次第である。


周りを見渡すと昨日来たときは違い、多くの冒険者が依頼を貼り出されるのを今か今かと待っていた。


ギルドに入ってくる人みなが一度ルーネのことを見てギョッと驚いた顔する。

だが皆すぐに興味が無くなり、依頼掲示板の方へ目線を向ける。


「そりゃ、こんなに大きな狼がいたらみんなびっくりするよね」

アルージェはルーネの頭を撫で始める。


「こんなにいい子なのにねー?」

ルーネは気持ちよさそうに撫でられる。

撫でられてテンションが上がってきたのか、ルーネはアルージェのことを押し倒して顔をペロペロと舐め始める。


「うわー、やられたー」

アルージェがルーネと戯れていると、教会の鐘が九時を知らせる。


慌ただしく受付嬢が掲示板に依頼を貼り始める。


貼り出された依頼を冒険者達は吟味し、グループでどれを受けるか相談したりしてガヤガヤとしていた。

そして冒険者達は受ける依頼の張り紙を掲示板から剥がし受付へ持っていき、受付嬢が受注処理を開始する。


「なるほどね。あんなふうに依頼を受けるのか、これは早く来て正解だったね。知らなかったらわからなかったや」

アルージェは冒険者達の様子を遠巻きで観察していた。


「よし、いこっか!」

冒険者達が依頼を受け、依頼掲示板の前からだいぶはけてきたのでルーネと戯れるのをやめて、依頼掲示板の方へ移動する。


「見習いでも受注できる依頼はどれかなー」


一通り見たがおおよそは荷物を指定の場所まで運んでほしい。

迷子の猫を探してほしい。

飼い犬の散歩など町の中で出来るものは結構残っていた。


「おぉ!選り取り見取りだ!」


中でも荷物運びは意外と依頼金が高かった。

おそらく肉体労働扱いなのだろう。


迷子の猫とか犬の散歩はそんなに高くない。

これはおそらく個人で依頼を出してるものだからだろうな。


ルーネがいるから迷子の猫とか犬の散歩は厳しいと思われる。

猫も犬もルーネを見て驚いてしまうのが目に浮かぶ。


でもルーネに頼めば迷子の猫とかは簡単に見つけられる可能性は高い。


だがそんなことより今はお金だお金。


今のままだとあっという間にお金が尽きて、宿屋にすら泊まれなくなってしまう。

それに荷物運びをしてたら町の中を動き回ることも出来るし、一石二鳥だ


そういえば、この町の鍛冶屋ってどうなってるんだろう。

師匠曰く「今のアルならそこらの鍛冶屋に負けることはないのぉ。カカカカカ」

とのことだがやっぱり気になるものは気になる。


今日はお試しで依頼を一件だけ受けて、フィーネさんにもらった板に書かれてる冒険者におすすめの鍛冶屋に行ってみることにする。


「よし、決まった!とりあえず、この荷物運びの依頼を受けようかな。今日は一件だけ受けて終わり次第鍛冶屋に行きたいんだけど、ルーネはどうする??」


「バウ」


「おぉ、最後まで一緒に来てくれるのか!助かるよ!ならこの依頼受注するために受付に行ってくるから待っててね!」

アルージェは依頼掲示板に貼られていた荷物運びの依頼を取り、受付に向かう。


受付にはフィーネさんとは違う受付嬢が立っていた。


元気な雰囲気が何もしていないのに滲み出てきている。

ふわふわ茶髪の女性だ。

百人に聞けば百人が人懐っこそうと答えるだろう。


「おはようございまーす!依頼の受注ですねー!はいどうぞー頑張ってくださいー!」

その女性はアルージェが受付の前に立つと、依頼用紙を見る事なく流れ作業で受注処理をしてくれた。


「えっ、はやっ」

アルージェは受付嬢の凄技につい反応してしまう。


「ありがとぉう!」

受付嬢は笑顔を絶やすことなくと大きく手を振って、ファンサービスをしてくれた。


さて、依頼で指定されてる場所に移動しよう。


アルージェとルーネはギルドから出て、ルーネと一緒に依頼用紙を確認する。


「よし、大体場所は分かったぞ!ルーネ乗せてもらってもいい??」


「バウ」

ルーネはアルージェが乗りやすいように体勢を低くしてくれる。


アルージェはルーネに跨る。

「よーし!ルーネ、出発だー!場所はあっちのほう!」


「バウ?」

ルーネは何かおかしいと思い、アルージェを一度下ろす。


「えっ?なんかおかしいとこあった?」

ルーネはアルージェが持っている依頼票を確認する。


「バウ・・・・」

ルーネはアルージェをジトーッと見つめる。

アルージェにもう一度背中に乗るように促して、アルージェが指していた方向とは逆に進む。


「あっ、こっちだった?ごめん間違えた!」

アルージェはエヘヘと笑っている。


「バウッ!」

ルーネはアルージェに舌を噛むから静かにしといてと牽制する。

指定された場所へ移動を開始して、数分で近くに到着する。


流石に大きな狼に乗った少年がいきなり現れるのは良くないと思った。

第一印象が大事と言われるビジネスにおいて突き抜けすぎてる気がしたので、残りはルーネから降りて向かう。


「ここかー!ルーネ。分かってると思うけどビジネスは第一印象が大事だからね。とりあえず僕に任せていつもみたいにいい子にしておいてね」


「フンス」

ルーネはいつもいい子にしてるだろうと鼻息を荒げる。


「あぁ、そういう意味じゃないんだよごめんよー」

アルージェは慌ててルーネの頭を撫でる。


アルージェに撫でられるルーネは特に気にしてなさそうだが、撫でてもらえるならと撫でられる。


「よし、じゃあ初めての依頼頑張ろうか!」


指定の場所にあった建物。

どうやらここは倉庫のようだ。

倉庫から注文があったものを運搬している。


アルージェはとりあえず元気よく挨拶をする。

「こんにちはー!!!!」


奥の方から青年が顔をヒョッコリと出す。

「子供がこんな所になにか用かい?」

青年は当たり前の反応をして、後ろにいたルーネを見てギョッとする。


「あっ、こんにちはギルドで依頼を受けてきましたアルージェです!」


「まだ子供だけど本当に大丈夫かい?」

青年はルーネから目線をアルージェに戻す。


「大丈夫です!自信あります!」


アルージェはやる気ありますと言わんばかりに元気に答える。


「ふむ・・・。まぁ、そこまでいうなら」

青年は依頼の説明をしてくれた。


説明を聞いた限りどうやら予想していた通り、なんの変哲もない荷物運びだった。

ただ荷物はアルージェが持って移動するには少し大きい箱で、それを複数個指定の場所まで運ぶだけでいいらしい。


指定の場所というのは以前町に入る時に話しかけてきた、ガスビアさんが管理してるスビア商会らしい。

そもそもこの倉庫自体がスビア商会のものらしい。

ガスビアさん小商会って言ってたけど全然小さくないじゃん!


「今日中にここにある十箱を運んでくれたら大丈夫だから慌てずゆっくり頼むよ。好きなタイミングで休憩をとってくれて問題ないし。ならよろしくね!」

青年は自分の持ち場に戻っていった。


「十箱くらいならなんとかアイテムボックスの中に入りそうだし、入れていこうかな。ルーネ、場所どこか把握してる?」

アルージェがルーネに確認すると、当然だとドヤ顔をする。


「流石ルーネ!」

アルージェは十箱全てアイテムボックスに入れて、ルーネの背中に跨る。


「よろしく!」

アルージェがルーネに声をかけると、ルーネは指定の場所まで駆け抜ける。


スビア商会に到着すると皆が忙しそうに慌ただしく動いていた。


「こんにちはー!!!!」

アルージェは誰でもいいからと思って、気づいてもらえるように大きな声で挨拶をする。

すると、みんなに指示を出していた男性が近づいてくる。


男性はルーネを見て一瞬驚くが、アルージェの方に目線を向ける。

「おう、坊主こんな場所になんか用か?」


「はい!依頼で荷物を運んできました!」


「お、倉庫の方からやっときたか!んで荷物はどこだ?」

アルージェの後ろを見たり、ルーネの後ろを見たりするが荷物が見当たらないので、男性キョロキョロする。


「あっ、今出します」

アルージェはアイテムボックスから頼まれていた荷物、計十箱を出す。


男性はアイテムボックスをアルージェみたいな小さい子供が持っていることに驚く。

「おぉ!坊主、それアイテムボックスか!いいもん持ってるな!」

男性はいい笑顔で話しかける。


「はい!村を出るときに両親から貰いました!これで全部です!」


男性は紙をペラペラとめくり「確かに」と受領証にサインをする。


仕事が終わったのでアルージェはルーネに乗り、倉庫の方へ戻っていく。

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