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第三十五話

狼は入り口付近でおすわりをして待っていた。


「ごめんよー。お待たせ。さっきは僕の危険を察知して、吠えてくれてありがとうね」

アルージェが頬あたりを撫でると、狼は頭を下ろす。


「こっちがいいのー?」

頬から頭を撫でるのに切り替えると、そのまま気持ちよさそうに撫でられていた。


「さてと、なら今日から泊まる宿を探そうか」

アルージェは狼を撫でるのをやめ、ギルドの入り口から出ていく。


「宿屋かー。どこかおすすめの宿屋とかないかなぁ」

よく考えるとフォルスタに来たのは、初めてで土地勘などは無い。

人に聞こうにも騙されたりする可能性がある。


どうしたものかと頭を捻っていると、狼がバウバウと言いながら手に頭を押し付けてくる。


「どうしたー?」

狼はどうやら先ほどフィーネから貰った木の板を見ろと言っているようだ。


「そうださっきフィーネさんからもらったものに色々と書かれてはず!さすがだぞー!狼ぃ!」

アルージェは狼の頬辺りを撫でて、木の板を確認する。

狼の予想通りギルドが斡旋している宿屋が記載されていた。


「おぉ!書いてある!他にも武器屋とか安くてボリュームのある飯屋もかいてあるなー。時間があるときに行ってみようか。よし!なら、早速宿屋にいこうか!狼も一緒に泊まれる部屋がいいね」


「バウ」

今後のことを狼に話しながら記載されていた宿屋に足を運ぶ。

記載されている場所に普通の宿屋があった。


「よく考えたらお金、大丈夫だよね?都会の相場が分かんないから不安だ・・・」

アルージェが宿屋の前でウロウロとしていると、そんなことお構いなく狼が宿屋に入っていく。


「あっ、ちょっと待ってよー!」

アルージェは狼の後ろをついていく。

中にはご飯を食べられるスペースがあり、冒険者らしき人達がグループでご飯を食べていた。


その奥にはカウンターが有り、茶髪でロングヘアの若々しい女性が受付に立って仕事をこなしていた。

アルージェと狼がカウンターに近づくと女性は頭を下げる。

「ようこそいらっしゃいました」

落ち着きのある声で言われた。


綺麗なお辞儀と落ち着きのある雰囲気。

日本にいた時、たまたま父さんの会社に忘れ物を届けに行った時の受付のお姉さんを思い出す。

あちらもこんな感じだったけど、日本とは比べ物にならないくらい容姿レベルが高い。

フィーネさんといい町ってこんな綺麗な人が当たり前に生活しているのかとアルージェは感動を覚える。


「あっ、どうもこんにてゃ」

アルージェは緊張しすぎてまともに話すこともできず、まともに話すことも出来ない。


「はい、こんにちは。ご宿泊ですか?」


「あっ、はい、そうです。ギルドが発行してるやつに書かれてたので、きてみたんですけど。部屋って空いてますか??」


「少々、お待ちください確認します」

女性はカウンターに置いてある帳簿を確認する。


「確認したところ、角部屋が一部屋空いております。そちらでもよろしいですか?」


「あ、はい。泊まれればどの部屋でも大丈夫です」

アルージェは緊張しすぎて話し始めに「あっ」というをいれてしまう。


「あー、でもそうだ。泊まりたいんですけど、大きな連れがいまして」

アルージェは親指でちょいちょいと後ろにいる狼のことを指す。


「狼なんですけどやっぱり厳しいですよねぇー?ハハハ」

頭に手を当てながら確認する。


「少し確認してきます」

女性はカウンターから続く厨房?の方へ確認に向かった。


「お待たせしました」

アルージェはボケーっと冒険者達の様子を眺めていると女性が戻ってくる。


「確認したところ、お伝えする注意事項を守っていただけるのであればご宿泊可能とのことでした」


「おぉ!本当ですか!助かります!それでその注意事項とは?」


「はい、まず一点目周りのお客様のご迷惑にならないようにお願いします。具体的にいえば遠吠えなどはおやめください。そして二点目部屋のものを傷つけてしまった場合、例えば据え置きの棚やベッドの枠組み。壁や布団を傷つけしまった場合、弁償していだきます。この内容で問題がなければご宿泊していただけますがいかがでしょうか?」


アルージェが狼に目配せすると狼は問題ないという顔で軽く吠える。


「ならお願いします!」

アルージェは宿泊の手続きを進めて注意事項なんかを確認した。


ギルドからの紹介になるので、宿代は一日銀貨2枚。

食事は朝のみ含まれているが、夜はついてないようだ。

用意してもらうことは可能だが、別途料金がかかると説明を受ける。

冒険者なんていつ帰ってくるかもわからない職業だ。

非常に理にかなっている制度だなと納得していた。


また朝食は出せる時間が決まっていて、事前に言えば包んで持っていけるようにしてくれるようだ。

これも冒険者には非常に助かる。

ギルドが斡旋している宿なだけある。


体を拭く為の水は敷地内の井戸からくみ上げればいいらしい。

一日水浴びをしないだけで日本人の感覚が残っているからか体がむずむずするから、これは非常に助かる!


今はまだ全然大丈夫だが寒くなったら水は厳しい。

そんなときは別途料金を出せば、お湯を持ってきてくれるらしい。

どのくらいの温度のお湯を持ってきてくれるかは分からないけど、我慢できなくなったら頼むのも有りかな。


説明を受けたのはこれくらいだ。

アルージェは部屋番号を聞いて、ササっと部屋に向かう。


階段から一番奥の角部屋が僕たちの部屋らしい。

周りに迷惑かけないようにしないといけない。


「頼むよ」

アルージェは狼の頭を撫でて呟くと、狼は首を傾げてこちらを見る。


「よし、ここが僕たちの部屋だ」


鍵を開けて部屋の中に入るとそこそこの広さの部屋だった。

ベッドと服を入れることができる小さめのクローゼット。

後は小さめのテーブルと椅子が置いてあった。


「おぉ、意外と設備は充実してるんだ」

この宿のグレードがどんなものかは分からないが、普通に生活するには苦労しないくらいだ。


アルージェは荷物を部屋の端っこに置いて、ベッドに腰掛ける。


「なんか色々あって遠回りしたけど、やっと落ち着けたー」

アルージェは狼の方へ視線を移すとベッドの横でごろりごろりと転がっていた。


「狼も落ち着けて良かったよ。みんなからめちゃくちゃ見られてたし、さすがに気疲れするよね」

アルージェはようやく狼を落ち着いて見ることが出来た。

こうやってみると毛並みは良くてモフモフしている。

アルージェは狼に引き寄せられるように近づき、ごろごろしている狼に抱き着いてみた。

狼はごろごろをやめてアルージェを見る。


「あぁ、ごめんよ。なんかモフモフで気持ちよさそうだなって思ったら、体が勝手に・・・」

狼はフンスッと鼻息を荒くするが、別に嫌ではないみたいだ。


「そういえばさ、名前とかあるの?狼ってずっと呼んでてもいいんだけど、なんか違和感があるからさ。名前あるなら教えてよ」

アルージェは狼に抱きつきながら話す。


狼は縦に首を振った。

どうやら名前があるらしい。

フワッと頭の中にルーネという名前が浮かぶ。

血の契約を交わしているからか、こういう形で出てくるようだ。


「ルーネで間違いない?」

アルージェが確認すると、ルーネは首を縦に振る。


「そうかー!ルーネかー!なんか今更になっちゃったけど、今後ともよろしくね」

アルージェが右手を前に出すとルーネも右前足を前に出し、アルージェの手の上に置く。


「ほんとにルーネは賢いね。狼ってみんなそんな感じなの?」

ルーネは首を傾げる。

よくわからないと言っているような気がした。


「フフフ、そうだよね。分からないよね!」

アルージェは起き上がりルーネの体にもたれ掛かる。


「暖かいなー。なんかこうやって看病してもらってたからかな?ルーネとこうやってるとすごい落ち着くねぇ」

ルーネの体温で少しウトウトしてきたがグッと堪える。

少し名残惜しいがアルージェは体を起こして、ベッドに腰掛ける。


「さて、ルーネ、今後の方針なんだけど」

アルージェが話し始めるとルーネも体を起こしてお座りをする。


「ここに泊まる為には一日銀貨二枚必要です。僕の手持ちは後銀貨十枚。何もしなければ、後五日でここを追い出されてしまいます」


「ワウ」


「それに武器もこの間のゴブリンとの戦いで少し消耗しちゃったし、新しいのを揃えたいのと、食事代もかかるから実際は五日も過ごせないです」


「ワウ・・・」


「ってことで明日からギルドで依頼を受けて働こうと思います!手伝ってくれるよね?」


「ワウ・・・・!」


「よし!なら明日から頑張ろうってことで、今日は夜ご飯奮発しちゃうぞー!」


「バウッ!」


「なら、外へ出発だぁ!」

明日から頑張るという免罪符を掲げて、今日はお金を考えずにルーネを引き連れて、外で食事をすることにした。


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