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第三十四話

グレイタからの嵐の様な攻撃は全く収まる気配がない。


アルージェは避けたり、剣で軌道を変えるだけで精一杯だった。

だが、グレイタはアルージェとの戦いで勘を取り戻しているようで、攻撃を重ねれば重ねる程に鋭さが増し正確に打ち込まれる。


アルージェは徐々に追い込まれていく。

気を抜いたらやられてしまうヒリつく感覚。

ここまで追い込まれているにも関わらず、アルージェは胸が躍っていた。

そして、ニヤリと笑みが溢れていた。


「お前、何がおかしいんだ」

その表情を見たグレイタが攻撃をやめて、構えを解く。


「あっ、いえ不快になったならすいません。ギルドにはこんなに強い人がいるんだと、ワクワクしてしまいました」

アルージェも構えを解き、謝罪する。


「先ほどは無礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした。自分の実力がどの程度なのか、把握しておきたかったんです」

アルージェは腰を折り、しっかりと謝罪する。


「やめだやめだ。白けちまった」

グレイタは頭をポリポリと掻き、武装を解除する。

そして、そのまま酒場の定位置に戻ろうとする。


「あ、あの!」

アルージェも剣を鞘に収めて、グレイタを追いかける。


「あぁ?」

グレイタはダルそうに振り返る。


「端的に聞きますね。なんで、そんなに強いのに依頼を受けないんですか?」

アルージェは子供らしく首を傾げて、質問を投げる。


「嫌なことに首を突っ込んでくるガキだな」

グレイタは頭を掻く。

アルージェは期待した目でグレイタを見つめる。


「はっ、お前には関係ない話だ」

グレイタは背を向けて、酒場の定位置に戻っていく。


「あんなに強いのに勿体ないなぁ」

アルージェはグレイタの背中を眺めながら呟く。

数秒後、後ろ側から衝撃が走る。


「なんであんな無茶なことしたの!!」

フィーネが涙目になりながらアルージェを抱きしめる。


アルージェはフィーネが涙目になっていることに戸惑ってしまう。

「えと・・・。自分がどれだけの実力があるのか知りたかったんです。すいません」

アルージェは素直に謝罪する。


「もう二度とあんな無茶しないでください!私は大丈夫ですから!今回はグレイタさんもアルージェ君が子供だからと思って、本気を出さないで戦ってくれたのか、無事でしたが見習いのアルージェ君だと重傷を負っていたかもしれないんですよ!」

フィーネがアルージェを抱きしめる力が強くなる。


「あはは、すいません・・・」


「分かればいいんです!まだギルドでのルールの説明の途中でしたね。カウンターに戻って、説明を続けますよ」

また、手を繋がれてカウンターまで連行される。


冒険者達はグレイタが武装を解いた時点で、離れて行くのが大半だったが、まだ若干残っている。

その人達に手を繋いで連れて行かれるところを見られるのに恥ずかしさを感じる。

体は子供だが、頭脳は高校生なのだ。


それにしても何故フィーネさんがここまで自分に良くしてくれるのかが理解できなかった。

アルージェはずっと村で生活していたので、今日初めて会ったことに間違いないのだ。


「ほら、ボーっとしてないで早く座ってください。説明始めますよ」

フィーネはカウンターに立ち、アルージェに早く椅子に座るように促す。


「あっ、はい。座ります」


ギルドでのルールは日本で暮らしていれば当たり前のことばかりだった。

気にしないで良いかと思って流し聞きしていた。


「次はギルド内での私闘禁止についてです」

フィーネの言葉にアルージェは体をビクリと振るわせる。


「今回はまだアルージェ君はギルドのメンバーではなかったので、グレイタさんにのみ罰があります。ですが、アルージェ君も登録が完了した後に私闘を行った場合は罰がありますので、気をつけてくださいね?」

アルージェがフィーネの顔を見ると口元は笑っているが、目が笑っていなかった。


「あっ、はい。気をつけます」

フィーネの圧に負けて素直に返事をするしかなかった。


「はい、ご理解いただけて何よりです。さてと、では最後にこちらに署名していただければ、登録完了です」

フィーネは署名が必要な箇所に指を差す。


アルージェも筆記用具を借りて署名しようとしたが、文字が書けないことに気付く。


「あ、あのー。アルージェってどうやって書けばいいのかな・・・、ハハハ」


「そうでした。アルージェ君は読み書きが出来ないんでしたね」

フィーネに綴りを教えてもらい、見様見真似で書いて署名をした。


「はい、これで登録は完了です」

そう言うとフィーネに薄い木の板を渡される。


アルージェは渡された木の板が何か分からずマジマジと観察する。


「先ほど説明した通り、ランクは見習いから開始です。その板が見習い用のギルドカードになりますので無くさないように気をつけてください。初めは街中だけで完了する依頼を十回ほど受けて、ギルドのシステムに慣れていただかないといけませんので、注意してくださいね。では最後に何か質問はありますか?」


アルージェはパッと質問が思い浮かばないので目線を天井に向けて、指を顎をさする。

そして重要なことを思い出す。


「そういえば、この町に来ればアインさん達に会えるって聞いたんですけど、どこにいるか知ってますか?」


「アインさん達ですか?ギルドが個人情報を勝手に伝えることは出来ないから教えられないのよ。ごめんねー。アルージェ君もゴールドランクになったアインさん達に憧れて冒険者になったの??」


アインさん達は現在どうやらゴールドランクらしい。

見習いランクの自分から考えるとブロンズとシルバーの上なので、相当上位の存在のようだ。


四年前アインさん達が村に来てくれた時はシルバーランクだったのだろうか。

それともまだ冒険者なりたてのブロンズ?

四年もあればブロンズからでもゴールドにいけるものなのかは不明だが。


「アインさん達には四年くらい前ニツールって会いました。村にゴブリン退治に来てくれたことがあって、命の恩人なんです。アインさん達のことギルドの規定に触れない程度で大丈夫なので、教えてくれませんか?」


「そうですか。それなら少しだけですよ?」

フィーネは咳払いをする。


「依頼達成率100%。冒険者登録後史上最速でゴールドに上がり、ギルドだけではなく王都にいる王様にも一目おかれていました。しかもアインさんはかなり容姿が整っていますので、貴族が挙って婿にならないかと声がかかっていたそうですよ。そして何より世の為、人の為にというのがアインさん達の理念らしいので、どんな人にも救いの手を差し伸べて、勇者再来なんて一時期騒がれてました」

ここまで話すとフィーネは何かを思い出したのかように、先程登録したアルージェの登録情報を確認する。


「もしかしてニツール村のアルージェってアルージェ君のこと!?」


「ニツール村にアルージェは僕しかいないので、多分僕だと思います」


「そっかそっか」

フィーネは嬉しそうに頷き、そそくさとカウンターから離れていく。


数秒後、戻ってきたフィーネは空色の綺麗な正八面体の結晶を手に持っていた。

「アルージェ君にアインさんから音声結晶を預かっています」


「本当ですか!」

アルージェはアイン達が自分のことを覚えていたことに驚く。


「はい、まずアインさん達はゴールドランクに上がった際に王都へ拠点を変更しました、なのでこの町にはいません。そしてアインさんがもしここにニツール村のアルージェが来たらこれを渡してほしいとお願いされていました。どうぞお受け取りください」

フィーネがアルージェに結晶を手渡す。


「使い方を一応説明しておきますね。その音声結晶を手に持ち、魔力を微量で結構ですので流してください。カレンさんに渡されたものなので、おそらくアルージェ君の魔力を検知して、音声が流れ始めると思います」


フィーネから受け取ると、体から何かが抜き取られるような感覚を感じる。

これがおそらく魔力というものだろう。

今まで意識して魔力を流すなんてしたことなかったので、助かった。


「あー、あー、これでいいのかな?」

「結晶が光ってるから多分録音できてると思うけど」

「こういうのって初めてなのでなんだか緊張しますねー」

「おっ、これで出来てるのか!すごいな!よし、なら伝言を保存しようかな」

アインさん、カレンさん、ラーニャさんの声を流れてきた。

アルージェは久々に聞くアイン達の声に懐かしさを感じる


「アルージェ!久しぶりだね!これを聞いてるということは、本当に僕達を追いかけてフォルスタまで来たんだね。その行動力に僕達全員驚いているよ。君がどんな風に成長したか見たかったけど、僕達はもう一つ上のステージで待つことにさせてもらう。今すぐにでも一緒に冒険したかったけど、まずはここまで駆け上がってきなよアルージェ。君ならすぐにでも追いついてこれるだろ?待ってるよ!」

アインの言葉はそこで終わっていた。

結晶から光が消えて、音声結晶としての機能が消失する。


アイン達はどうやら本当に王都に行ってしまったらしい。

ゴールドランクになると王都でも生活できるくらいに稼ぎが出るんだろう。

それにあの眉目秀麗な顔立ちだ。

貴族の娘さんとかに人気なんだろうな。

正直羨ましいと思った。


それにしても、村で一度しか会ったことのない自分に期待しすぎではないだろうか。

ゴールドまで上がってこられるだろ?と言われたが、まだ依頼で町から出ることもできない状態だ。



アルージェは機能を失った音声結晶を強く握りこむ

だけど、ここまで期待されてわざわざこんな音声まで用意してくれたんだ。

駆け上がらないと男が廃る。


「フィーネさん!ありがとうございました、なんか僕アインさん達にめちゃくちゃ期待されてるみたいなんで頑張ってランク上げたいと思います!」


「はい!頑張ってくださいね、私もアルージェ君には期待してますから」

アルージェの言葉を聞き、フィーネは微笑む。


「じゃあ僕はそろそろこれで帰ります」

アルージェは椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。

そして振り返り入り口付近で待ってくれている狼の方へ向かおうとすると、フィーネから声を掛けられる。


「アルージェ君、待って!これ、本当は有料なのだけど」

フィーネは何やら木の板を渡してきた。


「これはギルドが発行しているもので、この町の宿屋や、武器屋なんかの冒険者になるために必要になりそうな施設の場所が書いてあるの。地図にはそれっぽい記号が使ってあるから、文字が読めなくてもわかるはずよ」


「えぇ!?」

大きな声を出してしまったアルージェは自分の口を塞ぎ、キョロキョロと辺りを伺う。


「有料なのにもらってもいいんですか?」

フィーネの傍まで移動しコソコソと話す。


「これはお姉さんからのプレゼントだから気にしないで受け取って。大丈夫よ、私が料金は払っておくからね」

フィーネはウィンクをする。


「ありがとうございます!」

アルージェは大人のお姉さんの魅力に目覚めそうになるがグッと堪える。


「それじゃあ、これから頑張ってね!」


「はい!また明日から頑張ります!では!」

アルージェはペコリと会釈をして、狼のいるところまで移動する。


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