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第三十三話

フィーネに手を繋がれながら、アルージェは冒険者ギルドに着いた。

狼も後ろからしっかりと付いてきている。


今のこと状況は第三者の目にどう映っているのだろうか。

考えれば考える程、アルージェは恥ずかしくなってくる。

だが、実際は道行く人達は別に何とも思っていない。


アルージェには前世の記憶が戻り、高校生までの十七年とアルージェになってからの十年の記憶がある。

その為、自身の年齢を二十七歳位に思っているかもしれない。

だが、アルージェはまだ十歳。

見た目も子供で迷子になったからお姉さんに連れていてもらっているのだろう程度の認識だ。


「こちらが冒険者ギルドです」

ギルドに到着したというのに、フィーネは一向に手を離す気配がない。


「じゃ、じゃあ僕は登録してくるんで」

アルージェが手を離そうとすると、フィーネの力強くなる。


「大丈夫よ。私、登録作業も出来るから」

フィーネはアルージェの手を引きそのままギルドの中に入り、カウンターまで連れていかれる。


昼過ぎ位の時間でギルドの中はそこまで人はいなかった。

だが、ゼロでは無い。

職員と遅出の冒険者が依頼を探していたが、フィーネが力強くギルド入り口の扉を開けたため。

皆が視線を向ける。


アルージェは恥ずかしさで胸がいっぱいになり、俯きながらフィーネに連行される。


「では、登録開始しますね」

フィーネはカウンターの引き出しから見たことの無い文字が書かれた板を取り出す。


「アルージェ君は文字を読み書きはできる?」


「あぁ、えーと。村では習ったことは無いので、多分難しいと思います」

さっきまでフィーネはアルージェ"さん"と呼んでいたのに、いつの間にかアルージェ"君"になっていた事に不信感を抱きながらも答える。


「分かりました、それでは私が責任を持って説明させていただきますね」

フィーネが板に書かれていることを一から十までしっかりと説明してくれる。


一目見た時に気が付いたのだが、なぜか習ったことが無いはず文字がしっかりと読めた。


だが、読めないと言った手前、途中からやっぱ読めましたと言うのもおかしな話だ。

ここは答え合わせの意味も含めてフィーネが読んでくれるのを見ておこうと黙っておく。


「まずギルドの説明ですが。依頼人から、依頼を受注し、一括で管理している団体です。この町だけではなく、ありとあらゆる町にあります。最近では小さな村にもあったりしますが、情報は統括されていて、ギルドのランク等も各ギルトと共有されています」


フィーネは息継ぎの為にここで一拍空ける。


「さて依頼の受け方ですが。登録を行うとギルドカードというものをお渡しいたします。このギルドカードと依頼掲示板にある依頼書をまとめて窓口に持ってきていただけると依頼受注が完了です。

また、依頼には受注制限があり、依頼書に書いてある条件を満たしていなければ受注が出来ません。よくある例としてギルドランクでの制限です。このギルドカードにはランクが存在し、持っているカードの色によってすぐにランクが分かるようになっています。ランクアップ制度については詳しくお話しできませんが、一つ言えることとしては堅実に依頼をこなして頂けるとランクが上がるような仕組みになっております。あと、依頼は失敗、キャンセルすると別途料金がかかりますので気を付けてください」


板の別のところを指さして、更に説明が続く。


「次はギルドランクについてです。ギルドのランクは見習い、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤ、オリハルコンの六つ有ります。上に上がれば上がるほどより難しく報酬の良い依頼を受けることが可能です。ギルドカードには登録者の情報が入っていて捏造や複製をすることは、ギルドの禁止事項に入っております気を付けてください」


「最後に、ギルドでのルールですが」

フィーネが最後の説明に入ろうとしたときに、アルージェはドンと後ろから押されてカウンターにぶつかる。


「いててて」

軽くぶつかった程度だったので、ケガなどは無い。

最近後ろから何かされるの多くないかと思いながら振り向く。


そこには体格はがっしりとしている、黒い髭を生やしたスキンヘッドの男が立っていた。

アルージェの事など目に入っていないのか、アルージェの頭上で言葉が飛び交う。


「フィーネちゃん、いつになったら遊びに行ってくれるんだよ」

どうやらナンパの様だ。

ギルドで働いている女性は確かに皆綺麗な人ばかりで男性もシュッとした人が多いように見受けられる。

あくまで、今居る人達を見ただけの感想だが。


ただ、座って説明受けてるアルージェの事突き飛ばしてまで、する必要が有るかと言われれば必要はないだろう。


「まだ、こちらの方に登録時の説明中ですので後にして頂けますか。そもそも以前にも行く気はないとお断りしたはずですが」

フィーネは毅然とした態度で対応している。


「そんな釣れないこというなよ行こうぜ?なっ」

男は無理矢理フィーネの手を取り連れ出そうとするが、これはちょうど良いやと思いアルージェは止めに入る。


「おじさん。嫌がってる女の人に無理矢理いうこと聞かせようとするのは、すごく格好悪いよ」


「あぁ?登録したてのペーペーがしゃしゃりでてきてんじゃねぇ」


アルージェの目論見通り挑発に成功する。

このままもう少し煽ってみる事にした。


「でも、フィーネさん嫌がってるよね?おじさんに魅力ないんじゃない?僕さっき手繋いでここまで連れてきてもらえたよ?」

アルージェはうまく煽っていき、筋肉男はピキピキと青筋を立てる。

それを見たフィーネがアルージェを止めようとする。


「アルージェ君、言い過ぎです。グレイタさんも子供相手に本気にならないでください」


どうやらこの筋肉男はグレイタというらしい


「ハハッ、そうだな。なら今回はフィーネちゃんが俺と一回デートするってことで、手を打ってやってもいいぜ」

グレイタはしてやったりと笑いながら話す。


「そういうことしないとデートに漕ぎつけられない時点でお察しだよね」

アルージェはやれやれと首を振る。


「あぁ?お前どうしても死にてぇらしいな」


「なら、どうする?」


「望み通り二度と逆らえない体にしてやるよ!」

グレイタがニヤリと笑い拳を握り、ポキポキと体を鳴らし始める。


「なら、ここだと邪魔になるの外に出てやりましょう」

アルージェが先導して、外に出ようとする。


「そんな必要ねぇよ!」

グレイタはアルージェの不意をつこうと、後ろから殴りかかる。


「ウォウ!」

さっきまで静かに端っこにいた狼がアルージェに危険を知らせるために吠える。


アルージェはそれに反応して、アイテムボックスから修行用の木剣を取り出し、殴りかかってくる拳に対して木剣を打ち付ける。


グレイタは木剣を打ち込まれた拳が痛みグゥと声をあげるがすぐさま反対の拳でアルージェを殴ろうとする。


だがアルージェはそれも木剣を打ち込みけん制する。


グレイタは両手の拳が痛み一歩下がり隙を伺う。


そしてグレイタは次の手を考えるがアルージェの構えに隙が無く、攻撃を打ち込むことが出来ない。


「あれ?もう終わり?不意打ちした割に弱くない?子供相手にこれは無いでしょ」

アルージェはグレイタがこちらの隙を伺っていることが分かっていたので、とりあえず煽ってみる。


「んだと!おらぁ!」

煽り耐性が無いのか、グレイタは懐からメリケンサックを取り出し、拳に嵌める。

そしてアルージェに攻撃を開始する。


右から左からと拳が飛んでくるが、アルージェは剣を使っていなしたり紙一重で躱す。

アルージェは今まで拳で戦うタイプを相手取った事がなかった。

つまり、アルージェにとってはすごく良い訓練相手である。


グレイタの拳がアルージェに襲い掛かるが、アルージェも躱せるものは躱し、剣を使っていなす。

アルージェも負けじと反撃しようとするが、既にそこにはおらず。

次の一手をグレイタは打ち込んでくる。


ギルド内での決闘。

騒ぎを聞きつけて、アルージェとグレイタの周りには冒険者が二人を囲むように集まってくる。

ちょうど冒険者達が依頼完了の報告をするために、戻ってくるくらいの時間だったのもありかなりの人数が二人を囲んでいた。


二人の戦いを見て、周りに集まっている冒険者達は口ぐちにグレイタへの悪態を吐く


「あんな子供に苦戦するなんてグレイタは落ちぶれたな」

「元々はエリートコースだったのに一回の失敗で怖気づいて、まともに依頼もこなせなくなっちまったらしいじゃねぇか」

「最近は毎日昼間から働きもせず酒浸りらしいぜ」


アルージェにも聞こえていたのだから当然本人にも間違いなく聞こえていただろう。


だが戦っているアルージェにはわかる。

この人はこんな風に馬鹿にされていい人ではない。

グレイタの拳には努力の跡がしっかりと見えた。


アルージェはグレイタの攻撃をいなし躱しているだけに見えるかもしれない。

実際は違う。

攻撃を躱していなすだけで精一杯なのだ。

もちろん反撃を入れようとしているが隙が無いのだ。


周りから見えればあんな子供にすら攻撃を当てられないやつに見られているのだろう。


攻撃を見て分かるが怒っていたような素振りをしていたが、恐らく頭の中はいたって冷静なんだろう。

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