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第三十二話

土地勘が無いので門まで辿り着けるか不安だったが、城壁伝いに道が繋がっていてそのまま門へたどり着いた。

どうやら町の門は東と西の2か所にあるようだ、とりあえず近い方の門へ到着する。


門には中に入りたい人達で溢れかえっていた。

一人一人警備兵が確認している為、時間が掛かってなかなか捌けていないようだ。


「テーマパークへの入場みたいだな」

アルージェはボソッと呟く。

そのまま狼の方へ視線を移す。


「一緒に入れるといいね」

アルージェが狼にと話しかけると、狼もアルージェの方へ視線を移し「バウ」と返事をした。


待ち時間が暇すぎた。

元の世界では小型情報端末一つで電脳の海に漂流してる情報をいくらでも入手できて、待ち時間に困らなかった。

けどこの世界にはそんなものないし暇だなぁとボーッとしていると、後ろから声がかかる。


「よぉ、兄ちゃん。立派な狼だな!毛並みもいいし、何より風格がすげぇや!兄ちゃんのか?」

声を掛けられた方へ頭を向けると、馬車に荷物を載せた商人のような男だった。

どうやらこの人も待ち時間が暇なようだ。

ちょうどいいと思って会話に乗ることにした。


「いやー、僕のっていうよりはどっちかっていうと、懐いて勝手についてきたって方が正しいですね。ハハハ」

後頭部を手で擦りながら返事をする。


「へぇ、小さいのに狼手懐けるなんて大したもんだな、人は見かけによらんてか」

「僕もなんで付いてきてるか分からないんですけどねー」


「なるほどねぇ。ただそんだけ大きいとギルドには登録が必須かもしんねぇな。前に客の一人が契約?みたいなのをするか、なんか別の方法がでどうにかするって言ってきた気がするなぁ。んー、あんま覚えてねぇや」


ギルドの役割は幅広いなと思いながら、

「うわっ、やっぱりそういうあるんですね。こんなに大きな狼を何もなく町に入れてもらえるわけないですよねぇ。暴れたら大変だし」と答える。


「あぁ、昔実際にあったらしいからな、手懐けたって言っていた魔物が暴れて結構悲惨だったらしいぜ。まぁそこらへんは門番に聞いてくれや、きっとすぐ教えてくれるはずさ」


「助かりますホント!」

他に色々と世間話をした。

と言ってもほとんど商人から情報を教えてもらうことばかりだったが。


けど、こういうところで情報交換をするんだということも理解できたし、ここでこの商人に出会えてよかった。

巡り合わせに感謝しかない。


村でしか生活してなかったから町での常識が分からないし、元居た世界とも色々と基準が違うだろう。


けど色々と普通に話を続けてもらえるって事は別におかしなところはないってことだろう。


「さて、そろそろ話も終わりかな。もうすぐ番が回ってくるぞ。あっ、俺なガスビアってんだ。スビア商会っていう小さな商会をやってるんで御贔屓に」

ガスビアは右手を前に出して、アルージェに握手を求める。


アルージェは握手に応える。

「僕はアルージェって言います」


「アルージェか。いい名前じゃねえか。あんた大物になりそうだからな。今のうちに唾つけさせてもらうぜ!ハッハッハ!何か必要なものがあればいつでもスビア商会に来てくれや。頑張って用意するからよ!」


「はい!冒険者になって余裕が出来たら行かせてもらいます!」


「あぁ待ってるぜ」


前の人は荷物が少なくあっという間に終わりアルージェの番になった。

「よし、次こちらに来い」

門番から指示されてアルージェが門番の近くまで移動する。


「なんで町にきた?」

まずは門番から滞在理由を聞かれる。


「冒険者になりにきました!」


「なるほどな。荷物見せてもらうぞ」

アルージェは剣を台の上に置く。

そして腰に携えているアイテムボックスも台の上に置く。


門番はサッと剣を抜き、おかしなところがないかを確認する。

問題ないことを確認してアルージェに返す。


そして次に巾着状のアイテムボックスを手にとる。

「これはアイテムボックスか。中身を全部出してくれ」


アルージェは言われるがままに、一つずつ中身を出していく。

村で買った食材。

寝袋。

低級のポーション。


そして自分で作った武器。

二、三個目くらいまでは特に問題ないかと門番は黙っていたが、次から次へと違う種類の武器が現れて口を挟む。


「おい坊主、なんだこの武器の量は武器商人かなにかか?」

小さな子供が持つにはあまりにも多すぎる武器の量に怪訝な顔をする。


「いえ、冒険者になったら当分この狼と一緒にやる予定なんですけど、実質一人みたいなものなんで。何があっても対応できるように色々揃えてます!」

ここは嘘をつくのは得策じゃないと思ったが、大量の武器を持っている理由らしい理由が無かったので、なるべく理由らしい理由を告げた。


「なるほどな。小さいのに冒険者志望か、苦労してるんだな。ただ、この量はあまりにもな・・・」

門番は言葉を失う。


「どうしたものか。いや、まぁいい。全部片付けてくれ」

並べた武器をアイテムボックスに片付ける許可が出た。


「んで、次に隣にいる狼のことだが」

門番はそこで言葉を区切り狼の方を見る。


「ギルドへの登録が確認できるものは何かあるか?なければギルドの者をこちらまで派遣してもらって、手続きをして貰う必要があるが」


「やっぱりこのまま連れて行くのは難しいですかねぇ?害は無いと思うんですけど・・・」

武器の確認だけでかなりの時間が経ってしまっている。

ここからさらに待つのは辛い。


「規則が変わってそれは出来ないことになっている。以前も同じようなことを言ったやつの魔物を入れて制御できなくなり暴れて町の一角で被害が出たんだ。それからはこういう手筈になっているんだ。理解してくれ」

毅然とした態度で門番に言われる。

相当酷いことになったのだろう。


「規則なら仕方ないですね。なら待ってます。ギルドの方を派遣してもらう手続きしてもらえますか?」

「協力に感謝する。長旅で疲れていると思うが、少し向こうで待っていてくれ」


門番に指示された場所に移動する。

座る場所もあったので、腰を下ろす。


だが、周りには誰もいない。

初めは狼の事をワシャワシャと撫でていたが、それでもまだギルドの人はこない。

次は芸を仕込ませようとお手、お座り、伏せ、ちんちんというとすぐに理解して狼はすぐに芸を覚える。


「すごいな!じゃあ次は」

あまりに覚えが良いのではしゃいでいると待合室に女性が現れる。


「こんにちは、あなたがアルージェさん?」

アルージェは狼とじゃれるのをやめて、視線を移す。

視線の先にはふわっとしたロングスカートのワンピースにベストを着た女性がいた。


「はい!アルージェです」

アルージェは立ち上がる。


「ギルドから派遣された、フィーネです」

女性も自身の名前を告げてから狼の方を見る。


「警備隊が誇張表現しているのかと思いましたが、ホントに大きいですねぇ」

フィーネは狼の大きさに驚いている。


「大きいだけじゃなくて言葉もちゃんと理解できますよ。ここまで連れてきてくれたのもこの狼なんで」道を見失った原因もこの狼なんですが。


「ふむ、相当、賢いようですね。高位の魔物かしら?まぁ、いいでしょう。登録するためには、この首輪をつけていただくか、魔物を主従契約を結ぶ必要があります。どちらかお選びください」


「どっちがいい?」

アルージェはフィーネから首輪を受け取り狼に確認する。


狼はアルージェのそばまで行き首輪の匂いを嗅ぎ、すぐに牙を向き、威嚇を始める。


「あぁ、首輪は嫌か。なら主従契約の方にしとこうか」

アルージェは狼の頭を撫でてから、フィーネに首輪を返す。


「あの感じなので主従契約でお願いします」


「ふふふ、首輪は本当に嫌みたいね。じゃあ、用意しますね」

フィーネは手際良くテキパキと用意を始める。



まずフィーネはアイテムボックスから長方形の台を取り出し、アルージェの前に設置する。


「ではアルージェさんはここ。狼さんはこちらに移動してください」

アルージェと狼は言われるがままに移動する。

用意された台を挟んで狼と向かい合う。


「ここですか?」


「はい、そこで問題ないですよ」

次にフィーネは魔法陣の様なものが描かれた用紙を取り出しそのまま台に置く。


「狼さん、お手手借りますよ」

フィーネは狼の前足を用紙の上に置く。


「はい、それではアルージェさん。血をここに何滴か垂らしてください」

フィーネは針をアルージェに渡す。


アルージェは受け取った針を指に刺して、血を何滴か垂らす。


用紙が光を放ち消失する。

そしてアルージェの手の甲に紋章が浮かぶ。


「はい、これで主従契約は完了です。注意事項として契約を行った時点でこの狼が何か起こした場合、全責任を問われるようになりますのでご了承ください」


「分かりました」

思ったよりあっさり終わったので、拍子抜けした。


フィーネはテキパキと片付けをする。


「さて、私はこれでギルドに戻りますが、何か質問はありますか?」


「あっ、僕、冒険者登録したいんですけど、どうすればいいですか?」


せっかくギルドの人が来ているのに、聞かない手はないと確認する。


「冒険者登録であれば冒険者ギルドへ来ていただければ、簡単に終わります。一緒に行きますか?」


「おぉ!すごい助かります!誰かに聞きながらいかないといけないのかと思ってゲンナリしてて。でも本当にいいんですか?」


「えぇ、職場に戻るだけですので」

フィーネは何故かアルージェの手を握る。


「では、こちらですよー」

そのままギルドに連れて行ってもらえた。

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