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第三十話

ハッと気がつくと一面の白が広がっていた。


あまりにも不自然な場所だった。

見たことがない場所。


ありえない光景にこれは夢かと考えていた。

とりあえず辺りを見渡すと壁に床も真っ白。

机も椅子も真っ白。

なんとその他置かれている家具も全部真っ白だ。


長時間ここにいるとおかしくなりそうなだなと思いながら辺りの様子を伺っていると、背後から不意に声を掛かられる。


「やぁやぁ!久しぶりだね!ずぅぅぅっと会いたかったんだよ!」


アルージェはビクッと驚き声のする方に振り返ると、さっきまで誰も居なかったはずの場所に少年が立っていた。

空のような青い瞳。

猫っ毛の金髪。


「こ、こんにちは」

アルージェは少年の勢いに圧を感じて、若干引き気味に答える。


「十年も待ったんだよ?じ・ゅ・う・ね・ん!いやぁ長かったなぁ!ん?あれ?よく考えたそうでもないかも」

どうやら彼は自分のことを知っているらしい。


だが十年は言い過ぎだと思う。

生まれた時から知っていると言う割には、彼は同じ年くらいにしか見えない。


何処で会ったかを思考していると、目の前の少年が声を上げる。

「ちょっと話聞いてる!?」


少年に視線を移すと少年は頬を膨らませて、こちらを見ていた。


「あっ、ごめん!なんか白一色ですごく珍しいから気になって」

アルージェは咄嗟に嘘を吐く。


「ふーん。幸太郎が前来た時と変わってないけどなぁ」

少年は辺りをキョロキョロと見渡す。


「まぁいいや!それよりも幸太郎!また面白い話してよ!」

少年はアルージェの隣に椅子を持ってきて座る。

そして悪意の無い笑顔でアルージェを見つめる。


幸太郎と言われ、自分はアルージェだと訂正しようと思ったが、何故か否定することは出来なかった。


「面白い話ねぇ」

アルージェは少し考えたが何も思い浮かばかった。

なので自分ができる話として、とりあえず生まれてから経験した楽しかったことを話し始める。


「おぉ!待ってました!」

金髪の少年は目を輝かせながらアルージェの話を聞き始める。


そしてどれくらい時間が経ったかは分からない。


「んで、そいつがめちゃくちゃ煽ってくるからさ、酒の飲み比べやったんだよね。そしたらソイツもう飲めなくなったのか「うぷっ」って言いながら倒れ込んだんだよ。本当に「うぷっ」っていう奴いるんだなぁって思ってさー」

アルージェは十歳の誕生日にサイラスと飲み比べした時のことを話していた。


「うぷっていう人ほんとにいるんだねぇ。幸太郎が言ってた漫画とかアニメでしか見たことないやぁ!プププ」

金髪の少年は口を手で押さえて笑っていた。


少年と話しているとちょこちょこと意味が分からない言葉を言うが、楽しんでくれていることは分かった。


「えっ?うわっ!ちょっと待って!?いっぱい話してもらったのに飲み物も食べ物も出してない!?ごめーん!すぐに用意するね!」

少年は何も無いところから机を出現させる。

そして同じようにテーブルクロスを出して、綺麗に机に広げる。

するとどうだろう。

ぱっと机の上に飲み物と食べ物が現れる。


「幸太郎は前と同じの飲み物でいいー?まぁ他のもの言われてもないけどねぇ」

アルージェの返事は聞かずにそそくさと飲み物を作り始めた。


何処からともなく現れる素材が見たことないものばかりで、本当にちゃんと飲めるものが出てくるの不安が過ぎる。


「はい!どうぞー!」

少年から出された物は案の定普通の飲み物ではなく、キラキラと七色に光る飲み物である。


「あ、ありがとう」

受け取ったのはいいが、これ本当に飲めるのかと疑問しか残らない。

貰った手前一口は飲むかとまずは匂いを嗅ぐ。

匂いは思っていたよりフルーティで第一関門は突破だ。


次に少しだけ口に含む。

思っていたよりドロッとしていたが、口に含んでみると匂い通りの味がした。


「えっ、すごくおいしい」

素直な感想を述べて、アルージェはグビグビと喉を通す。


「おぉ、いい飲みっぷりだねぇ」

少年は嬉しそうに笑っていた。


よく分からないドロっとした液体を全てを飲み干して、容器をテーブルに置く。

そして少年の方を見るとニヤニヤとしてアルージェを見ていた。


「えっ?」

アルージェはその表情を見て気が付いた。


これは騙された。

全部飲んだ後なので、もうどうすることも出来ない。


頭がズキズキと痛み始めていることを感じた。

そしてその痛みはだんだんと強くなっていく。


しまいには呼吸するだけでも頭がズキズキと痛む。

初めは「グギギギ」なんて声が出ていたが、声も出なくなっていた。


どれくらいの時間痛みが続いたのか分からない。

非常に長く続いていたかもしれないし、あっという間だったかもしれない。


段々と痛みが引いてきて、話せるようになってきた。


「本当に死んだかと思った」

アルージェは頭を抑えながらポロっと口に出す。


その言葉を聞いて少年はプッと噴き出し、そのままお腹を抱えて笑い始めた。


死にかけたのに何が面白いんだと声をあげようとした時、”今まで”のこと全てが頭の中を駆け抜けていった。


「日本。高校生。VRゲーム。田中幸太郎。トラック。事故。」

アルージェは頭に思い浮かぶ言葉を紡ぐ。


そして核心に迫る。

「異世界転生」


アルージェが呟く。


「はい、よく出来ました」

少年は笑顔でアルージェを見つめていた。


「俺は幸太郎?アルージェ?」

田中幸太郎の記憶があるが、アルージェの記憶も消えていなかった。


「思い出せてよかったよぉ!あのまま衝撃に耐えられずに廃人になるかもと思ってたけど、いらぬ心配だったね!」

アルージェは腕を抱えてブルブルと震えながら、本当に廃人にならなくてよかったと思った。


「あれ?寒い?空調切れたかな?」

少年が床をトントンと足ぶみすると、床が動き出し少年を天井の高さまで持ち上げる。


「んー?特に変なとこは無さそうだけどなぁ?」

天井の空調を観察する。


「いや、違うんだ。気にしないでくれ」

ため息をつきながらアルージェが答える。


「ふーん、ならいいか」

少年は床をトントンと足ぶみしてアルージェと同じ目線に戻る。


「それで君は幸太郎とアルージェどっちで呼ばれたいー?」

少年は軽い口調でそんなことを聞いてくる。


「そうだなぁ。田中幸太郎はあの時死んでるし、アルージェの方がいいかな」

自分の中ではアルージェの方が愛着もあるし、新しい記憶なのでアルージェの方が強い。


「はいはーい。それで、アルージェは全部思い出せた?」


「そうだね、恐らく全部思い出したよ。次々と話をさせて、飲み物無かったねとか気の利いたフリして飲み物出してきてさぁ、よくわからない飲み物飲まされたところまでバッチリね」

そういって少年をジーッと見つめる。


「もー、そんな目で見ないでいいじゃーん。ごめんってば!でもこれ良く出来たいたずらじゃない?」

悪びれる様子もなく少年はニコニコと話す。


アルージェはその姿を見て、少年と初めて会った時のことを思い出す。

少年元い、この神様は初めて会った時も別の神様に子ども扱いされた腹いせに記憶の初期化をしないで、送りつけるとか言ってはしゃいでいた。


「そんなことよりさ!ほら!今度こそお菓子とジュース飲もうよ!ね?」

一歩間違えれば廃人になっていたかもしれないのに、そんなことで済ませられる。

そう言ってやりたい気持ちをグッと堪える。


それに先程貰った飲み物の件もあるので、アルージェはジトーッと神様を見つめる。


「いや!今度は本当に大丈夫だから!絶対!命かけるから!」

神様は必死に釈明する。

そこまで言われたら食べるしか無いだろう。


並べられたお菓子や飲み物はどれも見たことない物ばかりだった。


「えーと、おすすめはどれ?」


「よくぞ聞いてくれました!まずはこれ!」

神様に言われるがままにアルージェはお菓子を手に取り、口に運ぶ


「こっちはどう?」

「これもおいしいんだよ!」

神様はお菓子を次々とアルージェに勧める。


あれもこれもと言われて結局全種類制覇した。

お菓子だけで、お腹が膨れる位には食べさせられた。


食べさせられている最中ボーっと昔こういう経験したことあるなと思っていたがようやくピンとくる。


「なんか孫を可愛がる祖父母みたいだね」


神様はショックを受けているのだろう。

ガーンという音が聞こえてきそうな位落ち込んでいる。


「どうせ僕なんて君より何万年も歳を重ねた老神ですよぉ」

急に屈んで地面を指でのの字を書き、拗ね始める。


「何拗ねてるんのさ!そういう意味じゃないから!」

アルージェは慌ててフォローを入れる。


十年前に一度話しただけなのに、気心の知れた友人と話しているそんな感覚だった。


「そうだ!アルージェになってからの話続けてよ!」

神様は急に立ち上がり、アルージェの横に座り直す。


「さっきまでふてくされていたのに切り替え早いなぁ」

アルージェは呟く。


「よーし、ならもう全部吐き出すつもり全部話すから覚悟しといてよ!」

アルージェは生まれてから今まで有ったことを話すことにした。


初めは鍛冶をやり始めたこととか、色々な武器の訓練をしたことを話していたが、生い立ちを話すと必然的に出てくるのが幼馴染シェリーの話だった。


シェリーの事を話すたびにシェリーが恋しくなり、それと同時に悲しみがこみ上げてきて声が震える。


「はぁ・・・」

少年はため息を吐く。


「実はさ今話してくれてたこと全部ここから見てたんだよねぇ。バラエティ番組見ながら仕事してる感じで、人間でもやる人いるでしょ?あんな感じで、まぁそこはどうでもいいや。んで本題ね。シェリーって子がいなくなったのを見た時からずーっと探してるんだけどね、その子の魂ここで見てないんだよねぇ。

魂の初期化は僕の権能だからさ、見逃すなんてありえないしね」

そこで神様は一息入れる。


「まぁこの意味は自分でしっかり考えてよ!」

神様はそんな適当な言葉で締めくくる。


考えられる答えは一つしかなかった。


「それは・・・」

答えを求めて言葉を発しようとするが、神様はアルージェの口元に人差し指を当てる。


「今日はここまでね」

神様がそう告げると、意識が遠のく感覚がした。


笑顔で手を振る神様の姿を最後にアルージェの意識が途絶える。


神様はアルージェの意識が完全にこの空間からいなくなったことを確認する。


「はぁ、こんだけしか言ってなくても一人の人間を贔屓するなって、主神に怒られちゃうんだけどねぇ。ほんと考えが古いし硬いんだよなぁ」

神様は深いため息をつく。


「あとほんとはここにある食べ物とか飲み物も絶対食べさせちゃダメだし。何より記憶を一時的に消しただけで転生させちゃった時点でめちゃくちゃ怒られるんだろうな。でもさ仕事には息抜きも必要だよねー」

神様はヘラヘラ笑う。


「さーて、お仕事にもーどろっと」

神様は体を翻し、椅子に座り机に置いてある機器を触り始める。





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