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第二十九話

「うーん」

アルージェが目が覚めると一面の岩壁が視界に広がる。

ここが何処なのか今がどういう状況なのか掴めず、覚えている状況を言葉にしてみる。


「街道まであと少しのところで強風が吹いて、気になったから森に入って。狼を見つけて。ゴブリンを倒して、ゴブリンを倒して、ゴブリンを倒して、とにかくゴブリン倒して。そしたら大きいゴブリン出てきて、体格差で負けそうになって、一か八かの賭けに出てうまく噛み合って大きいゴブリンを倒して、狼が近づいてきて、気を失った?」

覚えている限りの行動を言ってみたが、ここが何処なのか判断はつかなかった。


辺りを見渡すと結構広めの洞窟のようだ。

そして少し離れたところに狼達の姿が見えた。


助けた狼がどの個体化は分からないが、一対多で何か言い合っているような感じだった。

狼が何を話しているのかは不明だ。

どの狼もガウガウバウバウ言っているようにしか聞こえない。

ただあまりいい雰囲気の話し合いではないような気がする。


しばらくそのまま狼たちの様子を見ていた。

恐らく一匹で他の狼達に何かを言っているのが僕が助けた狼だろう。

あの美しさに魅入ってしまったんだ。

間違えるはずがない。

どの個体非常に毛並みが良くて、白い毛が綺麗だけど助けた狼が一番綺麗だと思う。


初めて見た時はゴブリンの血で汚れていて所々黒ずんだりしていたが、何処かで落としたのだろう。

白さが際立っていた。


今更だけどあれからどれくらいの日が過ぎたんだろう。

町に行って誰かに会う予定もないから、別にどれくらい経っていても構わないんだけれども気にはなる。


時間は夕方位だろうか。

洞窟の入り口からチラリとしか見えなかったがオレンジがかっている気がする。


とりあえず辺りの様子を確認したいので、立ち上がろうと思って体に力を入れると全身に激痛が走る。


「いったぁ!!!」

思わず叫んでしまう程に痛かった。


どうやら激しい戦闘で気付かないうちに体中傷だらけになっていたようだ。

それに普段あそこまで激しく動き回らないから、体の筋肉が悲鳴を上げていた。


「こんなに体が痛いのは初めてかもしれない」

痛みに耐えながら近くの岩壁までに移動しもたれかかり、狼達に視線を向ける。


どうやら先ほどの声で狼達もアルージェが起きたことに気付いたようだ。

一斉にこっちを見るもんだから少し驚いてしまった。


「あははは・・・。どうも・・・」

乾いた笑いを出しながら会釈する。


一匹だけで孤立していた狼が走ってかけてくる。

そしてアルージェの周りをくるくると回りアルージェの体を観察する。


「助けた子で間違いないかな?」

声を掛けると狼は「バフッ」と声を出して返事をする。


どうやら僕が言っていることが分かる様だ。

なんとかなりそうだと胸をなでおろす。


「君も無事で本当に良かったよ。ここまで連れてきてくれたのは君かな?」


これにも「バウッ」と狼は返事して、そのまま頭を下げて伏せの様な体勢をする。


「君が無事で本当によかったよ」

あの体勢にどういう意味が込められているのか分からないが、とりあえず下げていた狼の頭に痛みを我慢しながら腕を持ち上げてそのまま撫でまわした。


狼は特に表情も変えずに黙って撫でられていた。


狼は少しの間撫でられて満足したのか、壁にもたれかかっていたアルージェの背中側に移動する。

そして壁とアルージェの腰あたりに出来た隙間に頭を突っ込み、頭を捩じ込んでくる。


「えっ、なになに?」

アルージェは体が痛くて抵抗しないでいると、無理矢理アルージェの体を浮かす。

その隙に自身にもたれかかるように、岩壁とアルージェの間に体を入れ込む。


「ん?もたれかかっていいの?」

アルージェが狼に話しかけると狼は体を丸めて、尻尾をパタパタと動かす。


「なら遠慮なく」

アルージェが狼にもたれかかると狼は満足したのか目を瞑った。


「守ってくれたお礼なのかな?」

アルージェは狼に話しかけるが聞こえているだろうに知らんふりをして、もう寝てますアピールをしてくる。


「なんだよ。素直じゃないなぁ」

アルージェが狼の頭を撫ではじめると、尻尾はゆらゆらと揺れていた。


狼の体温を感じながら頭を撫でていると、離れたところから見ていた別の狼達が恐る恐る近寄ってくる。


そしてアルージェに対して伏せの様なよくわからない体勢をし始めた。

みんなが同じ体勢をするので、アルージェは面白くなってくる。


「それどういう体勢なの」

アルージェは笑いながら問いかけるが、誰からも返事はなかった。


「まぁ返事されてもバウッとかガウッじゃわかんないけどね」

狼達は独特な体勢から微動だにしない。


どうしたもんかと、とりあえず撫でていた手をあげてお礼を言うと皆満足げな顔をして、元居た場所に戻って行った。


手を地面に置こうとすると、目を瞑っていたはずの狼が顔をあげてジトーッと手を凝視していることに気付く。


「えっ、何?」

アルージェが手を右に左に移動させると狼は目で追ってくる。


「もしかしてもう少し撫でてほしいの?」


「ウォフ」

どうやら狼はアルージェに撫でられるのが、気に入ったようだ。


「はぁ、一応けが人なんだけどねぇ」

アルージェは頬を人差し指でポリポリと掻く。


狼が早くと目で急かしてくるので頭を撫で始めると、上げていた頭を下ろして目を閉じて眠り始めた。


「なんだよ、もう」

口ではこう言っているがアルージェも満更でもなかった。

狼の毛並みが良く撫で心地がいいからだ。


ぼーっと呑気に毛並みを堪能していたが、何故狼があんなところで襲われていたのか理由が気になった。


「まぁ、いっか!」

襲われていたかは理由は不明だけど、狼を救えたことは事実だ。

シェリーを失ったあの頃からちゃんと成長していると実感することが出来た。


「けど・・・」

今どれだけ強くなれたとしても失ったシェリーは帰ってこないという事実にアルージェは自然と体に力が入る。


アルージェの様子を察したのか、狼が顔をあげてアルージェの頬を舐める。


「うわっ!?」

アルージェは驚いて声を出してしまう。


狼に視線を向けると、前足でトントンと優しく地面を叩く。

「今は寝なさい」そう言われた気がした。


「そうだね。傷を治すためにも今は寝ることにするよ」

アルージェがそういうと狼は「フンスッ」と鼻息を荒くして、顔を下ろし目を閉じる。


狼の体温が心地よくて、アルージェは意識がフワフワとし始める。

村を出てから満足に睡眠を取れていなかったのもあるだろう。

そのまま欲求に身を任せた。





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