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第二十八話

襲い掛かってきたゴブリン達の連携は見事な物だった。

各々の隙を埋めるように波状攻撃を仕掛けてくる。


だがアルージェも小さな隙を見つけては一匹また一匹とゴブリンを仕留めていく。

守る。

攻める。

どちらを取るか選択を強いられる度にこれが最善の手だと信じて。


一歩間違えればあっという間に多勢に無勢でやられてしまうだろう。

アルージェがどれだけゴブリンを仕留めてもどこからともなくゴブリン達がフォローに入り、全く攻勢が緩むことは無かった。


それでもアルージェは諦めずに針穴に糸を通すようにゴブリンを仕留めていく。

アルージェの隙をついて横を抜けて狼の方に行こうとするゴブリンも前に回り込んで、絶対に狼のところには向かわせない。


「どんだけいるんだよ・・・」


もう何度こうしてゴブリンを仕留めただろうか。

もちろんアルージェもゴブリンから何度も攻撃を受けていた。

幸い父と母から貰った革の鎧を装備していたので、ゴブリン達が持っているなまくらな剣ではかすり傷はあれどアルージェに致命傷を与えるには至っていない。


アルージェの周りにはゴブリンの死体が積まれていた。


狼はただその様子を見つめていた。

何故初めて会った自分にここまでしてくれるのか理解できなかった。

放っておけば良いものを。

自分だけでも逃げれば良いものを。

何が有っても自分の元にゴブリンが来ないように決死の覚悟でゴブリンを仕留めるアルージェに敬愛すら感じ初めていた。


狼が何を考えているかなどアルージェには予測する余裕はなかった。

ここにきてアルージェに更なる絶望が訪れる。


ゴブリンの大群の奥から明らかに気配の違うゴブリンが現れたのだ。

気配だけでなく体格も他のゴブリンとは一線を画していた。

アルージェの身長の倍はあるのではないかという程に大きなゴブリンはアルージェの周りに積まれている仲間の死体を見て、獣のような雄叫びを上げアルージェに殺意を向けた。


ゴブリンの雄叫びにアルージェの皮膚がヒリつく。


「あいつがボスか」

アルージェは剣で自分の体を守りながら呟く。


正直ゴブリンがどれくらいの数いて、後何匹倒せばいいのかわからなかった。

あいつが現れたことによってようやくゴールが見えた気がした。


絶望的な状況に変わりはなかった。

それでも今のアルージェには転機にすら感じた。


だが、アルージェの体も狼を守りながらの戦いに体は限界だった。


アルージェは後ろにいる狼の方をチラリと見る。


狼が何を考えているかは分からないが、アルージェから目線を動かすことなくアルージェをただ一点に見つめていた。


「ははは!君が何を考えているかは分からないけど、絶対に君を守るからね」

守るべき物が有ると思うと体の底から力が湧いてくる。

そんな気がした。


ゴブリン達に視線を向けるといつの間にかゴブリン達はアルージェの周りを囲んでいた。

そして大型のゴブリンが前に出てくる。


「なるほど、タイマンでって訳か」

アルージェは絶望的な状況に笑うことしか出来なかった。


「ギャギャギギャギギャギャァァァァァァァァ」

ゴブリンが雄叫びを上げると空気が揺れているのを感じる。

大型のゴブリンがアルージェに向かって走ってきて第二戦が始まる。


ゴブリンはまず背中に持っていた雑な作りの大きな剣を手に持ち、ただ闇雲に振り回す。

アルージェは軌道をみて、躱すし、躱しきれないものは剣を使って軌道を変えていなす。


「なんて馬鹿力。これはまともに食らったらほんとにダメな奴だ」

ゴブリンは技もなくただ力任せに振っているなのに、剣で受け止めると手がジンジンした。


それに体がでかくて腕が長い。

そこにでかい剣を持つことで攻撃の範囲がとにかく広かった。


何とか前に出てこちらの攻撃を当てようと考えるが、ゴブリンは体格差を利用して近づけないように攻撃をしてくる。


「力だけじゃなくてちょっとは賢いんだ。厄介すぎでしょ」

何か打開策が無いか考えるが、ただ時間だけが過ぎる。


「これだと近づけない長時間戦うだけでジリ貧だ。一か八にかけるしかないか」

ゴブリンの剣の軌道を予測して、一番いいタイミングの攻撃を待つ。

そして待ちに待った上から下に振り下ろす攻撃が来ると柄と切先を持ち、ゴブリンの攻撃を受け止めるかのように構える。


ゴブリンはその行動を見て、回避が追い付かず遂に受け止めるのかと内心喜びながらほくそ笑む。

そのままありったけの力を込めて、剣を振り下ろす。


アルージェは咄嗟に構えを解く。

そしてゴブリンが振り下ろす剣が頭に当たるか当たらないかところで、地面に背中から倒れ込みそのまま剣をゴブリンの顔目掛けて投げつける。

反撃が来ると思っていなかったゴブリンはアルージェが投げた剣が目に突き刺さり、痛みで叫ぶ。

「グガガガガァァァァァァァァ!!!!!」


刺さった反動で後ろに数歩下がり、アルージェに背を向けて前屈みになり自身が持っていた剣を手放す。

目に刺さった剣を両手で抜こうとする。


アルージェはその隙にアイテムボックスからショーテルを取り出す。

ショーテルは肉を切ることに特化している武器で、まずは足の腱を切断する。

そのまま流れるように逆側の足の腱を切断すると、ゴブリンがバランスを崩し倒れ込む。


バランスを崩したゴブリンは剣を抜こうとしていた両手を反射的に地面につき、自分の体を支える。

アルージェは手に持っていたショーテルをゴブリンの背中に突き刺して、アイテムボックスから鉈を取り出し、地面についているゴブリンの肘から下を切断する。


切断されたゴブリンは片手では踏ん張りが効かず、そのままバランスを崩し仰向けに地面に倒れ込む。


仰向けになったゴブリンの視界にはアルージェが鉈を振り上げているところが映り込む。


死。

ゴブリンは年端も行かぬ子供に対して死を感じた。


「これで終わりだぁぁぁぁ!」

アルージェは今自分が出せる限界の力で鉈を振り下ろす。


「ギュギャァァァァァ!!」

ゴブリンも残った力で雄叫びを上げ、最後の抵抗で残った腕を上げて顔を守る。


ゴブリンの腕は鉈であっさり切断され、そのままの勢いで首まで切断される。


「ガギャガギャガギャ・・・・」

ゴブリンの断末魔を上げるが徐々に弱まっていく。


腕、体からは大量の血が流れだし、そのままゴブリンは動かなくなった。

ゴブリンが動かなくなったのを確認すると、アルージェは周りを囲んでいるゴブリンを睨みつける。


「お前らのボスは倒した。まだ戦いたい奴いるならかかってこい!!」

と叫ぶとゴブリン達は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。


「本当は追いかけて全部倒した方がいいんだけど、さすがにもう限界だ・・・」

アルージェが鉈で自分の倒れそうな体を支えていると、狼が走って近づいてくる。

狼はアルージェの前に立ち、何度も嬉しそうに頬を舐める。


「ふふふ、君を守れて本当に良かったよ・・・」

アルージェは途切れそうな意識になんとかしがみつきながら、狼を撫でる。

狼は気持ちよさそうに目を細めてクーンと声を出す。


狼の気持ちよさそうな顔を最後にアルージェは限界を迎えて膝から崩れ落ち、気を失った。

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