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第二十六話

「やっぱりあの村の人達は優しいな」

アルージェは歩きながら涙を拭って呟く。


ペチっと頬を叩き気合を入れる。

「みんなに集まってもらって激励までもらったんだから、町に到着するまでに魔物にやられるなんて情けないことにはならないようにしないと」

アルージェは気合い十分に町へと続く道を進んでいく。


フリードから聞いた話によると、街道まで大人の脚で大体5日くらいで到着すると言われた。

街道に出てしまえば町までは三日もあれば到着する。


どちらかといえば町に行く為の街道に出るまでの方が時間が掛かるらしい。


街道に出てしまえば道は整っているし、警備隊や冒険者が魔物を退治しているので、魔物が出る確率もグーンと下がりすぐに町にも到着する。


村から街道までの道には森があったり、道もそこまできれいに整備されていないので進みにくい。

それと魔物が出るので苦労するだろうと言われた。


なので、街道に出るまでは気を抜くことはできないだろう。


フリードからの聞いた町への行き方を思い出していると五匹のゴブリンが前を歩いていた。

こちらにはまだ気づいていなさそうだ。


「先は長いから体力できるだけ温存しておきたいんだけどな」

アルージェはアイテムボックスからスラ弓を取り出し、弓を引き絞る。


狙いを定めて放つと一番後ろにいたゴブリンの頭に突き刺さる。

矢が頭に突き刺さったゴブリンは何の反応もせずにそのまま地面に倒れ込む。

恐らく即死だろう。


ドサっと後ろで物音がして気になったゴブリンが後ろを振り返る。

そこにはさっきまで一緒に歩いていた仲間が倒れていることに気付く。


慌てて他の気付いていないゴブリンに「グギャギャ」と声を掛けていた。


その隙にもう一度弓を放ち、二体目も同じように頭に矢を当てて仕留める。

どこから矢が飛んできているか把握したゴブリン達がアルージェの方に走ってくるが、構わずもう一度弓を放ち先の二匹と同様に三匹目を仕留める。


「残り二体」

アルージェはスラ弓をアイテムボックスに片付けて、腰に携えた剣を抜き構える。

先に到着した方のゴブリンがこん棒で殴りかかってくるが、分かりやすい直線的な動きなのでアルージェは容易く躱す。


躱した先にもう一匹のゴブリンが、刃毀れをしてるボロボロの剣を振り回し突っ込んでくる。

だがアルージェは持っていた剣で相手の剣を弾き、顔に蹴りをいれて少し距離を離す。


こん棒を持っていたゴブリンに肉薄し、左下から右上へと切り上げる。

ゴブリンは咄嗟にこん棒で防ごうとしてきたが、それよりも切り上げがのほうが早くゴブリンは脇辺りから切り裂かれる。

もう一匹のゴブリンを確認する。

敵わないと理解したのかすでに逃げようと走り出していたのが、追いかけて背中側から左胸辺りに刺突を繰り出す。

アルージェの刺突は何の抵抗もなく左胸に突き刺さりゴブリンは絶命する。


念の為周囲を警戒し他にも仲間がいないか確認するが、何処からも動くものも気配もない。

アルージェは剣をブンッと振りについた血を払い、鞘にしまう。


「昔はゴブリンを倒すことも出来なかったのに今ではこんなにあっさりか。成長したんだなぁ」

アルージェは自身の成長を感じながらしみじみと呟く。

その後、何度手合わせしても勝てなかった幼馴染シェリーの事を思い出す。


「初めて森に行った時、僕は何もできずにシェリーに頼りっきりだったよね。僕あれから強くなったよ。シェリー・・・」

少し悲しい気持ちになったが、「ダメだ、ダメだ」と首を振り気持ちを切り替えた。


周りに転がっているゴブリンの死体を見て、解体をして町で売ろうかと考えた。

だが、ゴブリンから取得できそうな素材は町で売っても大したお金にはならないので、荷物になるだけだと考え、そのままにしておくことにした。


あのゴブリンを倒してからどれくらい経っただろうか。

歩を進めるが、どこらへんを歩いているのかも分からない。

街道まで後どれだけなのかもわからない状況だった。

村には町まで行く為の地図もなかったので、「この道を道なりに進んでいけば街道に出る」というフリードが教えてくれた情報を元に進むしかない。


アルージェは不安で押しつぶされそうだった。

初めての道。

魔物がいつどこから襲ってくるかも分からないこの状況に精神をすり減らしながら進んでいた。


そうこうしているうちに辺りが暗くなっていく。


「そろそろ野宿の場所を探さないと。夜になったら何も見えなくなるか」

アルージェはキョロキョロと野宿に適していそうな場所を探しながら歩を進める。


「おっ、この辺りにしようかな」

道から見える場所に少し開けた場所があったので、そこで今夜過ごすことにした。


火をおこす為に燃えそうな木を探して、火を起こせるように整える。

村で事前に買っていた火起こしの道具で火をつける。

近くにテントを張って、食事の準備を始める。


テキパキとスープを作り、事前に買っていた硬いパンと一緒に食べ始める。


「食料足りるかな?結構村で用意してきたつもりだけど、パンは早めに食べないとダメになるかな」

話し相手もいないので独り言をブツブツ言いながら食事を終わらす。


「さてと」

アルージェが腰に携えている剣の手入れを始める。

剣の手入れが終わる頃には辺りが完全に暗くなっていた。

自分だけしか存在しないのではないかと思うほど、静かな世界に少し恐怖を覚えていた。


ブンブンと恐怖心を振り払うように首を振る。

「えぇい、こうなった早めに寝てしまおう」

アルージェはテントの方へ向かい寝袋を取り出し、眠ることにした。


頭がフワフワしてきてもう少しで眠れそうという時、どこからかガサガサと音がする。

その音で目が覚めて辺りを見渡す。

火を起こしている周囲は確認できるが、その他は暗くて何も見えない。


「誰かいるのか!」

アルージェは寝袋から出て、隣に置いていた剣に手を伸ばす。

剣を構えたまま少し様子を見てみたが、全く反応は無い。


誰もいないと分かり剣を置き横になると、すぐに眠くなりまたフワフワとした感覚に陥る。


だが、またガサガサと聞こえる。

アルージェは目を開き、静かに剣に手をかける。

今度はなるべく音が出ないように動かないようにして、音を頼りに気配を感じ取ろうとするが、何かがいる様子はない。


そのまましばらく様子を伺い、何もないと判断すると剣から手を離し目を閉じる。


こんなことが明るくなるまで続いた。

アルージェは満足に寝ることが出来ないまま、町に向けて出発するしかなかった。


そんなアルージェの都合等全くお構いなく、魔物達はアルージェの前に現れる。


日中は移動と魔物との戦闘で気を抜くことが出来ず体力が削られる。

夜は物音に敏感になり何か音がすれば起きてしまい満足に寝ることが出来ない。


出発してからずっとそんな日が続いた。

大人の脚ならそろそろ街道に到着していてもおかしくないくらいには歩いた。

だがアルージェはまだ十歳で、疲労のせいで進み具合もあまり芳しくなかった。


そして村を出発してから七日目に事件は起きた。


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