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第二十五話

迎えた出立の日。

僕はこの村であった色々なことを思い出していた。


幼い時サイラスに一方的に殴られたこと。

父さん母さんと武器の修行をしたこと。

ロイに森の知識を教えてもらい実際に森での野宿などのやり方を教えてもらったこと。

弓の使い方を教えてもらったこと。

グレンデに鍛治を教えてもらったこと。


そのほとんどの思い出に紐付いているシェリーのこと。


「シェリー。君はもしかしたら生きていないかもしれない。けど僕は君を探しにいくよ」

アルージェは顔を両手でペシっと叩き、気合を入れ直す。


荷物を持って玄関に行くとフリードとマールを抱きかかえたサーシャが笑顔で立っていた。


「おぉ!似合ってるぞアル!」

今着ているものは村を出ると伝えた時にアイテムボックスの中に入れてくれていたレザーアーマーだ。

必要最低限の箇所のみを守るようにできていて動きやすい。


そして腰には師匠の元で作ったショートソードを携えている。

アイテムボックスと呼ばれる巾着状の袋も剣を携えている方とは逆につけて、いつでも中の物を出せるようにしている。


アイテムボックスの中には師匠と一緒に作った武器や、野宿のための道具を容量のいっぱいになるまで入っている。


それに5歳と10歳の誕生日に貰った、特別な剣も2本とも中に入れている。

子供が高価な物を持っていると当たり前だが野盗に狙われやすくなるらしい。

父さんには余程の人数に襲われない限り負けないだろうと太鼓判を押されたが、念には念を入れたほうが良いと思いアイテムボックスに片付けている。


「辛くなったらいつでも村に帰ってきていいからね。だから必ず生きて帰ってきてね」

マールを父さんに預けて母さんが突然抱き付いてきた。


「うん。師匠との約束もあるし簡単には死なないつもりだよ」

抱きしめてくれていた母さんを僕も抱きしめた。


「にいにい、どっかいくの?」

父さんに抱き抱えられていたマールがよくわからないという顔で聞いてきた。


「兄ちゃんは、ちょっと見つけなきゃいけない物があるから探してくるね」

そう言ってマールの頭を撫でる。


マールは嬉しそうに頭を撫でられて、

「そっかー、ならはやくかえってきてねー?またかわであそぼー?」


「うん。なるべく早く帰ってくるよ」

アルージェはマールを撫でるのをやめる。


「よし。そろそろ行くよ」


「村の出入り口まで見送りに行くわね」

母さんがそういうと父さんもマールを抱き直して後ろからついてきてくれた。


村の出入り口に着くまで父さんがこういう時はどうしたらいい等、冒険者だった時に経験したことを

教えてくれた。


「父さん、母さん行ってきます」


「おう!行ってこい」

「はい。いってらっしゃい」


アルージェが村の出口に向かおうとすると、「待て!!!アルージェ!!!!」と叫び声が聞こえる。

アルージェが咄嗟に振り返るとサイラスがいた。


「おいおい!俺達に挨拶無しで出ていくなんて水臭いじゃねぇか!!」

サイラスは駆け足で寄ってくるとゼェゼェと言いながらも言葉を紡いだ


「いや、朝早いしさ。僕が村を出ていくだけのことでわざわざ挨拶いくのも違うなって思ったんだよ」


「そういうところが水臭いって言ってんだろ!俺はお前を最高のライバルだと思ってんだ。あれから一度も勝てたことはねぇがな。そんなやつの旅立ちで挨拶に来られて迷惑なんて思うかよ!」


「サイラス・・・」

はっきり言って出会いは最悪だった。

僕が許さなければおそらくは途切れていた繋がり。

でも、あれからサイラスは本当に改心して、村のためになると思ったことは親のリベルにも進言したりしているらしい。


そういうところが見えてきて、本当は悪いやつじゃないって思ってサイラスからの謝罪を受け入れた。


「俺の知らないところで絶対に死ぬなよな!勝ち逃げなんて許さねえからよ!」

サイラスは拳を握り前に突き出してきた。


よくわからなかったので惚けていると、恥ずかしそうにして、「おい!拳と拳を軽くぶつけるんだよ!」と言ってきた。


そう言われてようやくピンと来た。

「絶対生きて帰ってくるよ」

アルージェも前に拳にを突き出しサイラスの拳に軽く当てる。


そうこうしている内にサイラスが叫んでた声に釣られて、村のみんながゾロゾロと集まってきていた。


「おっ、今日出発だったな!」

集まりの中からロイが近づいてくる。


「はい、昨日話した通り今から出発です」


「だとよ!みんな!なんか激励の言葉でもかけてやれや!」

集まってきた村の人達に言った。


まずはライが出てきて「俺ぜってぇ、強くなって兄ちゃん追いかけるから!」と言われた。


ライの一言を皮切りに村のみんな口々に激励をくれる。


「冒険者なるんだってな!成功しなくてもここがアルの故郷だからよ!いつでも帰ってこいよな!」

「めちゃくちゃ成功したら街に遊びに呼べよな!もちろんアル払いで!」

「冒険者として成功したらここがお前の生まれた村だって行商人に自慢するな!」

「アルとサイラスの飲み比べまた見たいからよ、ちゃんと帰ってこいよな!」


多少自分達の欲望は入っていたが嫌な気はしなかった。


二ツールは狭い村だからみんな僕のことを知っていて、僕もみんなを知っていた。


何かあった時は親戚の子供みたいに優しくしてくれていたし、ダメなことはダメだとみんなが教えてくれる。

そんな村だった。


村のみんなから貰った言葉がすごく暖かく感じた。


アルージェは自分の出発の時にみんなが集まってきてくれるとなんて微塵も思ってなくて、目頭の奥がグッと熱くなる。


涙をみんなには見せたくないので、すぐに出口の方を向いて出発した。


「いってきます!!!」


アルージェは拳を上に掲げて大きな声で叫び、町へと出発した。

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