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第二十二話

「みんな!今日は我が子アルージェが十歳になる!集まってくれてありがとうな!」

フリードは一歩前に出て、皆の方に視線を向けて話を続ける。


「十歳と言うことはもう成人と言われる年齢になるわけだ。よくここまで生き延びてくれた!今日は俺の奢りだから好きなだけ飲んで、食って、騒いでくれ!それじゃあアルの十歳の誕生日に乾杯!!」


フリードが乾杯を宣言すると参加者全員が「乾杯!」と声を上げる。

十歳はこの世界では成人になる歳である。


アルージェ達が住んでいるニツール村は規模もそこまで大きな村ではない。

そもそもの人口が少なく、小さなことでも祝い事として村を挙げて行われる行事になっている。


また、十歳までに病気や魔物に襲われて死んでしまうことも珍しくない為、十歳の誕生日はどこの家庭も盛大に行うことが多い


アルージェは村の皆に次々から次へと声を掛けられていた。


「アル兄ちゃん!誕生日おめでとう!!」

ライがまずアルージェに近付き、話しかける。


その後ろからロイが話しかけてくる。

「アル坊も十歳か、なんか感慨深いぜ。弓を初めて教えた時はまだ鼻垂れ小僧だったのによ。あの時の事、昨日のように覚えてるぜ!」


「それはソフィアさんの花壇めちゃくちゃにして怒られたからでしょ?」


「なかなか言うじゃねぇか!ガハハハハ!」

シェリーがいなくなってから一時期離れていたが、ロイもソフィアもアルージェの事を変わらず本当の息子のように色々と良くしてくれた。


ライとマールが生まれてから前よりも家族ぐるみの付き合いが多くなっている。


「あら、ロイ。私はあの花壇のことまだ少し許せていないですよ?」

ソフィアがロイの後ろから現れて、ロイにボソッと呟く。


「えっ?でも俺謝ったし、花壇もちゃんと別のところに作り直したじゃねぇか!」

慌てた様子でロイがソフィアに弁明する。


「あの時、散っていった花のこと忘れてません」

ソフィアはそう冷たく言い放つ。


「うぐっ・・・」

ロイは言葉を詰まらせる。


「父ちゃん・・・、弱い・・・」

ライはロイがソフィアに言い負かされているのを見て、やれやれという顔をする。


その様子をみた後、ロイから目線を外し、アルージェの方を向く。


「アル君、十歳のお誕生日おめでとうね。本当はシェリーと一緒に迎えたかったけど・・・」

ソフィアは少し俯いたが、吹っ切れたようにアルージェの方を向き直す。


「アル君の十歳の誕生日プレゼント用意してあるのよ。ほら、ロイ!いつまでも固まってないで、アル君にあれ渡さないの?」


固まっていたロイが我に戻る。

「おぉ、そうだったな!アル坊これを」

そう言って、ロイはアイテムボックスから一振りの剣を取り出す。


その剣をアルージェに渡す。


アルージェは剣を受け取り鞘から取り出す。

橙色の線の入った、翠色の刀身に金色の柄、鍔は少し幅広く真ん中には何かが嵌めれるよう幾つかくぼみが開いてるブロードソード。


以前フリードから貰ったものと形は瓜二つだが、刀身の色が違ったり細かい装飾等が微妙に違う。


「これって・・・」

剣を見た瞬間からシェリーの為に作られた剣だと薄々感づいていた。


「あぁ、アル坊が五歳の誕生日に剣を貰っていただろ?あれをシェリーが見て俺達に剣が欲しいって言ってきたから十歳の誕生日の時に渡してやろうとグレンデさんにお願いしてたんだがな。渡すことができなくなっちまったからよ、アル坊が貰ってくれないか?」

少し寂しそうな顔でロイはアルージェにお願いする。


「本当にいいんですか?」

この剣は値段もそこそこするだろうし、なによりシェリーの形見のようなものだ。

アルージェは本当にもらってしまっていいのか躊躇う。


「あぁ、貰ってくれ!アル坊と一緒に居れる方がシェリーも喜ぶだろうしな」

そういってロイは剣を前に突き出す。


アルージェは受け取った剣を抱きしめて「シェリー・・・」と呟いた。


「ささっ、アル君。せっかくのお祝いなのに湿っぽくしちゃってごめんね!今日は私たちもいっぱい食べていっぱい飲んで、騒がせてもらうわね!」

そういうとロイ達は離れていった。


「んあ?どうしたアルよ?お主の誕生日なのにそんな酒の切れたドワーフみたいな顔をして」

アルージェの鍛冶の師匠グレンデが話しかけてきた。


「あっ、師匠。いえ、別に何もないです」

抱きかかえていた剣を片手で持ち、グレンデの方を向く。


「ほう、その剣は」

そう言うとアルージェの持っている剣に目をやる。

この剣はアルージェの物と同じでグレンデが作ったものだった。


実は依頼される前からシェリーの為に作っていたが、依頼されてからタダ同然でロイ達に譲ったのだ。


「あっ、これはシェリーの形見なんだけど、ロイさん達から誕生日プレゼントとしてもらったんだ。僕と一緒に居たほうがシェリーも喜ぶって言われて」


「なるほど、確かにそうかもしれんな」

自分の作った剣を見て、グレンデは寂しそうな表情をする。


「正直、惜しい人物を失ったと儂は考えておる。あの子はあのまま剣の道を続けていれば、世界に名を轟かせる剣士になっておったじゃろうな。儂がこの剣をもっと早く渡しておれば、彼女を失わずに済んでたのかの・・・」

グレンデもシェリーの剣の才能を買っていた。

シェリーの剣筋を一目見た時から大物になると思っていたのだ。


「すまんのアル。歳をとると涙脆くなって敵わんわい。その剣もアルのところにいる方が幸せじゃろう、大事にしてやってくれ。さっ、酒でも飲んで騒ぐかの!今日はフリードのやつがもう勘弁してくれって言っても飲み続けるぞい!カカカカカ!」

そういってグレンデは酒がすぐに取れる席に移動していった。


「師匠・・・」

アルージェがシェリーを思い出し俯きになっていると、後頭部に軽く衝撃が走った。


「痛っ!」

頭を摩りながら振り向くと、そこには両手に酒の容器を持ったサイラスがいた。


「お前の誕生日なのに何浮かねぇ顔してんだよ!笑え!笑え!」

そういうと酒の入った容器をアルージェに押し付ける。


「ん??」

アルージェは意味も分からず首をかしげていると、サイラスが「はぁ」とため息をつく。


「成人したんだろ?男見せろや!!」

そういうとサイラスは逆の手に持っていた酒がなみなみに入った容器を、自身の口元に持っていきゴクゴクと酒を流し込む。


そして一気に飲み干す。

「アルージェ、お前も続けやぁ!!」

そういってもう一度酒の入った容器をアルージェに差し出す。


サイラスが叫ぶと、別の席で飲んでいた村の人達も「なんだなんだ」とアルージェ達の様子を見る。


アルージェは周りに集まってくる村人を見て、飲むしかないと覚悟を決める。


サイラスの持っている酒を受け取るとサイラスは「へへ」と笑う。


アルージェは覚悟を決めて受け取った酒をグビグビを流し込む。

初めての酒で少し味に戸惑ったが、何とか飲み干した。


「やるじゃねぇか、アルージェ。流石は俺のライバルだ」

サイラスはアルージェが持っている空の容器を奪い取り、更に酒を注いでアルージェに渡す。


「おらぁ!次行くぞ!」

サイラスはまた酒がなみなみに入った容器を天に掲げ、そのままグビグビと勢いよく流し込む。


飲み切った容器を逆さに向けて何も入っていないことをアピールする。

「おぉん?おこちゃまはもう限界かぁ?」とアルージェを煽る。


アルージェもそう言われて、その場で更に酒を流し込む。


一気に飲み切って容器を逆さに向けて掲げると周りからも「おぉ」と声が上がる。

「いいぞ!もっとやれ!」

「まだまだいけんだろアルージェ!」

「サイラスもそんなもんじゃないだろ!」

とか好き勝手に言っているのが聞こえてくる。


その声に答えるように、アルージェとサイラスは更に酒を流し込む。

飲む回数が重なるごとに周りにいる人がどんどん増えていき、五杯を過ぎたあたりで全員がサイラスとアルージェの飲み比べを観戦している。


一杯また一杯と酒を飲み干す度に周りから歓声が上がり、十杯目の途中でサイラスが「うぷっ、もう無理・・・」と言って、その場に倒れ込んだ。


そしてアルージェが飲み干し空の容器を掲げる。

「おっしゃあああああああ!」と叫び声をあげると周りにいた村人達から歓声が上がる。


「おぉ!アルージェのやつサイラスに勝ちやがった!」


「やるじゃねぇかアルージェ!」


「お前めちゃくちゃ飲めるんだな!」

村人がアルージェの周りに集まり、もみくちゃにされる。

アルージェは「うわぁ、やめろ!」と言いつつも楽しそうに笑っていた。


遠目からフリードとサーシャはあんなに楽しそうに笑っているアルージェを見るのが、久しぶりでサーシャは口元を押さえて涙目になっていた。


フリードは眠っているマールを抱き抱えている腕とは反対の腕で抱き寄せる。

アルージェの事を見ながら「いい友達を持ったな」と呟いた。


その近くにいたロイとソフィアもソフィアの膝で眠っているライを撫でながら、笑顔で飲み比べの様子を見ていた。

途中でロイもソフィアも大声で茶々をいれて楽しんでいた。


酒の近くにいるグレンデは、二人の様子を見て過去の情景を思い出していた。

「歳を取るとかなわんな」と呟き、その思い出を振り払うよう頭を振りに酒を飲み干す。


この後、宴はアルージェとサイラスの飲み比べに当てられた村人達が自分達も飲み比べを始め、更に盛り上がりを見せた。

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