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第十五話

あれから月日が経ち、アルージェは六歳になっていた。


六歳になってもやっていることは変わらず、今日も朝からシェリーと一緒に基礎トレーニングを終わらす。


「だいぶ慣れてきたね。このトレーニングも」

アルージェは、トレーニングで火照った体を伸ばしながらシェリーに話しかける。


「そうだねー。明日からもう少し増やそうかなー」

シェリーも体を伸ばしながら答える。


もうかれこれ2年くらい一緒にトレーニングをしていて、だいぶルーチン化している状態である。


「あっ、そうだ!今日はパパとママのお手伝いするから、午後はお休みするねー!」

シェリーは体をほぐし終わると、そのまま家に帰る用意を始める。


お互いにだいぶ大きくなってきたので、自分達のやりたいことをだけをしとくわけにはいかない。


辺鄙な田舎。

人手は常に足りないので、家の手伝いをすることも多くなってきた。


「わかった!僕はどうしようかなぁ」

アルージェも家の手伝いをしようと思ったが、立ち止まる。


「あっ、僕は師匠のところに行こうっと!」

クルリと体を反転させて、家に背を向けグレンデのもとに向かう。


アルージェはグレンデの家に入ると、カンカンと金属を叩く音が聞こえる。

その音を聞いてアルージェは鍛冶場に向かう。


「師匠!なかなか来れなくてごめんなさい!来ました!」

アルージェは鍛冶場に入って叫ぶように挨拶をする。


「んあ?よく来たな!アリアのとこと、ステイのとこから農具の修理依頼が来てるんじゃ。今日来なかったら儂がせにゃならんとこじゃったわい!ってことで頼んだぞ」

グレンデはアルージェに指示を飛ばす。


「し、師匠!いきなり弟子遣いが荒いよ・・・」

アルージェは来て早々になかなかな量の仕事を頼まれてげんなりする。

だが、これもいつも通りのやり取りなので嫌いではない


「カカカカカカッ、そう言うでないわ!」

グレンデは作業をしながら大きな声で笑う。


「はぁ・・・。まぁいつも通りだからいいけどね。ささっと終わらすね」


アルージェは置かれている農具の状態を見て、ササっと必要な処置をしていく。

グレンデの元で修理の依頼をこなして一年程経っている。


アルージェは状態さえ分かれば、おおよその修理の仕方は自分で判断できるようになっていた。

また、グレンデが最終確認をせずとも、問題なく客に渡せる水準に達していた。


アルージェはしばらくカンカンと槌で農具の刃を叩いたり、研いだりする。

「ふぅ、まぁこんな感じかなー?持ち手も結構傷んでるし、変えとこうかな。よし、師匠できたよ!」

新しい持ち手に取り換えて軽くやすりをかけて、グレンデに報告する。


「んあ?あぁ終わったか。まぁ、儂が見るまでもないと思うが、久々に見せてもらうかの」


しばらく色々な角度から眺めて

「やはり見る必要なかったのぉ。ふむ。アルよ、明日から武器を作ってみんか?」

グレンデは顎髭を触りながらしばらく考えてからアルージェに告げる。


アルージェは目を大きく見開いてグレンデに抱き着く。


「ほんとに!?」

目を輝かせてグレンデの顔を見る。


「本当じゃ。儂が細かく指示を出さなくてもこれだけ修理出来るのであれば、武器も作れるじゃろう。今後は修理もしてもらうが、儂が武器の作り方を伝授しよう!よくぞここまで頑張ったなアルよ」

グレンデはニカッと笑う。


「必要なものは明日には揃っておくから、いつ来てもよいぞ」


「わかった!なら今日は暗くなってきたし帰るね!」

アルージェがグレンデに別れを告げて鍛冶場を後にする。


アルージェは少し歩いてから空を見上げた。

空は夕焼け、遠くの方は少し暗くなり始めている。


師匠に認められて、これからは武器を作ることができる。

そう、長年の夢が叶うのだ。

まだ6年しか生きていない。

最近鍛冶を知ったはずなのに、もっと昔からの夢が叶ったような錯覚がアルージェを襲う。


「父さんと母さんに知らせよう」

アルージェはすぐにでも知らせたくて走り始めた。


「ただいま!!聞いて聞いて!」

アルージェは家に入るなり、サーシャとフリードに報告したくて叫ぶ。


だが家の中に入ると、何故かロイとソフィアの姿があった。


ソフィアはアルージェの事を見るなり、「あ・・・ぁ・・・」と泣き始めた。

泣き出したソフィアを落ち着かせるため、サーシャが「大丈夫よきっと大丈夫」と励ましている。


アルージェは状況が把握できずに、サーシャの方を見る。


「おかえり、アル」

視線に気付いたサーシャは元気の無い声で返事をした。


「アル!シェリーを知らないか?」

アルージェがキョロキョロしていると、不意にロイから声がかかる。


「しぇ、シェリーはお昼頃にバイバイしてから会ってないけど・・・」

アルージェはロイからの圧に驚き、ビビりながら話す。


「そ、そうか・・・」

ロイはアルージェの返答で目に見えてガッカリする。


「シェリーに何かあったの?」

アルージェはロイに尋ねる。


「実は、昼シェリーが戻ってきてから森に薬草採取のお使いを頼んだんだ。森の浅いところで取れるものだから、問題ないだろうと思ってな。だが、暗くなっても全然戻ってこないんだ。森の中は村よりも暗いから少しでも暗くなったら戻ってくるように言ってたんだけどな。それでアル坊と途中で会って遊んでいるのかと思って、家を訪ねさせてもらった。だが今アル坊が一人で帰ってきたからその線は消えちまった。だからソフィアは取り乱してしまったんだろう。村の中心部とかでもシェリーを見てないか?」


鍛冶場から村の様子を思い出したがシェリーの姿は思い出せなかった。

「い、いや、見てないけど・・・」


「そうだよな。そもそもシェリーを見つけたらアル坊は声を掛けるよな」

ロイとフリードが事の大きさに焦り始める。


「村長に捜索隊を募るように伝えよう。すまん一秒でも時間が惜しいから行かせてもらう!」

そういうとロイが村長の家に走り出した。


アルージェも捜索隊と聞いて、事の重大さに気付く。

居ても立っても居られなくなり、家の端に置いてあった誕生日に貰った剣を手に取る。

そして、フリードとサーシャに何も言わずに走り出した。


「アル!」

サーシャはそれに気付いて叫ぶ。


「アルージェ!待て!」

サーシャの声でフリードもアルージェが飛び出したことに気付き叫んだ。


基礎トレーニングで日々鍛えていたアルージェの脚は早かった。

家から飛び出し、ロイの家の近くまで全力で走る。

そこから森の奥へ駆け抜けていく。


「シェリー!」

アルージェは何度も幼馴染の名前を叫びながら、森を進んでいく。



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