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第十三話

翌日、午前中はシェリーと一緒に基礎トレーニングをこなして、シェリーと別れてグレンデの元に向かった。


「こんにちはー!」

元気よく挨拶するが、奥からカンカンと聞こえてくるだけで返事はない。


「お邪魔します!!」

アルージェは鍛冶場に進む。


鍛冶場に近付くにつれて、槌を振るっている音が大きくなる。


「きたよ!師匠!何作ってるの??」

アルージェは鍛冶場の入り口で叫ぶ。


「んあ?おお!よく来たなアルージェ!これは昨日にシェリーに言ってた剣を作っておるんじゃ。まぁこれはまた後で続きをしようかの、とりあえずこっちに来てくれー!」


アルージェは言われた通りに鍛冶場に入ってグレンデに近付く。


「こっちがお主の鍛冶場じゃ」


「おぉ!」

グレンデが指を差した場所には、新品の道具や設備で整えられたアルージェ用の鍛冶場があった。


「辺境の村にじゃからな、一式揃えてたら思ったより時間がかかったわい!ここでアルージェに儂の全てを受け継いで貰いたいんじゃ」

グレンデはアルージェの頭に手を置く。


「はい!師匠!」


「今日は村の人たちに依頼されていた農具の修理なんかから始めようかの。アルこっちで儂が教えるからやってみてくれ」


グレンデに言われるがまま、アルージェは淡々と農具を修理していく。

「こんな感じでどうかな・・・?」


「ふむ、上出来じゃな、これなら儂が手直しする必要もなさそうじゃ」

グレンデは修理が終わった鎌をいろんな角度から見ながら呟く。


「それにしても、アルはどこかで鍛冶をやったことあるんか?初めてにしては手際が良すぎな気もするんじゃが」


「なんか変な感じなんだけどね。すごく昔にやった気がするんだけど、でも生まれてからやったことは無いんだよ変でしょー?夢でも見たのかなぁ?、友達の為に武器を作って、その武器を使ってもらって、ダメなところ直してまた使ってもらって、ってしたことが有る気がするんだよね。そんなはずないのにね!」


「ふむ、武器を作っていた手順覚えているなら聞かせてくれぬか?」


アルージェは覚えている通りに話していく。


「ふむ、だいぶ簡略化されておるが、確かに武器を作る順序としては間違いではない。

やったことのない工程もあったが、鍛冶はする者によって、特殊な工程もあったりするからあまりにもおかしいということはないな。

じゃが、そこまで簡略化されていてはさすがに武器は作れないはずじゃ。だからといって子供が見た夢で終わらせるには、あまりにも製造過程が現実味を帯びているの」

グレンデは少し考える。


「ちなみにこの話はフリードやサーシャにはしたことはあるのか?あと、これ以外に夢なのに、実際に体験しているかのような夢を見たことはあるか??」


「ないよ!怖い夢とかでもないし、夢の話なんてしないよ!それにこの夢以外は特に覚えている夢なんてないかな」


「ふーむ、あくまで鍛冶の事だけか、そういえば昔に聞いたことがあるな。勇者と呼ばれる偉業を成し遂げるものは前世の記憶をもって生まれることが多いとかなんとか。でも、鍛冶以外の事はからっきしの様じゃし、儂の考えすぎかの?」

一人グレンデはブツブツと呟く。


「師匠?」

アルージェがグレンデの顔を見る。


「おぉ、すまんの!アルはもしかすると、鍛冶の神様に気に入られているのかもしれんな!」


「ホント!? それなら嬉しいな!」


「だが、気に入られているからといって調子に乗ってはいかんぞ?日々の努力が大事じゃ、剣も弓もそうじゃろ?」

グレンデは厳しい表情で継続の大事さを伝える。


「毎日してないと、弓は的に当たらなくなってくるもんね!」


「そうじゃ、だから、これからも儂と一緒にがんばろうな!」


「はい!」

「じゃあ、続きをするかの!」

そういって残りの農具の修理も始める。


そこそこの時間が経つ。

農具の修理を終え、少し休憩することになった。

ちょうどいいと思い、アルージェはグレンデが家に来た時の話が気になり尋ねる。


「そういえば、師匠はなんでこの村にいるの?王都で有名だったんでしょ?」



「んあ?寝てると思っていたが聞いておったのか。話してもよいが大した話ではないぞ?ただ儂がアホだった話じゃ」


「師匠の昔話、聞きたい!」

アルージェは好奇心に満ちた目で見つめる。


「はぁ、子供は純粋が故に古傷を抉ってきおるわ。いや傷口に塩かの?まぁ良い」


「儂はドワーフの国で生まれた。何の特徴もないガキじゃった」

グレンデは昔話が始める。


ドワーフ国では王が一番の権力をもっている。

その下には鍛冶の技量で地位が決まる|貴槌位⦅きづち⦆と呼ばれる貴族のような者たちがいる。

さらにその下に平民と呼ばれる鍛冶に関わらず、普通に生活している人々がいた。


|貴槌位⦅きづち⦆は血筋や立場等は関係なく、鍛冶の実力で決まる。

だが、実際問題いい家に生まれないと、鍛冶に必要な施設や素材の準備が出来ない。

鍛冶の教育を施すためには莫大なお金が掛かる為、先祖代々鍛冶をしているものか豪商などでないと|貴槌位⦅きづち⦆になるのは厳しい。


「儂の家はドワーフ国でそこそこの地位を持った鍛冶屋でな。まぁ先祖代々鍛冶をしていたから、そこそこの地位になれたってのもあったんじゃが、地位が高かったからかなかなかに兄弟がとにかく多かった。正直、名前と顔が一致せん奴もおったわい!カカカカカカ」

一区切りして、用意していた酒をゴキュゴキュと気持ちのいい飲みっぷりで飲んでいく。


「まぁ人間でいうなら貴族みたいなもんじゃから、後継ぎが必要だったんだろうと今になってみればわかるのじゃがな。その兄弟がたくさんいるうちの儂は四男。まぁ正直どうあがいても後継ぎになれるわけもないような立場じゃった。兄達はいろんな教育を受けていたよ。読み書きもそうじゃが、あとは計算ってやつじゃ。計算が出来ないと跡取りになった後、運営とやらができずに詰むらしいからな」

グレンデは空になった容器に酒を注ぎ話を続ける。


「そんな中で儂はただひたすら武器を作っていたのじゃ。武器、防具を作るのが本当に楽しくてな。ただがむしゃらに試行錯誤しながら鍛冶をずっとしてたもんだから、兄たちよりずっと腕のいい鍛冶師になっておったんじゃ。そしたら親が、儂を後継ぎにしようと動き始めたんじゃ。兄達からしたら堪ったもんじゃないわな。親は儂にあの手この手で教育をしようとするわ、兄達からは嫌な目で見られるわでなんか嫌になってな、ぜーんぶ投げ出して人間の王都に逃げたんじゃよ。そこからは鍛冶の腕を買われてとんとん拍子で店を構えることになったんじゃ。店を構えてすぐにフリードとサーシャに出会ったんじゃが、まぁそれは置いといて、正直儂ってすごいんじゃないかって調子に乗っていた。皆がこぞって儂に武器を作って欲しい、防具を作って欲しいと依頼してきたわ。おかげさまでアルの施設を用意してもまだ困らんくらい金は持っとる」

ここまで一気に話すと、どこからか用意したおつまみを食べて酒をチョビチョビと飲み始めた。


「ふぅ、酒はうまいのぉ。さて、ここから儂がアホじゃった話じゃ。仕事はノリにノッていた。じゃが有名になればなるほど、いろんな者に目をつけられるようになる。王都でも鍛冶で名を上げて貴族になった者がいたんじゃ。話には聞いていたんじゃが仕事が忙しすぎて大して気にもしてなったんじゃ。じゃがそいつは違ったきっと立場を取られると思ったんじゃろうな。急に店を訪れて、あり得ないほどの短納期で、大して金額も出さず依頼を掛けてきた。断ってやろうと思ったんじゃが、貴族の申し出を断るのかとかいって、圧力をかけてきたんじゃ。仕事で寝不足になっていたし、しょうもないことに時間を取られて苛立っていた儂はおもいっきりそいつの顔面を殴りつけてやったわ。あれは爽快じゃった。カカカカカ!」

グレンデ豪快に笑い豪快に酒を飲む。


「そこで全て吹っ切れてな。ちょうどフリードとサーシャがこの村に移住すると聞いて、農村でも農具の修理はあるかと軽い気持ちで一緒についてきたって訳じゃ。なんてことない昔話じゃな」


「やっぱり、師匠はすごい鍛冶職人だったんだ!もしかして、僕の剣を作ってくれたのも師匠?青の線が入った、赤刃の剣なんだけど」


「あぁ、それか。儂が製作した剣じゃよ。フリード達から依頼を受けて、タダ同然で作ったわい。だが、あれはなかなか骨が折れたのー、儂武器に装飾をつけるの苦手なんじゃよ。なのにあいつら青と赤いは絶対に入れてほしいとか、鍔には将来”魔玉”を入れる可能性があるからハマるように穴が欲しいとか、色々と無理難題言われたわな」


「ごめんね、師匠。父さんと母さんが無茶言って」


「カカカカ!謝る必要はないぞ。いい練習になったな。あれは儂が作った武器の中でも割と上位の出来じゃ、大事にしてくれな!」


「うん! 大事にするよ!」


「さて、儂はシェリーの武器の続きをするかのぉ。アルはもう帰りなさい。またいつでもくるんじゃぞ、修理の仕事はアルに任せることにするわい!カカカカカカッ」


「それって師匠が楽したいだけなんじゃ…?」


「何をいうか!弟子の為じゃ!カカカカカカッ」


「ふーん」

アルージェは怪訝な目でグレンデを見て、まぁいいかと帰宅する。

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