グレンデが家に来てから数日が経った。
あの日以来グレンデからは何の連絡もないので、アルージェはいつも通りにトレーニングをしていた。
「弓も面白いくらい当たるようになったし、次は的じゃなくて動く何かに当てる練習をしたいけど、なかなか難しいよなぁ。先生に何かいい方法が無いか聞いてみるしかないかなぁ。剣の方は・・・。シェリーに一度も勝てたことがないんだよねぇ・・・」
アルージェはボソボソと独り言ちる。
ちなみアルージェが先生と言っているのは、シェリーの父ロイの事である。
「あたしのこと呼んだー?」
隣で休憩していたシェリーが近づいてくる。
「んー?シェリーが強すぎて、一回も勝てないなぁって思ってさ」
アルージェは俯き話す。
「気にすることないんじゃない?あたしには勝ててないかもしれないけど、あたしアルのお姉ちゃんだから!弟がお姉ちゃんに勝つなんてありえないよー」
「でも、これじゃあ僕シェリーのこと守れないよ・・・」
「もう、守ってもらったよ」
シェリーはアルージェに聞こえないくらい小さな声で呟く。
「えっ?」
シェリーが急に小声になったので、アルージェは声を聞き取れずに聞き返す。
「だから、アルはアルの好きなことしていいんだよ?あたしはアルと剣を打ち合ったりするの好きだよ!アルは?」
シェリーは満面の笑みで答える。
アルージェはシェリーの笑顔に一瞬見惚れてしまうが顔を背ける。
「僕も楽しいし、シェリーが一緒にいると嬉しい!」
アルージェが満面の笑みで答える。
「アルのバカ」
シェリーは頬を赤らめて、また呟く。
「ほほぉ、青春しとるな。お主達」
グレンデが顎髭を擦りながら、ニヤニヤして近づいてくる。
「し、師匠!」
アルージェはグレンデの事を師匠と呼ぶことに決めた。
「そっちのおなごがこの前サーシャが言っていたシェリーか?」
グレンデは威圧するように、ギロリと視線を向ける。
「こんにちはー!おじいさん!あたしシェリーだよ!」
シェリーは動じることなく、いつも通り挨拶をする。
「カカカカ、動じぬか!お主もなかなか肝が据わっておるのぉ」
「アルのお姉ちゃんだから!」
「仲が良いのぉ、お主達は。カカカカカ!サーシャが言っていたが、シェリーはなかなかに剣の筋がよいらしいな。儂が作った剣を使ってみんか?それなりに良いものを作れると自負しておる」
「剣?あたしまだ木剣でしか戦ったことないよー?それに作ってもらっても返せるものがないよー」
「あぁ、費用の事は気にするでない。これは儂の趣味じゃ。強い者に儂の剣を使ってもらうのが、楽しみなんじゃよ。この歳になると楽しみが少なくてのぉ、悪い話じゃないじゃろ?」
「なら貰うー!」
「そうかそうか、ありがたいの、では後日作ったものは家に届けるでな」
グレンデはシェリーと約束をしてから、アルージェに視線を向け本題に入る。
「さてアルージェよ、お主の為の準備が出来たぞ。いつでも始められるが、いつが良い?」
「んー、なら明日とか?」
アルージェは少し考えてから答える。
「よいぞ、なら明日から始めるとするかの。お主の用事が終わってからで良いから、うちに来てくれ!では!二人とも仲良くな」
「はい!」
「またねー、おじいちゃーん!」
二人はグレンデに手を振って見送る。
「アルはまた何か始めるの?」
グレンデの姿が見えなくなってからシェリーがアルージェに尋ねる。
「そうだよ、師匠に鍛冶を教えてもらうんだ!」
「家事?洗濯とか?ご飯作るのとか?」
「そっちの家事じゃないよ!武器を作ったり、防具を作ったりするんだ!」
「ふーん、よくわからないけど、なんかアルが楽しそうであたしも嬉しい!頑張ってね、アル!」
「うん、ありがとう!」
「んじゃー、今日はもう基礎トレーニング終わったし帰るねー!お家のお手伝いしないとー!」
「うん!また明日ね、シェリー!」
「また明日ねー!」
そういってシェリーはアルージェの家から自宅に戻っていった。
帰り道、シェリーは少し焦りを覚えていた。
「アルはどんどん新しいこと始めてる。あたしは剣を使うことしか出来ない。もっと上手に使えるようにならないと」
シェリーは剣の道を突き進むことを決意する。
そんなことをシェリーが考えていることも知らず、アルージェは
「へへへ、明日から遂に鍛冶を学べるのかー楽しみだなぁ!何か用意するものってあるのかな?んー考えても分からないし。明日行ってから必要なものを用意しようかな!そうと決まれば、まずは父さんと母さんに言わないと!!」
上機嫌で家に帰っていく。
家に戻るとフリードは座って水を飲み、サーシャは夕食の用意をしていた。
「ただいま!さっき師匠に会って、準備できたんだって!だから明日から師匠のところに行って、鍛冶の修行してくるね!」
アルージェがフリードとサーシャに報告する。
「おう、明日からか!何にそんなに時間かかってたんだろうな?」
「さぁ?でもきっとグレンデさんの事だから、アルの為に何かしてくれてたんでしょうね」
「だよなぁ、あの爺さん弟子全然取らないのに、取った弟子には損得考えずに金を湯水のように使って教育してたもんなー。王都では爺さんの弟子になれば将来安泰って言われるくらいだったしな、それに最後の弟子って言って張り切ってたし、すげぇことになってるのが想像できるな」
「アルは期待されてるのねー。フフフ」
サーシャは嬉しそうにアルージェの方を見る。
「鍛冶が出来るのすごく楽しみ!」
アルージェは緩んだ顔で明日からの事を夢想する。