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第十話

グレンデがカンカンと農具を修理している傍らで、アルージェが目をキラキラと輝かせながらグレンデを見つめている。


「そんなにマジマジと見られるとやりづらいぞい」

最近は弟子も取らず一人で黙々と作業をしていたので、久しぶりに見られながら作業にグレンデは戸惑う。


「まぁこんな感じじゃ。見てて楽しいか?」

グレンデは手を止めて、アルージェと向き合う。


「楽しい!なんでかわからないけど、鍛冶ってすごく興味があるんだよね!」

鍛冶場にあるもの全てが新鮮で全てが懐かしいそんな気持ちでアルージェは鍛冶場を見渡す。


「小さいのに珍しいな!カカカカ!儂が見てやるから形だけでも少しだけやってみるか?」

グレンデは小さい子供によくあるちょっとやったら満足するあれだろうと考え、少しだけ触らせてみることにする。


「いいの!?やりたい!!」

鍛冶場の外から見ていたアルージェは中に入ってくる。


「ふむ、まずはこのハンマーからやってみるか。普通お主くらいの歳だとまだ厳しいじゃがな。フリード達に鍛えられてるおかげか、いい具合に体が出来とるからの。んじゃやってみるか!」


「うん!!」


アルージェはグレンデの指導の下、言われたことを淡々とこなしていく。

初めはグレンデもお遊び程度でやっていたが、アルージェがなかなかに筋がいいので指導に熱が入っていく。


「おうふ!なんじゃかお主の筋がいいから儂も楽しくなってしもうて、めちゃくちゃ教え込んでしまったわ。農具の修理があっという間にできてしまったな・・・。どうじゃろ、剣術はやめて儂の弟子にならんか?お主なら、今から始めれば余裕で王都でも自分で店構えられるくらいの腕にはなりそうなんじゃがなー」

グレンデは王都にいた時の癖でつい誘ってしまった。


「剣術はやめられないよ!でも、鍛冶って楽しいね。やりたいけどなぁ・・・。あっ、でも僕ロイさんに弓教えてもらって、お父さんとお母さんに剣教えてもらって、あんまり時間とれないかもしれない・・・。」


「ふむ、そうか残念じゃ・・・。一応儂の方からもフリードに声を掛けてみるかのぉ。やりたいっていう気持ちはあるんじゃな?」


「できるならやってみたいよ!カンカンするの楽しかったし!自分で自分の武器作れるなんてすげぇじゃん!」

アルージェは目を輝かせながら答える。


「ふむ、なら儂からも聞いてみるかのぉ」

グレンデは汗だくの服を脱ぎ体を拭き、外に出る準備を始める。


「今からいくの??」


「んあ?そうじゃな、こういうのは早いうちから始めたほうがいいからの!よし準備完了じゃ!」


グレンデ宅から出るとき修理した農具をうんしょうんしょとアルージェが持ち上げようとしていると、それに気付いたグレンデが寄ってきて軽々と全部持ってくれた。

アルージェの家に向かう。


「お主は小さいのに色々としてるんじゃな。少しびっくりしたわい。お主位の子達はあの丘の上に集まって遊んでいるじゃろうに」


「シェリーとは毎日剣の打ち合いして遊んでるよ?シェリーのお家に行ったら弓で的当てもしてるし、僕もずっと遊んでるよー?」

アルージェは不思議そうに答える。


「そうかそうか、お主にとっては剣を学ぶことも弓を学ぶことも遊びという認識なのか。それは長続きするわな。楽しそうでなによりじゃな!」

グレンデはアルージェの言葉に頷き、呟く。


「シェリーもいるし、毎日楽しいよ!あっ、お家見えてきたよ!」


「おぉ、ほんとじゃな。フリードは今家にいるのかのー??」


「僕が農具持って行ったときは畑でお仕事してたけど、もう終わって戻ってきてるはず!」

アルージェはトテトテと家に駆けていく。


「ただいまー!」

アルージェの声を聞いて、奥の部屋からサーシャがひょっこりと顔を出す。


アルージェはサーシャに抱き着き、顔を見る。


「あらっ、おかえりー。思ってたよりゆっくりしてたのねぇ」

サーシャはアルージェを抱きしめてアルージェを見下ろす。


「はじめてのおつかいお疲れ!」

フリードもアルージェを労う。


抱きつくアルージェにサーシャは微笑む。


後から農具を持ったグレンデが家に到着する。

「よう、サーシャ元気にしとったか」

農具を玄関に置き、グレンデがサーシャに声をかける。


「あら、グレンデさんどうしたのー?なんだか久々に会うけど見た目全然変わらないわねぇ、羨ましいわー」


「お邪魔するぞ。儂から見たらサーシャも大して変わってる様にはみえんけどな」


グレンデの声を聞きフリードも奥からこちらへ移動してきた。

「おっ、どうしたんだ爺さん。家から出てくるなんて珍しいな」


「儂だって酒を買いに行ったり、外にちゃんとでとるわい!」


「あはは、そうか悪い悪い!んで、久々に顔でも見に来たって感じじゃねぇな。なんかあったか?」


「あぁ、アルージェのことなんじゃが。今日、儂の家で遊び半分で鍛冶をさせてみたんじゃがな。これがなかなか、いやだいぶ筋がよくてな。儂のところに修行に来てもらえんかなと思って、頼みに来たんじゃよ、聞いたところまだ小さいのに色々とやってるみたいじゃからの」

グレンデはアルージェに視線を向ける。


「んー、まぁ別に週に一回、二回ならいけるんじゃないか?毎日何かしらすることになって休息日が無くなるが、アルはどうしたいんだ?」

子供にしてはハードだがアルージェの意思を優先しようと、フリードはアルージェに確認する。


「鍛冶やってみたい!!」

アルージェは元気よく答える。


「そうかそうか、ならやってみてもいいんじゃないか?将来、何をするか選ぶのはアルだしな、選択肢は多い方がいい」


「ホント!?やった!」

嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねているアルージェを見て、サーシャもにっこりと微笑む。


「なら、ちょっとアルージェの為に用意するわい。準備が終えたら、また儂から声を掛けるからの!」

グレンデはいい返事が聞けてそそくさと帰ろうとする。


「まぁ、待てよ爺さん。せっかく来たんだ、飯でも食っていきなよ。大したもんはだせないが、たまには思い出話でもどうだ?」


「んあ?そうじゃな、せっかく来たし話でもするか。それで酒はあるんじゃろうな?」

グレンデは立ち止まり、一瞬考えてから提案に乗ることにした。


ドワーフ族は飯はほどほどで酒をガバガバと飲むものが多く、グレンデもそのタイプだ。故に酒の心配をしていた。


「今日だけなら爺さんを溺れさせることもできるぜ」

フリードはニィと笑って、奥に置いてあった酒樽を親指でチョイチョイと指す。


「はん、笑わせるわ。あれくらいなら夜の晩酌だけで飲み干せるわい!」

グレンデは上機嫌で、食卓の椅子に腰かける。

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