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第九話

誕生日から三日経った。


誕生日にロイからもらった弓は【スラ弓すらきゅう】と名付けた。

初めこそ感覚が普通の弓とは違うため的には当たらなかったが、何度か繰り返しているうちに精度が上がってきた。

今では普通の弓を使うより【スラ弓】を使うほうが、的に当てる精度が高い状態である。


ちなみにこの【スラ弓】という名称は、シェリーが響きがかわいいという理由で付けたものである。


体を作る為の基礎トレーニングや剣の打ち込みは毎日欠かさず行っている。


アルージェはフリードと基礎トレーニングの木剣での打ち合いをしていた。

「よし、ここまでだ!アルもだいぶ動けるようになってきたな!」


「ほんと!?」

その言葉にアルージェは嬉しくなる。


「おう!そろそろシェリーとの手合わせも組み込んでみてもいいかもしれんな。ちょっとサーシャに相談してくるから待っててくれ」

フリードはシェリーと打ち合いをしているサーシャの方へ向かっていく。


打ち合いが終わった頃合いを見計らってサーシャに声をかける。

事前に話していたのだろうか、一言、二言、言葉を交わすとサーシャが頷く。


「アル!こっちきてくれー!」

木剣を少し素振りしていたアルージェはフリードに呼ばれたので、3人の方へ移動する。


「アル!シェリーちゃん!今日から二人での手合わせを開始するわね」

サーシャは先程までシェリーと激しい打ち合いをしていたのに、汗一つかかず息も上がっていない。


「手合わせはいつも使ってる木剣を使ってもらいまーす!二人とも本気でお願いね!ただ本気でと言いながらこんなこというのも変だけど、ケガしないようにだけ気を付けて!ケガしてもポーションは準備してるけど、なるべく使わないようにしたいから!」

アルージェとシェリーは頷く。


「んじゃあ説明も終わったし、二人とも距離取って剣構えてくれ!」

フリードの言葉に従い距離をとって二人とも剣を構える。


「でははじめ!!」

フリードが合図を出した瞬間、シェリーが猛スピードでアルージェに接近する。

勢いを殺さずシェリーが剣を何度か振るう。

アルージェは避けられるものは躱し、避けられないものは剣で弾き返す。


シェリーからの攻撃が止み、次はアルージェが近づいてきたシェリーに対して、剣を振るうがシェリーは全て躱す。

躱しながらシェリーはカウンターを入れるが、シェリーからのカウンターは剣で全て弾き返して、勢いをそのまま攻撃に転用する。


「アルに全然攻撃通らない!守りが硬いね!」

一度シェリーが距離を取り、足首を回し解す。


「シェリーだって攻撃が早くてなかなか反撃出来ないよ」

アルージェはシェリーの動きを注視し、構えを解かない。


「ここからもっと早くなるよ!」

先ほどよりも早い速度でアルージェに接近する。


先程より早い速度でシェリーは剣を振るう。


アルージェはシェリーの猛攻に徐々に反応できなくなり、何度も木剣が体に当たる。

流れるように連続で紡がれる剣戟は、早すぎてカウンターを入れようにも割り込む隙が無い。

なるべく体に当てられないように対応しているが、全てが後手に回ってしまう。


だが全力で剣を振るい続けているシェリーも疲労が出てきて、動きが徐々に鈍くなってくる。

アルージェはシェリーの動きが鈍くなったタイミングを見て、ここぞとばかりに反撃するがシェリーは避ける。


このままでは先に体力が尽きて負けると感じたシェリーは、一瞬距離を取る。

そして、直ぐにアルージェに向かって全力の速度で一閃を繰り出す。


アルージェはその剣速に反応出来ず、胴にシェリーの全力の一撃をお見舞いされて、二メートル程飛ばされてしまう。


「あっ! アルゥ!」

シェリー自身も驚く程きれいな一撃が入ったので、持っていた木剣を投げてアルージェに駆け寄る。


「そこまで!!大丈夫か!?アル!?」

フリードも吹き飛ばされたアルージェを見て、慌てて声をかける。


「い、いててて」

飛ばされたアルージェは木剣を打ち込まれたお腹辺りを片手で抑えながら立ち上がる。


「アルゥ!ごめんー!あたしアルに負けたくなくってぇ!」

シェリーは目をうるうるとさせながらアルージェに謝る。


「シェリーはすごいね!早すぎて目では見えてたのに、体が反応できなかったよ!」

アルージェはシェリーの心配などどこ吹く風で、シェリーの剣を褒める。


「本気でとは言ったけど、まさかシェリーちゃんがあそこまで早い剣を出せるなんて驚きねぇ。あの速度だとフリードも当たっちゃうんじゃない?」

サーシャはしみじみと言う。


「ハハハ、どうだろうなぁ。だが、俺から見てもあの一撃をあの年で出せるのはすごいと思うぜ」

少し冷や汗をかきながら答えるフリード


「まぁ、今日のところはシェリーが一本ってことで、今後も二人に手合わせをして貰うからそのつもりで!」


「「は(ー)い!」」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから数日


アルージェは何度かシェリーと手合わせをしているが、未だに一本も取れずにいた。

いいところまでは持ち込めるのだが、なかなか全力の一撃に反応できずにいた。


「んー、どうしたらシェリーのあの早い一撃に反応できるんだろ。予測して運良く狙いってくる場所に対応できれば良いけどそんなのあり得ないだろうしなぁ。困った」

素振りをしながらぶつぶつと思考しているとサーシャから声がかかった。

「アルー、ちょっとお手伝いしてもらえるー?」


「はーい! 何をすればいいのー?」

アルージェは素振りをやめてサーシャの元に向かう。


「あっ、こっちよこっち!」

きょろきょろとしてるアルージェをサーシャが見つけて、手招きされる。



「あっ、そっちか!家の中にいると思った!」

アルージェもサーシャを見つけて外に出ると農具が床に並べられていた。


「これは??」

鎌、鍬、鋤の順番にアルージェが視線を移動させた。


「いつも畑で使ってる子達なんだけどねぇ。そろそろ修理に出さないと、ボロボロなのよねぇ」

よく見ると刃先が欠けていたり、柄から外れそうになっている物もあった。


「アルは村に一つ鍛冶屋さんがあるの知ってる?そこに持って行って修理してもらって欲しいのだけど、今お母さん手が離せないから、一人で行ってもらうことになるのよねぇ。アルは一人でおつかいできるかなぁ?」

サーシャは人差し指を立ててほっぺに押し当てながら首を傾げる。


「出来るよ!今から持っていこうか?」


「あらっ!ホント?さすがアル頼りになるわぁ!んじゃこの農具達をお願いね!」

サーシャはウィンクして、家に戻っていく。


「はーい!」

少し苦労するかと思ったが、日々のトレーニングのおかげで三本まとめてあっさりと持てた。


「いってきまーす!」

アルージェが大きな声で叫ぶ。


「気を付けてお願いねー!」

家の中からサーシャが返事する。


「そういえば、鍛冶屋って初めて行くなぁ!楽しみ!!」

農具を持って歩いていると、耳触りのよいカンカンという音が一定のタイミングで聞こえてくる。


「こんにちはー!!」

扉が開いていたのでアルージェは元気よく挨拶するが、返事はなかった。


「おじゃましまーす!」

家にお邪魔すると家の中には誰もいなかった。

誰か来ないかと少し待ってみたが、奥からカンカンと聞こえてくるだけで誰も出てこなかった。


「すいませーん!」

それでも返事が無いので、音のする方へ向かう。


「こんにちはー!!」

カンカンという音が近くなったところでアルージェがもう一度と叫ぶ。


「おっ?誰だちょっと待っとくれ」

奥から、しゃがれた声が聞こえてきたので少し待つ。


しばらくすると音が止み、アルージェより少し背の高い筋肉隆々のモジャモジャ髭が目立つおじいさんが出てきた。


「んあ?なんだ、坊主鍛冶屋になんか用か?」


「あっ、あの、こ、こんにちは!農具を修理してきてほしいってお母さんに言われて……」

不愛想な感じで怖い印象を受けたアルージェは、少しビクビクしながら答えた。


「ちょっと見せてくれ」

アルージェは持っていた農具をおじいさんに渡す。


「あぁん?これはサーシャとフリードんとこのか!ってことは二人の倅か!もうちょっと近くに寄ってくれ!」

おじいさんはアルージェをジロリと見て大きな声で近くに来るように促す。


「ヒ、ヒェ!そ、そうです!」

アルージェは睨まれたと思い、更に緊張が増す。

ビクビクしながら徐々に近づいていく。


「なんだ儂にビビってるのか?なに取って食おうって訳じゃないんだ。あいつらが生んだ子がここまで成長してるとは思わんでな!ちょっと顔を見せてもらおうと思っただけじゃ!」

おじいさんはカカカカと高らかに笑う。


「父さんと母さんのお友達なの??」

恐る恐るアルージェが尋ねる。


「あぁ、人間でいうなら古い仲になるんかの?まぁ、あいつらと出会って10年は間違いなく経っとるわい!あいつらが冒険者時代から知っとるぞ。あいつらの武器もこの儂が作ったんだからな!子供を作るとかでここに引っ越してきた時に儂もちょうど色々あってな、たまたま付いてきたんじゃ。あれがなければ今頃はまだ王都で受けたくもない依頼受けて、貴族様の武器にもならん武器をつくっていたじゃろうな」

しみじみと昔を思い返すおじいさん。


「そういえば坊主、名は?」


「あ、アルージェです!」


「アアルージェ? また不思議名前つけたのぉ」

「いや、アルージェです...…」


「んあ?カカカカッ!これは失礼したアルージェか。いい名前じゃな!儂はドワーフのグレンデじゃ!よろしくな坊主!」

そういうと力強く手を前に出してきた。


アルージェは驚き、反射的に後ろに下がった。

シェリーとの打ち合いの賜物だろう。


「ほーう、いい動きをするな!フリード達に鍛えられてるのか、だが身構えなくてよいぞこれは握手じゃ!」

少し笑顔になるグレンデ


「あっ、すいません……」

アルージェは少し恥ずかしくなり、そのまま頭をかきながら握手をする。


アルージェの手を握るとグレンデがアルージェの手にマメが出来ていることに気付く。

「お主、その年ですでに剣の修行か?フリードもサーシャもなかなかに厳しいのぉ」

少し同情したような顔でアルージェを見る。


「ち、違う!お父さんとお母さんには僕が強くなりたいって言ったの!」

両親が悪く言われたような気がして、慌てて訂正を入れるアルージェ


「坊主は強くなりたいのか?」

まだ、小さいのになぜそんなことを考えるのか不思議に思いグレンデは尋ねる。


「そう!シェリーを守りたいんだ!」

アルージェは真っすぐな目でグレンデを見つめた。


「シェリー?あぁ、ロイんとこの娘か。マセてるのぉ、好いてるんか?」

ニヤニヤとした表情で聞くグレンデ


「好いてる・・・?よくわからないけどシェリーが嫌がっている顔見たくないから!」


「好いてるのではないのか?いや、でも言っていることはなんかそれっぽいんじゃがな・・・?まぁ、いいか、今日は農具の修理だったな。見た感じすぐ出来そうなもんばっかりじゃ。ちょっと待っておれ!」


「ちょ、ちょっと待って!」

農具を持って奥の鍛冶場に移動しようとするグレンデをアルージェが引き止める。


グレンデは振り返る。

「んあ?まだ何かあるんか?」


「修理してるところ見てもいい??」

キラキラとした目でグレンデを見つめる。


「なんじゃ?興味あるのか?見るのは構わんが、置いてある物にだけは触らんでくれ。危ないもんばかりじゃからな」


「わかった!」

アルージェは元気に返事して、上機嫌でグレンデの後ろをついていく。

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