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第七話

更にあれから二か月の月日が経った。


アルージェはこの日を楽しみにしていた。

午後からついに森に入るのである。


弓が的のど真ん中に捉える回数が増え、ロイに「森に行ってみるか」と言われたのである。


サーシャとフリードはこの日の為に、無いよりはマシだろうと革で出来た防具を用意してくれていた。


「いいか、アル。ロイの言うことはちゃんと聞くんだぞ?森にはこちらが手を出さない限り襲ってこない動物もいるが、縄張りに入られた途端襲い掛かってくるような動物もいる。動物よりも危険なのは、魔物と呼ばれる動物が魔力を吸収しすぎて進化したといわれる奴らだ。こいつらは非常に獰猛で危険だ。あとはゴブリンだったり、オークもいる可能性はあるが、近辺の森には今はいないはずだ。この前冒険者たちが来て倒しに行っていたからな。だが警戒しとくに越したことはない」


「う、うん!わかったよ!父さん!」

いつになくフリードが真剣な表情をしていたのでアルージェも身が入る。


「ロイのやつはもう何年も森で狩りをしているから熟知しているだろうが。アルが足手まといになって、逃げられない可能性とかも考えられる。何度も言うが絶対に指示は聞くようにな」


「うん! じゃあ行ってきます!」


「おう!行ってこい!」

「気を付けるのよぉ、アルぅ」


テトテトとシェリーの家に向かった。


「来たか!アル坊!おっ、なんか装備が新しくて初々しいな!」


アルージェはレザーアーマを付けて、腰には念の為に体格に合った短剣を携えていた。


「まぁなんかあったら守ってやるが、指示には従ってくれ。俺も万能ではないからな。あと今日はシェリーも連れて行こうと思う。弓は使えないが、森での生き残り方を知っといてもらいたいからな」


「はーい!」

そういうシェリーもレザーアーマにアルージェよりも少し長めの剣を携えている。


「シェリーは歳の割には腕がいいとフリードに聞いている。だがまぁ実戦経験はないからその当たりはあまり期待しないでおこう。んじゃ、まずはさらっと注意事項なんかを説明してから出発だ!!」


「「おー!!」」


注意事項を聞いて森に入る。


森の中ではロイが色々とアルージェとシェリーに教えていた。

触ってはダメなもの、食べられるもの、食べてはダメなもの、動物の居そうな場所、動物たちの習性、魔物の習性、縄張りの判断の仕方、地形について等である。

一日では到底覚えれないような知識量であったが、一度で覚えれるとはロイも思っていないようだ。


そしてロイの指示の元で鹿のような動物も狩った。

「こいつの肉は焼いて良し、煮て良し、余ったら干し肉にして長持ちする。皮もある程度の強度が有るから非常に使いやすい。アル坊が着ている防具もこいつの皮をなめして作られてるやつだな」

血抜きの作業をしながらロイがアルージェ達に教える。


「指示が無かったら正直1人では倒せてたか分からないや・・・」


「まぁ、そこら辺は慣れだな。初めから1人で狩れるやつなんて居ないから気にすんな!それにしても森が静かすぎるな」


ロイは周りを見渡し、異変を感じ取る。


「早めに撤退するか。アル坊、シェリー今日はもう戻るぞ」


「パパー、はやく帰ろー」

シェリーも感覚的に少し察しているようだった。


「そうだな、なら撤退!」

ロイは血抜きした鹿のような動物を持ち運びやすいように分ける。

アルージェとシェリーにも少し渡し全部持って帰路につく。


村までもう少しというところでロイが急に足を止める。


声を出さず森に入る前に決めていた「止まれ」のハンドサインを出した。

そして草むらを指差し隠れるように指示が出す。

アルージェとシェリーは速やかに草むらに隠れた。


「見ろ、ゴブリンだ」

ロイが小声でいうと顎で位置を示した。


アルージェとシェリーがそちらを確認すると、緑色の肌、醜い容姿のアルージェと同じくらいの大きさの人型魔物の姿が見える。


ロイは生き残る為に思案する。


ロイ一人なら間違いなく逃げ切ることができる。

だが今日はシェリーとアルージェがいる。


三人で六匹のゴブリンに気づかれないように動くのは至難の技だ。


アルージェ、シェリーを頭数に入れてゴブリンを倒すことに思考を切り替える。


「お前ら、今日は少し運が悪いみたいだ。用件だけ端的にいうぞ。お前らには一人一体だけゴブリンを倒してもらう。剣の腕前はどんなもんか知らないが、やられなきゃこちらがやられる。覚悟決めろよ」

ロイは作戦をさらっと説明する。


「んじゃ、手筈通りいくぞ」


アルージェとシェリーは少し先にある草むらに音を立てないように進み、身を隠す。


隠れたのを確認するとロイはワザとガサガサと音が出るように立ち上がる。


その音に気付きゴブリン達がロイを見る。


ロイは矢をつがえてゴブリンがいる場所とは離れた場所を狙い矢を射放つ。

予定通り矢はゴブリンの視界から外れたところに飛んでいく。


ゴブリンは矢の行き先を見てゲハゲハと仲間と笑う。


そしてゴブリン達が視線を矢から外した後、矢が途端に意思を持ったように曲がり一番奥のゴブリンの頭に直撃した。


これはロイが一番得意としている『屈折するターニングショット』である。


ゴブリンは声を上げること無く倒れていったが、ドサッと倒れた音に一番近くにいたゴブリンが気付き後ろを振り返る。


「グギャ?」

一番近くにいたゴブリンが近づき、頭に矢が刺さっていることを認識すると「ギュギャギャギャ!!!」と騒ぎ始めた。


他の三匹も声を聞いて振り向いたが、その隙にロイがもう一度矢を放つ。

今度は曲げることはせず、矢は一直線に進む。


一番手前にいたゴブリンの頭を穿ち、その奥のいたゴブリンの体に矢が刺さる。


「ふっ、貫通するピアッシングアローはどんなもんだ?」

ゴブリン達を挑発するように言う。


「グギャー!!!!」

ゴブリン達は怒り狂いロイの方へ向かって走り出す。


「よしアル坊、シェリー、後はお前ら次第だ。頼んだぞ」

ロイは呟く。


「ゴブリンどもこっちだ!」

そしてゴブリン達の視線をなるべく他に向けないようにする為に叫ぶ。


「グギャ!!」

「ギギギ!!」

「ギャギ!!」

ゴブリン達はロイだけを見てひたすらに走って近づいてくる。

その様子を見てロイは口元を緩ませた。


ゴブリンが後3mまで近づいてきたところで、横の草むらからアルージェとシェリーが飛び出す。

そしてゴブリンに不意打ちで短剣を突き付けた。


シェリーはうまく腹に短剣を突き立てる。


アルージェは人型をしている魔物への攻撃に一瞬の躊躇いが出てしまい、ゴブリンの腕に短剣がかすっただけだった。


「し、しまった!」

アルージェは慌てて追いかけるが、二体のゴブリンがロイに襲い掛かる。


「ダメー!!」

シェリーは仕留めたゴブリンから剣を抜き、ロイを襲うゴブリンに剣を突き立てようとする。

だがそれはあっさり避けられてしまう。


「次こそは!」

躱した先にアルージェが移動しており、ゴブリンの背後から心臓辺りを短剣で刺す。


残り一匹のゴブリンは仲間がやられているのを察して突っ込むのをやめる。

弱そうなアルージェとシェリーを先に仕留めようとするが、その隙にロイが弓を構え後頭部を矢が穿つ。


「なんとかなったな、よし仕留めてるかの確認と魔石の回収をするぞ」

ロイが弓を体に掛けて、短剣を取り出しゴブリンに近づく。


全てのゴブリンが死んでいるか確かめる為、短剣をゴブリンに突き刺していく。

そして胸を開き、魔石と呼ばれる魔物の心臓近くにある石を取っていく。


魔石が無くなったゴブリンは灰のように消えていった。


アルージェは自分が躊躇ってしまった為に、ロイとシェリーに迷惑をかけたことを考えていた。

「くそぅ!」

地団太を踏むアルージェ。


「アル・・・」

声をかけようとするがなんと声をかけて良いか分からず、シェリーは戸惑う。


「アル坊、今はそれくらいにしとけ。魔石も回収したし、早々に村へ戻るぞ」

そういってアルージェの頭に手を置き先に進むロイ。


「はい・・・」

今は考えないようにしようとしても、シェリーが咄嗟にゴブリンを追いかけていなかったともしもの事ばかり考えてしまう。


「村見えてきたぞ」

ロイは安堵の表情を浮かべる。

それを聞いて同じく安堵を浮かべるシェリー。


そして村に到着し、ロイの家の納屋に集まった。


「まず、今日はよくやった!不測の事態だったが、ゴブリン相手にシェリーもアル坊もよく立ち向かった。その歳で不意打ちとは言えゴブリンを仕留めれたこと、これは誇ってもいい」

そういうと二人の頭を撫でるロイ


だが、アルージェはまだ、躊躇ったことが心に引っかかっていた。

「でも、僕が躊躇ったせいでロイさんにもシェリーにも迷惑をかけました」

アルージェは俯く。


「いや、アル坊お前はよくやった!初めて相手する人型の魔物に躊躇うことはおかしなことではない。誰でも通る道だ。俺も一度はその道を通ったが、こればっかりは割り切るしかない。まぁ、やられなきゃやられるからな。今回はみんな生き残った十分すぎる成果だ。今後は徐々に慣れていってもらうがな。ガハハハ」

ロイはアルージェの背中をバシバシと叩く。


「は、はい!」

ロイの言葉を聞き、アルージェは少し自信を取り戻す。

シェリーはアルージェの表情が少し柔らかくなったのを見てホッとする。


「んじゃ、今日は解散だ!一応、今日のことはフリードに報告しとくな!あと、魔石だがゴブリン程度なら大した額にならんが、売れば一応金になる。また換金できるタイミングがあれば、換金してアルージェにも渡すからな!」


「はい!」


そして、長い一日が終わった。

アルージェを家に帰して、シェリーも家に戻っていく。


ロイは納屋で森のことを考えていた。


少し前に冒険者に来てもらって、ゴブリンを倒してもらったばかりの森に既にゴブリンが湧いていた。


冒険者が倒し損ねた奴らということも考えられるが、ゴブリンの集落にいた奴は全て倒したと言っていた。


それに鮮度の高いゴブリンの討伐部位を持っていたので、嘘の報告をしたとは考えにくい。


「念の為、もう一度冒険者ギルドに依頼を出すように村長に進言するか」


ロイは森の異変、ゴブリンの出現を村長に報告した。

後日、もう一度村長から冒険者ギルドへゴブリン退治の依頼が出されることになった。

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