アルージェは喉が渇いたので、寝ている父さんと母さんの邪魔にならないように、水を飲みに行こうと立ち上がろうとする。
少しでも体を動かそうすると、全身に痛みが走る。
「っ!!!」
アルージェは声にならない声を出す。
モゾモゾと動く気配とその声に気付いた母さんがモゾッと動き目を覚ます。
「アル?」
そういって細目でアルージェの様子を見る。
「うん、僕だよ、水を飲み行こうとしたんだけど、体が痛くて・・・」
アルージェがそういうと母さんの目がパッチリと開く。
そして僕を抱きしめた。
母さんが僕を強く抱きしめたので、体が痛かった。
でも、僕は抵抗することなく、そのまま母さんに体を預けた。
「アルゥ! 心配したんだよ!あんなにボロボロになって帰ってくるんだもん!お母さんもお父さんも心配したんだよ!」
母さんは不安な顔をして、さらに抱きしめる力を強くした。
「ごめんなさい、母さん・・・」
アルージェはただ謝ることしか出来なかった。
「ん? アル起きたのか?」
話し声で父さんも目を覚ました。
「父さんも心配かけてごめんなさい・・・」
アルージェは二人に謝った。
「おう、無事で何よりだ!なんだ水飲みたいのか?持ってきてやるよちょっと待ってろ!」
先ほどの会話を聞いていたのだろう。
父さんは近くに置いてあった燭台のローソクにマッチで点火し、外にある井戸に水を取りに行った。
「あぁ!アル体は大丈夫!?」
母さんは僕を強く抱きしめていたが、思い出したかのように聞く。
「すごく痛い・・・」
素直に答えると、母さんは涙目になりながら僕から離れた
「うわぁ、ゴメンねぇ、アルぅ!」
サーシャは大声で謝る。
「はははっ、夜だから静かにな、サーシャ!」
水を容器に入れて、父さんが持ってきてくれた。
「うぅ、フリードの意地悪ぅ!」
そう母さんが言うと父さんも僕も面白くなって笑ってしまった。
一通り笑ったら、父さんが急に真剣な顔つきになって僕を見た。
「それでアル、この際何があったかは、俺は聞かないでおこうと思う。だけど、シェリーちゃんを一人で置いて行くのは感心できないな。年上とは言え女の子だ。それはわかっているな?」
「うん、悪いと思ってる・・・」
心配してくれているシェリーを拒否して、家に帰ってきたことを思い出し、アルージェは暗い表情をした。
「まぁ、それがわかっているのなら、今後やらなければならないことも分かっているはずだ。明日、父さんと母さんもついていくから一緒に謝りに行こうな。きっとしっかり謝れば許してもらえるはずだ!」
そういうと父さんは、僕の頭を力強いけど優しい手つきで撫でた。
撫でられた後、僕は痛い体に鞭をうち立ち上がった。
「父さん、母さん、今日は心配かけてごめん」
そのままアルージェは頭を下げる。
「それでねお願いがるんだけどね」
一呼吸をおいて、アルージェは強い意志を感じさせる目でフリードとサーシャを見る。
「僕強くなりたいんだ!誰にも負けないくらい強くなりたい!」
父さんも母さんもお互いの顔見つめて、頷き合った。
「実はアルには内緒にしていたんだけどな、父さんと母さん、実は元冒険者なんだ。たいした冒険者ではなかったが、武器やら戦い方の知識を持っている」
父さんが話始めて、それに続くように母さんからも
「アルが望むのなら私たちの技術全部教えてあげる。でも、やるからには厳しくやるからね、そこは覚悟しておいて!」
両親が元冒険者だったことに驚きがなかったわけではない。
けれど、今はその驚きよりも強くなれるという喜びが僕の中で大きくなって、体が痛いことも忘れて父さんと母さんに飛びついた。
とりあえず夜も遅いから今日は寝ようと、フリードが提案する。
サーシャもアルージェもフリードの提案に従い、アルージェは水を飲んで床に就く。
翌朝、修業はアルージェのケガが治って、万全の状態になってからということで話が決まった。
そして、まずはシェリーに謝りにいくことになった。
シェリーの両親は村の近くにある。
この村で狩人を営んでおり、動物の皮や肉等を売って生活している。
気が進まなかったが、「謝るなら早い方がいい」と、父さんに力説されて謝りに行くことにした。
あの説得力は何だったのだろうか。
「絶対シェリー怒ってるよね・・・」
アルージェは不安になり、呟く。
「大丈夫!シェリーちゃんなら分かってくれるわ!」
サーシャは両手をグーにして自分の胸の前に持ってくる。
そして、何かを意気込むような動きをしながらアルージェを励ます。
ほどなくして、シェリーの家に到着した。
シェリーの家はログハウスのような家で、屋根は茅葺になっている。
アルージェが先頭に立ち扉の前まで行く。
父さんと母さんはその様子を見守る。
トントントンと扉をノックすると、シェリーの母ソフィアが出てきた。
茶髪に茶色の目、それに気立ての良さそうな雰囲気だ。
「こ、こんにちは!」
アルージェが挨拶すると、ソフィアはニコっと笑う。
「あら、アル君!いらっしゃい!シェリーに用事?」
ソフィアは後ろにいるサーシャとフリードにも気づいて、何かを察したようだ。
「う、うん、シェリーに言わないといけないことが有って」
アルージェが少し固くなりながらも説明する。
「分かったわ、呼んでくるからちょっと待っててね」
そういうとソフィアは、家の中に戻っていった。
家の中からソフィアとシェリーが話している声がかすかに聞こえる。
「シェリー、今大丈夫ー?」
「今日は何もしたくない」
「あらそう、なら外にいるアル君に伝えないといけないわね」
ソフィアの言葉を最後に、ドタドタドタとすごい勢いで走ってくる音が聴こえた。
扉がバンッと開き、シェリーが一目散にアルージェに駆け寄っていく。
「アル!!」
シェリーがアルージェに飛びつき抱きしめる。
「うわぁ!」
いきなりのことで驚いたが、何とか踏みとどまり倒れずに済んだ。
「一人でお家まで帰れた?体痛くない?ちゃんと眠れた?お母さんとお父さんに怒られた?今日朝ご飯は食べた?」
色々な質問を五月雨式に飛んできた。
「あっ、えっと」
「本当に心配でしたんだよ!」
アルージェに話す隙を与えず、ずっとシェリーは話していた。
「それで今日はどうしたの??」
一通り聞きたい事が終わったのか、満足してやっとアルージェの話を聞いてくれるようになった。
「今日は昨日の事を謝りにきたんだよ、ごめん!」
アルージェは頭を下げる。
「一緒に遊びに行ったのに一人で置いて帰ったこと。それと帰りに大きな声で嫌がったこととか本当にごめん!」
「いいよ、別に気にしてないから。私もお姉ちゃんなのに、アルの気持ちわかってあげられなくてごめんね」
そういうとシェリーも頭を下げた。
フリードとサーシャは背後の少し離れた場所でうんうんと頷いていた。
ソフィアと緑髪翠色の目をしたシェリーの父親ロイも窓からその様子を伺っていた。
「それでねシェリー!僕これから強くなるよ!強くなって僕がシェリーの事ずっと守る!もう何が有ってもシェリーを泣かせないようにするよ!」
アルージェが高らかと宣言する。
シェリーは少し考えた後、段々と顔が赤くなる。
「へっ!? ア、アル、それって、それってどういうこと!?そういうことなの!?」
と狼狽え始める。
後ろにいたフリードは口笛をピューと吹く。
サーシャは右手を口に当てて「あらあらまぁまぁ!」と嬉しそうにフリードをバシバシと叩き、微笑ましい光景を見ていた。