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第25話 【SIDEセオドア】セオドアの望み

「セオドア様、マリーシャ様をどうする気ですか?」


 夜も更け、雪が降り出したガランドは静かだ。屋敷の中にいるものも、警備以外は暖かな部屋に戻っているだろう。


 そんな時間でも、セオドアはガランドを長い間開けた分の仕事がまだまだ残っている。

 通常業務も膨大だ。


 マリーシャを手に入れるために戦うと決めた。

 そちらの方も進めなくてはいけない。


「どうする、とは?」


「彼女との結婚についてです」


 ラジュールが聞きたいことはわかっていたが、とぼけて返す。ラジュールもわかってはいるのだろうが、真正面から聞いてきた。


 マリーシャ。突然現れた、元兄であるハインリヒの元婚約者。

 新たな火種になりかねない事はセオドアだって当然わかっている。


 ラジュールはごまかされないという顔をしている。


 今までは元の兄や家族について、ずっとセオドアは考えないようにしていたし、ラジュールの希望をわかっていて無視していた。


 ラジュールはセオドアがすべてを手に入れることを望んでいる。

 セオドアは念のため考える素振りをした。


「結婚はする。すぐにでも」


「……何故急に、そんな事になったのですか」


「この呪いはきっと解けないだろう。だから、彼女が必要だ」


「解呪については、私も同意します。同程度の呪術師はなんとか探せるとは思いますが、呪術師が死んでしまっているだなんて……。それにマリーシャ様、あんな方法で呪いに対抗できること、考えたこともありませんでした」


「彼女は大量の魔力を流しただけだと言っていたが、流された俺にはわかる。あれは大変な魔力操作がいる。俺と同じぐらいの膨大な魔力と、技術。……彼女はいったい何者なのだろうな」


「調べさせていただきましたが、今までは特に大きな問題がなく、王妃候補としての教育を受けていました。魔術に関しては、平均以下だという記録が残っています」


「……平均以下」


「そうです。その為婚約者としての扱いは受けていましたが、正式な婚約発表はこれからでした。家族は父と兄、生みの母はマリーシャ様が幼少の時に病気で死亡。父親の再婚相手との義妹がいます。マリーシャ様から魔術を使えないと申告があり、今はその義妹が婚約者としての扱いを受けているようです」


「この国の貴族で魔術が使えないのは致命的だ」


「……そうですね。すぐに父親が動きその日のうちに義妹がその座に収まったようです。そして、私達が家を訪問したときの扱い。これだけでマリーシャ様が家族から見捨てられたことが分かります」


 ラジュールの言葉に、セオドアは眉をひそめた。


「逃げたいと言っていたのは、これのせいだな。ただ、俺としてはタイミングが良かった」


「そうですね。あの時でなければ呪いを魔力で流すなんて危険な事、していただけることはなかったでしょう。マリーシャ様はセオドアさまの命の恩人です。……本人が平民になりたいのであれば、結婚などしなくても手助けはできるのでは?」


「俺は彼女を平民にする気はない。……もし呪いが解けたとしても、そばに置いておきたい。だから今、問題を完全に叩き潰す方法を考えている」


 セオドアの言葉に、ぱっと顔をあげラジュールは期待に満ちた顔で彼を見つめた。


「セオドア様、もしかして……!」


「そうだ。今までのように関わりだけをなくす方法ではいつまでも狙われてしまう。彼女を迎え入れるためには、危険は排除するしかないからな」


「……マリーシャ様と出会えたのは良かったです。セオドア様がそんな決意をしてくださるなんて」


「そうだろう。ガランドを気に入ってもらえるようにしないとな」


「でも、結婚を何故マリーシャ様とするのですか? そんな手を使わなくても、マリーシャ様を縛ることはできたはずです。セオドア様の決意は素晴らしいですが、魔術が使えない彼女との結婚は、賛成できません。今までだって、縁談は山ほどあったしガランド内でもセオドア様との結婚を願っている女性はかなりの人数います」


「……なんだろうな。俺と似てたからかな。一目ぼれっていうやつかもしれない」


 馬鹿みたいなことを真面目な顔で言うセオドアに、ラジュールは驚き目を見開き、頭を押さえた。


「もしかして……もしかしなくても、これはかなり本気なのでは……?」


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