街を走り抜けると、徐々に石畳の道が土の地面へと変わって行く。
ただそれだけなのに、随分遠くに来た気がしてしまう。
「不安ですか?」
隣を歩くノアの横顔が、月明かりに照らされている。
「ちょっとな。お前はこうして旅立つことには慣れっこなんだろう?」
「ええ、今更なにかを感じることもありません。いつもなら、ね」
ノアの色っぽい笑みに、顔が熱くなる。
いちいちノアに照れてる場合じゃない。これからはずっと一緒なんだ、慣れないと。
ずっと一緒……か。
思わず綻んだ口元を、わざとらしく咳払いをして誤魔化した。
そうして歩き続け、深夜をまわった頃にぽつんと佇む宿を見つけた。
旅人が立ち寄る場所らしく、今夜は俺たちしか客がいないようだ。
通された部屋は案外広く、ベッドが2つにランプ、机がひとつだけあった。
ベッドに腰かけても軋まないし、布団もペラペラではない。意外と快適に過ごせそうだ。
「朝まで歩くのかと思ってた」
「急ぐ旅ではありませんから、ゆっくりしていきましょう」
それもそうだ。連れ戻す追っ手が迫っているわけでもあるまいし。
明日からまたどれだけ歩くのかわからない。旅は体力勝負だ。今夜はゆっくり寝ておこう。
と思ったら、ノアが向かいのベッドではなく俺の横に腰掛けた。さらりと髪をほどくと、銀の髪が流れ星のように流れる。
「このまま寝るつもりではないでしょう?」
ぽかんとしていると、何故かノアが唇を尖らせる。どういう意味だ?
何も察しない俺にしびれを切らしたのか、ノアが俺の太腿に手を置く。
そして、息が掛かるほどに顔を近づけてきた。囁くように呟く。
「僕らの初めての夜ですよ。初夜に手を出さず寝てしまうなんて、無粋な人ですね」
「しょ、初夜!?」
それがどういう意味なのか、俺にもわかってる。
わかってるが、それは俺たちにも適用されるのか!?
「お、お前と夜を過ごすのは初めてじゃないだろう」
「あれはノーカウントですよ。それに、手や口でシただけでしょう」
「十分過ぎるわ!」
あの夜のことは、なるべく思い出さないようにしていた。それで興奮したら終わりな気がして。
「あのときは心を通わせていないではないですか。心が繋がった今、身体も繋がりたいと思うのは自然の流れでしょう?」
「そう、だけど……」
心臓が破裂しそうなほどバクバクと動いている。ノアにはきっとバレているだろう。
ふふっと笑ってから、吐息混じりに言う。
「抱くのと抱かれるのでは、どちらがお好みですか?」
「だッッ!?」
「僕はどちらでも構いませんよ」
抱くの抱かれるのって……そうか、男同士だとどっちもの可能性があるのか。
でもそんなの考えたこともない。というか、どうやって決めるものなんだ?
俺はノアを抱きたい? 抱かれたい?
ああ、わからん! 俺の頭ではキャパオーバーだ!
「男性とのご経験はないようでしたが、女性とのご経験は?」
「な、ない……けど」
くすりとノアが笑う。
バカにしてるのではなく、どこか嬉しそうだ。
「では、僕が男にして差し上げましょう」
「は……? っ!
聞き返す間もなく、唇が重ねられた。
さっきまでのとは違う。深い口づけだ。俺を求めるように、何度も強く重ねられる。
どうすればいいのか解らなかったが、男の本能が疼く。
噛みつくように求めると、俺の背に腕がまわされた。
俺の口腔にノアの舌が侵入する。受け入れるように舌を絡ませると、もう止まらなくなる。それは、ノアも同じようだった。
「んぅ……」
「ふっ……ノア……」
「フレディ、もっと僕に触れてみたくありませんか?」
ノアに手を取られ、服の中に誘導される。滑らかな肌を辿って行くと、ツンと尖ったものが引っ掛かる。
「あ……っ」
艶めかしいその声に、下腹部が熱くなる。
その肌にもっと触れたくて、両手でノアの胸に触れた。女と違って膨らみはないはずなのに、柔らかくて吸いつくようだ。
触れるたび、ノアが身体をくねらせる。
「フレディ……」
ノアがまた俺の手を掴み、自分の下腹部へと触れさせた。
布越しにノアの熱が当たる。その膨らみがありありと感じられた。
「あなたに触れられただけで、僕はこんなにも感じてしまうのですよ」
「ノア……」
腕を伸ばすと、袖がずり下がった。露わになった手首から、生々しい傷痕が覗いてしまう。
咄嗟に隠そうとしたが、ノアのしなやかな指先が俺の手を制止する。
「僕と一緒にいたら、もう死にたいなんて思わなくなりますよ」
「知ってたのか……?」
「恋しい方の身体に気づかない程、鈍感な男ではありません」
死のうと思って、でも思い切れずに中途半端につけた傷。
それを癒すかのように、ノアが傷痕を舌でなぞる。くすぐったいようなその感覚に、熱い吐息が漏れてしまう。
柔らかくて温かくて、まるで子猫にでも舐められているようだ。傷跡が、忌々しい記憶と共にノアに浄化されていく。
「ノア。もっと、お前に触れたい……」
手首に名残惜しそうにキスを落とし、ノアがまた俺の手を取る。
ノアに導かれるまま、身に纏う服を薄衣を剥がすように脱がせていく。徐々にあらわになるノアの素肌は、まるで絹のように白く滑らかだった。
同時に、自然な手つきでノアは俺の服に手を掛ける。上半身だけ脱がされ、半裸になってノアと向き合う。
ノアの彫刻のような美しい裸体と向かい合っていると、俺の貧弱な身体がますますみすぼらしく見えてしまう。
でもそんなこと、すぐにどうでもよくなる。
淡いピンクの突起を隠すように、銀色の髪のベールが掛かっている。その姿はエロいというよりも、どこか神々しかった。
ガラス細工のように壊れてしまいそうな、細い腰をそっと撫でた。
「ん……っ」と頬を染めるノアの美しさに、脳がクラッとする。
「触るだけでいいんですか?」
そう言われて初めて、ノアの柔肌に恐る恐るキスをした。なんとなく甘い気がする。
痕もつかないような触れるだけのキスに、ノアが笑う。
「じれったくなるほど優しいんですね。あなたの痕を残してくれてもいいのに」
「ノアの肌に痕なんてつけられない」
美しい新雪を足跡で汚したくない。そんな気持ちに似ている。
俺のものにしたいけど、キレイなままでいてほしい。
と、ノアが俺の下腹部に触れてきた。
「――っ!」
「僕の身体で、あなたも興奮してくれたんですね」
くすりと笑うその仕草だけで、また俺の中心が反応してしまう。
俺を男にしてくれると言っていた。
けど、ここから一歩が踏み出せない。ノアを傷つけたくないが、でも上手くやれる自信が……
「今日は、僕に任せてください」
ノアが俺に抱きついてきた。突然のことにバランスが取れず、ベッドに倒れ込む。
身体を起こそうとしたが、ノアが俺に馬乗りになっている。そのまま俺のベルトを緩め始めた。
「な……っ」
「どうかそのままで。フレディはただ僕のことだけ見て、考えていてください」
ノアに下着をずらされ、窮屈だったそれが外気に晒される。
まだ完全に勃ち上がっていないものをノアの両手で包み込まれた。優しく上下に刺激を与えられると、そこがさらに熱を持つ。
「ふふっ、もうこんなにして。1回ヌいておきますか?」
「や、ちょ……待っ」
同じ男だからか、ノアの手は的確に弱いところを刺激してくる。
裏筋をくすぐるように撫で上げられ、ぞわぞわと産毛が総毛立つのを感じる。もう触れることすらないと思っていたから、ノアに触られてるという事実だけで、俺の欲望が湧き上がってくる。
チロリと鈴口を舐められれば、呆気なく果ててしまった。
頭がぼうっとする。まだ俺の上には白い肌をすべて晒しているノアがいるというのに、妙に冷静になっている。
これが賢者タイムか。
そんな俺にノアが挑発的な笑みを向けた。
「次は私のナカに、挿れてみたくはありませんか?」
ノアが俺の上から降りて膝立ちになった。
人差し指と中指を、しゃぶるように舐める。その姿がまた官能的で、熱が引きそうだった身体がまた滾ってくる。
「ん……っ」
俺に見せつけるように指を濡らす。自分がされているわけでもないのに、ずくんと下腹部が疼いた。
指を唇から離すと、それを太ももの間に潜らせた。丸く小ぶりなノアの双丘の間、窄まりに指を挿れている。
あっ、と小さく声を上げてしまった俺に、また挑発的に口の端を吊り上げる。
「フレディのナカに入るために、準備をしないとですからね」
「い……痛くないのか?」
「ええ、ちっとも」
吐息交じりの声を漏らしながら、ノアは最奥を解していく。
「あ……ん、は……」
自分の指でも感じるのか、ノアが身体をくねらすたび、熱を持ったそこも存在感を増していく。
他の男のモノを性的に見たことはなかったが、ノアはそれすらも美しく見えた。
「そろそろ……よさそうですね。僕も、あなたも」
ノアの視線の先には、すっかりまた熱を取り戻した俺のモノがそそり立っていて……
「いやっ、え……これは……」
動揺する俺の上に、しなやかな太腿を大きく広げて跨った。そして、俺の勃ち上がり切ったそれに手を添える。
ドギマギと、これ以上にもないほど心臓が爆発しそうだ。
「では――」
俺の先端に、ノアの窄まりが当てられる。瞬間、そのナカに飲み込まれた。息を飲む俺をノアが赤い顔で見下ろしている。
「ん……あぁ……は、あ……」
小さく喘ぎながら、ノアはゆっくりと腰を落とし俺を更に深くまで飲み込んでいく。
「ふふっ、どうですか? 僕をあなたで、満たしていくご気分は」
「ノ……ア……」
口よりも狭く、熱い粘膜に包まれていく感覚。自分でするよりも、当然ノアの手でされるのともまた違う。
挿れているのは俺なのに、ノアに満たされていく。
俺のものがノアのナカを広げていく。きゅっとナカを締められ、絞られた。
内壁に擦り付けられ、意識が飛びそうになるのをシーツを握りしめて堪える。
ゆっくりと腰を落とし、しっとりと汗ばんだノアの尻が俺の太腿に当たる。
痩せたノアの唯一肉付きのよい尻はふっくらとしていて、柔らかかった。
「全部……入ったのか」
「ええ、フレディの全部、僕の中に……んっ」
銀の髪がノアの額に張り付いている。鬱陶しそうに掻き上げるその姿が、また堪らなく色っぽい。
月明かりに照らされたノアに見下ろされていると、その艶めかしい視線に限界まで達していた興奮が更に昂っていく。
と、ノアが少し腰を浮かせた。俺の腹に手を置いて、小刻みに動く。
「ノア、それ……っ」
「ここ、こうするのがいいんですか? いいですよ。もっと……っ、シて、あげますね」
ニヤリと笑って、そのまま動きを速めた。と思えばゆっくりと引き抜いて、一気に腰を落としたりと、すべてがノアのペースだ。
こんなの、ハジメテの俺が絶えられるわけがない。
「フレディの、すごく……大きくなりましたね。僕の奥まで、届いて……すごくイイですよ」
ノアも昂ってきているのか、紫の瞳に赤が混じっている。
その無防備な細い腰に、恐る恐る手を伸ばす。
「あ、んん……っ」
「もっと、触っていいか?」
腰を辿って、俺の放っておかれていた陰茎に触れる。ノアの身体がビクンと跳ね、ナカが締め付けられた。
「あっ……フレディ、そんな……じっとしていてくださいって」
「お前も、気持ちよくなってほしいから」
「僕はもう十分……です、から」
俺の掌の中で、ノアのそれが脈打つ。どこを触られるのが1番いいんだろうか。
銀の髪を払ってやると、そこに隠れた可愛らしい淡い乳首が顔を出す。親指の腹で押しつぶすように触れると、ノアが身体をくねらす。
ノアの尻に俺の陰嚢が擦れた。腰の奥がずんと熱くなる。握っていたノアの先端からも透明な蜜がぷくりと垂れて、トロトロになっていく。
可愛くて鈴口を指でいじっていると、ノアが俺の手をやんわりと引き剥がそうとする。
「ダメですよ、そんな……あっ」
「じゃあ、どうすればいい? どうすれば、お前をもっと」
無意識のうちに腰を動かしてしまったらしく、突き上げられたノアがのけ反った。
「ああっ、ぅ……や……フレディ、ほんとに」
「ノア」
乳首と陰茎を同時に刺激してやると、ノアの赤くなった目が潤んだ。
耐えられなくなったのか、俺の胸に倒れ込んでくる。汗ばんだノアと俺の肌が重なり合う。鼓動がひとつになり、どちらが自分のものかわからなくなる。
でも剥き出しになった下半身は、ノアの足と絡まり合っている。
細い膝が俺の太腿を挟んで、しがみつくように……
こういうとき、男は頭で考えられないらしい。
勢いをつけて身体を起こし、繋がったままノアをベッドに押し倒す。体勢が入れ替わり、ノアは何が起こったのかと目を白黒させていた。
「ノア」
「フレディ……やっ、ちょ……ああっ」
ヤり方なんて知るわけがない。とにかく本能の赴くまま、ノアの中に何度も突き入れた。
「ああっ、や……ふれ、でぃ……だめっ」
ある一点を突き上げると、ノアの腰が跳ねる。
「いやぁ……フレディ、やめ……待っ」
「ごめん、俺……もう、我慢できない」
ノアが涙を浮かべながら赤い顔で頷いた。
「はぅ、ああ……っいい、ですよ……僕のナカで、イッてください」
ぎゅっと抱き着かれ、喜びに胸が打ち震える。
俺には何もなかった。金なし、職なし、恋人なし。
でも今は大切な恋人が、この胸の中にいる。
震えるノアの唇に、深く口付けた。口腔からノアの味が伝わり、ノアの匂いが鼻腔を満たす。
心も身体も、ノアの全部が欲しい。ノアがいれば、他に何もいらない。
「フレディ、フレディ……ん、もう……ああっ」
「ノア……っ」
ノアが身体を震わせ、2人の間に放った。直後に、俺もノアのナカに吐き出した。