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22.繋がりたい


 街を走り抜けると、徐々に石畳の道が土の地面へと変わって行く。

 ただそれだけなのに、随分遠くに来た気がしてしまう。


「不安ですか?」


 隣を歩くノアの横顔が、月明かりに照らされている。


「ちょっとな。お前はこうして旅立つことには慣れっこなんだろう?」

「ええ、今更なにかを感じることもありません。いつもなら、ね」


 ノアの色っぽい笑みに、顔が熱くなる。

 いちいちノアに照れてる場合じゃない。これからはずっと一緒なんだ、慣れないと。


 ずっと一緒……か。

 思わず綻んだ口元を、わざとらしく咳払いをして誤魔化した。


 そうして歩き続け、深夜をまわった頃にぽつんと佇む宿を見つけた。

 旅人が立ち寄る場所らしく、今夜は俺たちしか客がいないようだ。


 通された部屋は案外広く、ベッドが2つにランプ、机がひとつだけあった。

 ベッドに腰かけても軋まないし、布団もペラペラではない。意外と快適に過ごせそうだ。


「朝まで歩くのかと思ってた」

「急ぐ旅ではありませんから、ゆっくりしていきましょう」


 それもそうだ。連れ戻す追っ手が迫っているわけでもあるまいし。

 明日からまたどれだけ歩くのかわからない。旅は体力勝負だ。今夜はゆっくり寝ておこう。


 と思ったら、ノアが向かいのベッドではなく俺の横に腰掛けた。さらりと髪をほどくと、銀の髪が流れ星のように流れる。


「このまま寝るつもりではないでしょう?」


 ぽかんとしていると、何故かノアが唇を尖らせる。どういう意味だ?


 何も察しない俺にしびれを切らしたのか、ノアが俺の太腿に手を置く。

 そして、息が掛かるほどに顔を近づけてきた。囁くように呟く。


「僕らの初めての夜ですよ。初夜に手を出さず寝てしまうなんて、無粋な人ですね」

「しょ、初夜!?」


 それがどういう意味なのか、俺にもわかってる。

 わかってるが、それは俺たちにも適用されるのか!?


「お、お前と夜を過ごすのは初めてじゃないだろう」

「あれはノーカウントですよ。それに、手や口でシただけでしょう」

「十分過ぎるわ!」


 あの夜のことは、なるべく思い出さないようにしていた。それで興奮したら終わりな気がして。


「あのときは心を通わせていないではないですか。心が繋がった今、身体も繋がりたいと思うのは自然の流れでしょう?」

「そう、だけど……」


 心臓が破裂しそうなほどバクバクと動いている。ノアにはきっとバレているだろう。

 ふふっと笑ってから、吐息混じりに言う。


「抱くのと抱かれるのでは、どちらがお好みですか?」

「だッッ!?」

「僕はどちらでも構いませんよ」


 抱くの抱かれるのって……そうか、男同士だとどっちもの可能性があるのか。

 でもそんなの考えたこともない。というか、どうやって決めるものなんだ?


 俺はノアを抱きたい? 抱かれたい?


 ああ、わからん! 俺の頭ではキャパオーバーだ!


「男性とのご経験はないようでしたが、女性とのご経験は?」

「な、ない……けど」


 くすりとノアが笑う。

 バカにしてるのではなく、どこか嬉しそうだ。


「では、僕が男にして差し上げましょう」

「は……? っ!


 聞き返す間もなく、唇が重ねられた。


 さっきまでのとは違う。深い口づけだ。俺を求めるように、何度も強く重ねられる。

 どうすればいいのか解らなかったが、男の本能が疼く。


 噛みつくように求めると、俺の背に腕がまわされた。

 俺の口腔にノアの舌が侵入する。受け入れるように舌を絡ませると、もう止まらなくなる。それは、ノアも同じようだった。


「んぅ……」

「ふっ……ノア……」

「フレディ、もっと僕に触れてみたくありませんか?」


 ノアに手を取られ、服の中に誘導される。滑らかな肌を辿って行くと、ツンと尖ったものが引っ掛かる。


「あ……っ」


 艶めかしいその声に、下腹部が熱くなる。


 その肌にもっと触れたくて、両手でノアの胸に触れた。女と違って膨らみはないはずなのに、柔らかくて吸いつくようだ。


 触れるたび、ノアが身体をくねらせる。


「フレディ……」


 ノアがまた俺の手を掴み、自分の下腹部へと触れさせた。

 布越しにノアの熱が当たる。その膨らみがありありと感じられた。


「あなたに触れられただけで、僕はこんなにも感じてしまうのですよ」

「ノア……」


 腕を伸ばすと、袖がずり下がった。露わになった手首から、生々しい傷痕が覗いてしまう。

 咄嗟に隠そうとしたが、ノアのしなやかな指先が俺の手を制止する。


「僕と一緒にいたら、もう死にたいなんて思わなくなりますよ」

「知ってたのか……?」

「恋しい方の身体に気づかない程、鈍感な男ではありません」


 死のうと思って、でも思い切れずに中途半端につけた傷。

 それを癒すかのように、ノアが傷痕を舌でなぞる。くすぐったいようなその感覚に、熱い吐息が漏れてしまう。

 柔らかくて温かくて、まるで子猫にでも舐められているようだ。傷跡が、忌々しい記憶と共にノアに浄化されていく。


「ノア。もっと、お前に触れたい……」


 手首に名残惜しそうにキスを落とし、ノアがまた俺の手を取る。

 ノアに導かれるまま、身に纏う服を薄衣を剥がすように脱がせていく。徐々にあらわになるノアの素肌は、まるで絹のように白く滑らかだった。


 同時に、自然な手つきでノアは俺の服に手を掛ける。上半身だけ脱がされ、半裸になってノアと向き合う。

 ノアの彫刻のような美しい裸体と向かい合っていると、俺の貧弱な身体がますますみすぼらしく見えてしまう。


 でもそんなこと、すぐにどうでもよくなる。


 淡いピンクの突起を隠すように、銀色の髪のベールが掛かっている。その姿はエロいというよりも、どこか神々しかった。


 ガラス細工のように壊れてしまいそうな、細い腰をそっと撫でた。

「ん……っ」と頬を染めるノアの美しさに、脳がクラッとする。


「触るだけでいいんですか?」


 そう言われて初めて、ノアの柔肌に恐る恐るキスをした。なんとなく甘い気がする。

 痕もつかないような触れるだけのキスに、ノアが笑う。


「じれったくなるほど優しいんですね。あなたの痕を残してくれてもいいのに」

「ノアの肌に痕なんてつけられない」


 美しい新雪を足跡で汚したくない。そんな気持ちに似ている。

 俺のものにしたいけど、キレイなままでいてほしい。


 と、ノアが俺の下腹部に触れてきた。


「――っ!」

「僕の身体で、あなたも興奮してくれたんですね」


 くすりと笑うその仕草だけで、また俺の中心が反応してしまう。


 俺を男にしてくれると言っていた。

 けど、ここから一歩が踏み出せない。ノアを傷つけたくないが、でも上手くやれる自信が……


「今日は、僕に任せてください」


 ノアが俺に抱きついてきた。突然のことにバランスが取れず、ベッドに倒れ込む。

 身体を起こそうとしたが、ノアが俺に馬乗りになっている。そのまま俺のベルトを緩め始めた。


「な……っ」

「どうかそのままで。フレディはただ僕のことだけ見て、考えていてください」


 ノアに下着をずらされ、窮屈だったそれが外気に晒される。

 まだ完全に勃ち上がっていないものをノアの両手で包み込まれた。優しく上下に刺激を与えられると、そこがさらに熱を持つ。


「ふふっ、もうこんなにして。1回ヌいておきますか?」

「や、ちょ……待っ」


 同じ男だからか、ノアの手は的確に弱いところを刺激してくる。

 裏筋をくすぐるように撫で上げられ、ぞわぞわと産毛が総毛立つのを感じる。もう触れることすらないと思っていたから、ノアに触られてるという事実だけで、俺の欲望が湧き上がってくる。


 チロリと鈴口を舐められれば、呆気なく果ててしまった。


 頭がぼうっとする。まだ俺の上には白い肌をすべて晒しているノアがいるというのに、妙に冷静になっている。

 これが賢者タイムか。


 そんな俺にノアが挑発的な笑みを向けた。


「次は私のナカに、挿れてみたくはありませんか?」


 ノアが俺の上から降りて膝立ちになった。

 人差し指と中指を、しゃぶるように舐める。その姿がまた官能的で、熱が引きそうだった身体がまた滾ってくる。


「ん……っ」


 俺に見せつけるように指を濡らす。自分がされているわけでもないのに、ずくんと下腹部が疼いた。

 指を唇から離すと、それを太ももの間に潜らせた。丸く小ぶりなノアの双丘の間、窄まりに指を挿れている。


 あっ、と小さく声を上げてしまった俺に、また挑発的に口の端を吊り上げる。


「フレディのナカに入るために、準備をしないとですからね」

「い……痛くないのか?」

「ええ、ちっとも」


 吐息交じりの声を漏らしながら、ノアは最奥を解していく。


「あ……ん、は……」


 自分の指でも感じるのか、ノアが身体をくねらすたび、熱を持ったそこも存在感を増していく。

 他の男のモノを性的に見たことはなかったが、ノアはそれすらも美しく見えた。


「そろそろ……よさそうですね。僕も、あなたも」


 ノアの視線の先には、すっかりまた熱を取り戻した俺のモノがそそり立っていて……


「いやっ、え……これは……」


 動揺する俺の上に、しなやかな太腿を大きく広げて跨った。そして、俺の勃ち上がり切ったそれに手を添える。

 ドギマギと、これ以上にもないほど心臓が爆発しそうだ。


「では――」


 俺の先端に、ノアの窄まりが当てられる。瞬間、そのナカに飲み込まれた。息を飲む俺をノアが赤い顔で見下ろしている。


「ん……あぁ……は、あ……」


 小さく喘ぎながら、ノアはゆっくりと腰を落とし俺を更に深くまで飲み込んでいく。


「ふふっ、どうですか? 僕をあなたで、満たしていくご気分は」

「ノ……ア……」


 口よりも狭く、熱い粘膜に包まれていく感覚。自分でするよりも、当然ノアの手でされるのともまた違う。

 挿れているのは俺なのに、ノアに満たされていく。


 俺のものがノアのナカを広げていく。きゅっとナカを締められ、絞られた。

 内壁に擦り付けられ、意識が飛びそうになるのをシーツを握りしめて堪える。


 ゆっくりと腰を落とし、しっとりと汗ばんだノアの尻が俺の太腿に当たる。

 痩せたノアの唯一肉付きのよい尻はふっくらとしていて、柔らかかった。


「全部……入ったのか」

「ええ、フレディの全部、僕の中に……んっ」


 銀の髪がノアの額に張り付いている。鬱陶しそうに掻き上げるその姿が、また堪らなく色っぽい。

 月明かりに照らされたノアに見下ろされていると、その艶めかしい視線に限界まで達していた興奮が更に昂っていく。


 と、ノアが少し腰を浮かせた。俺の腹に手を置いて、小刻みに動く。


「ノア、それ……っ」

「ここ、こうするのがいいんですか? いいですよ。もっと……っ、シて、あげますね」


 ニヤリと笑って、そのまま動きを速めた。と思えばゆっくりと引き抜いて、一気に腰を落としたりと、すべてがノアのペースだ。


 こんなの、ハジメテの俺が絶えられるわけがない。


「フレディの、すごく……大きくなりましたね。僕の奥まで、届いて……すごくイイですよ」


 ノアも昂ってきているのか、紫の瞳に赤が混じっている。


 その無防備な細い腰に、恐る恐る手を伸ばす。


「あ、んん……っ」

「もっと、触っていいか?」


 腰を辿って、俺の放っておかれていた陰茎に触れる。ノアの身体がビクンと跳ね、ナカが締め付けられた。


「あっ……フレディ、そんな……じっとしていてくださいって」

「お前も、気持ちよくなってほしいから」

「僕はもう十分……です、から」


 俺の掌の中で、ノアのそれが脈打つ。どこを触られるのが1番いいんだろうか。


 銀の髪を払ってやると、そこに隠れた可愛らしい淡い乳首が顔を出す。親指の腹で押しつぶすように触れると、ノアが身体をくねらす。


 ノアの尻に俺の陰嚢が擦れた。腰の奥がずんと熱くなる。握っていたノアの先端からも透明な蜜がぷくりと垂れて、トロトロになっていく。

 可愛くて鈴口を指でいじっていると、ノアが俺の手をやんわりと引き剥がそうとする。


「ダメですよ、そんな……あっ」

「じゃあ、どうすればいい? どうすれば、お前をもっと」


 無意識のうちに腰を動かしてしまったらしく、突き上げられたノアがのけ反った。


「ああっ、ぅ……や……フレディ、ほんとに」

「ノア」


 乳首と陰茎を同時に刺激してやると、ノアの赤くなった目が潤んだ。

 耐えられなくなったのか、俺の胸に倒れ込んでくる。汗ばんだノアと俺の肌が重なり合う。鼓動がひとつになり、どちらが自分のものかわからなくなる。


 でも剥き出しになった下半身は、ノアの足と絡まり合っている。

 細い膝が俺の太腿を挟んで、しがみつくように……


 こういうとき、男は頭で考えられないらしい。

 勢いをつけて身体を起こし、繋がったままノアをベッドに押し倒す。体勢が入れ替わり、ノアは何が起こったのかと目を白黒させていた。


「ノア」

「フレディ……やっ、ちょ……ああっ」


 ヤり方なんて知るわけがない。とにかく本能の赴くまま、ノアの中に何度も突き入れた。


「ああっ、や……ふれ、でぃ……だめっ」


 ある一点を突き上げると、ノアの腰が跳ねる。


「いやぁ……フレディ、やめ……待っ」

「ごめん、俺……もう、我慢できない」


 ノアが涙を浮かべながら赤い顔で頷いた。


「はぅ、ああ……っいい、ですよ……僕のナカで、イッてください」


 ぎゅっと抱き着かれ、喜びに胸が打ち震える。


 俺には何もなかった。金なし、職なし、恋人なし。

 でも今は大切な恋人が、この胸の中にいる。


 震えるノアの唇に、深く口付けた。口腔からノアの味が伝わり、ノアの匂いが鼻腔を満たす。

 心も身体も、ノアの全部が欲しい。ノアがいれば、他に何もいらない。


「フレディ、フレディ……ん、もう……ああっ」

「ノア……っ」


 ノアが身体を震わせ、2人の間に放った。直後に、俺もノアのナカに吐き出した。




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