気が付いたら俺は、どこかのベッドに寝かされていた。
板張りの天井と壁が見える。どこだここは。
確かノアと飲んでいて、酒のまわりが早くて眠くなって……
「フレディ」
「――っ!?」
真横にノアの顔があった。
肘を枕にし、俺の横に添い寝をしている。
「な……、はっ? なんで、ここ」
「覚えていませんか? フレディが酔ってしまわれたので、宿へお連れしました」
最悪だ。推しの前で醜態を晒すなんてみっともない。
「悪い、迷惑かけた。俺もう帰るから」
居たたまれなくてベッドから起き上がると、ノアに肩を掴まれた。
「ノア?」
「言ったでしょう。今日はあなたを帰したくないと」
ぐっと両肩を押され、ベッドに押し倒された!?
真上にいるノアが、紫の瞳で俺を見下ろしている。
「な……え、なんだ……???」
「あなたともっと、深い仲になりたいんですよ」
ふっと口の端で笑った。
そしてその唇が、俺の唇に重なる。
「ん……ふっ」
柔らかく押し当てられた感触に、頭が真っ白になる。
キス……キスじゃないか!?
前世でも今世でも色恋沙汰とは無縁だった。
童貞どころか、これがファーストキスだったんだが!?
呆然と見上げると、ノアの唇が艶めかしく濡れていた。
その唇をぺろりと舐める仕草が、たまらなく色っぽい。
「可愛いですね、フレディ。もしかして、男相手は初めてですか?」
「……っ」
俺の反応に、ノアが薄く笑った。
男相手どころじゃない。俺は誰とも何もしたことないぞ。
「では、優しくして差し上げましょう」
ノアの指先が、俺の指に絡めてくる。
そうして、また顔を近づけ……
「ま、待て! 何しようとしてる!?」
「イイコト、ですよ」
そっと、服の上から俺の中心をなぞるように触れてくる。
さすがに童貞の俺だって、何をされようとしてるかはわかった。
「やめろ! 俺は別にこんなことしたいわけじゃ……っ」
「僕に触られるの、嫌ですか?」
「い、嫌というか……けど、でもこんなっ」
「だったらいいじゃないですか。僕に身を委ねてください」
逃げる間もなく、耳元にノアの唇が当てられた。
「気持ちいいこと、してあげますよ」
耳に吐息が流れ込んでくるのと同時に、ズボンの中にノアの手が侵入してくる。
「ちょ、なにしてっ、やめろ」
「やめていいんですか? あなたのここは、もうその気になっているというのに」
勃ち上がり始めている俺の裏筋を撫でられる。
ノアにこんな風に触られて、反応しないわけがないだろう。
「ひ……っ」
揉むように扱かれれば、声が出そうになる。
咄嗟に両手で口を押える。
「どうして声を抑えるんです? 聞かせてくださいよ、あなたの可愛い声」
「ん、んんっ……」
口を塞いでいた両腕を引き剥がされ、頭の上でまとめて押さえつけられる。
振りほどこうとしたが、細身のくせにノアの力は強くビクともしない。
右手で俺を押さえつけながら、左手で下着ごと一気にズボンを脱がされた。
半勃ちのそこがノアの眼前に晒される。
「見るなっ!」
膝を立てて隠そうとするも、あっさりとノアに膝を割られる。
そして今度は、俺の中心を直にその白い手に握られた。
「う……っ」
「よくしてあげると言っているのに。何をそんなに嫌がっているんです?」
「やめ、やめろって」
強制的に与えられる快楽に声が震える。
そこを誰かに触られること自体初めてだ。自分の手とは違う感触にクラクラする。
もっと与えてほしいという本能と、こんなつもりではないという理性がせめぎ合う。
その間にも、ノアの手は俺の中心を弄んでいる。
根元からくすぐるように形をなぞられ、鈴口を指でいじられる。ゾクゾクした感覚が背中を走り、腰が浮きそうになった。
「は、あ……っ」
「辛そうですね。我慢しなくていいんですよ」
そう言うと、ノアが下へと移動した。
すっかり勃ち上がったそこに、ふっと息をかけられると自然と声が漏れてしまう。くすりとノアの笑う声が聞こえて、それから俺の先端が粘膜に包まれる。
「う……、なに、して……」
俺の先端を躊躇なく咥えて、舐め取るように舌を絡められた。何をされているのか信じられず頭を振ったが、初めての快楽に下腹部が甘く痺れる。
唇を離すと、ノアは上目遣いにニヤッと笑った。
「苦しそうだったので。お手伝い致しました」
恐る恐る見ると、俺の先端からトロトロと透明な蜜が溢れ出していた。
「や、めろ……見るな」
そんな俺の言葉も届かず、再びノアに手を添えられる。
溢れ出したそれを塗り広げるように上下されると、もう堪らなくなってしまう。
「くっ、や……めろ、やめろって」
「もう限界ですか? いいですよ。僕の手の中で、イかせてあげます」
「は……あ、も……出、はなせ、やめろ……んんっ」
目の前が弾けて、真っ白になった。
ぐったりとベッドに沈み込んだ身体にまた、ノアが覆い被さる。ちゅっ、と俺の額にキスが落とされた。
「可愛かったですよ」
「の、あ……」
ぼんやりとした視界でノアが滲んで見えた。
俺が吐き出した白濁を手に纏わせ、見せつけるように舐め取る。
やたら色気を漂わせたノアが、天使にも悪魔にも見えた。
「愛してますよ、フレディ」
光のない瞳が、俺を見下ろしていた。