「マジか……」
ゴミに埋もれたベッドの上から、握っていたナイフが床に転げ落ちた。
俺は推しにスパチャも投げられないような弱者男。
石油ストーブをつけっぱなしにした一酸化炭素中毒でうっかり死んだ。
そんな記憶を思い出した今の俺は、フレデリック・ヴァン・ロストラータ。
ロストラータ伯爵家の三男だ。
20歳を迎えても勉学も武道も魔力も、何の才もない。
何年も切っていないボサボサの髪に無精ひげ。不潔を絵に描いたようだ。
上2人の兄は天賦の才に恵まれ、美形揃い。
三男だけどうしてこうなった。ロストラータ三兄弟の出涸らし。
なんて噂は、否応なしに俺の耳にも入る。
怠け者だ痴れ者だと言われ続けてるが、俺だって頑張ってはいたつもりだ。
兄さんたちに比べれば、三男へのプレッシャーなんてたいしたもんじゃない。
それでも、名門ロストラータ家の名に恥じぬよう努力はした。
でも、その努力はことごとく実らなかった。
頑張っても頑張らなくても、怒られて笑われる。それなら、何もしない方がマシだ。
そうして引きこもって早数年、成人してもなお俺は引きこもりを続けた
誰も立ち入らせることのない部屋は分厚いカーテンを閉め切ったままで、ゴミが溢れ返っている。
ゴミに埋もれて毎日朝から晩まで、泣いたり怒ったりしていた。
俺の人生真っ暗だ。いっそ死んでしまいたい。
……最悪だ。
前世の俺だって引きこもり気質ではあった。
学生の頃から用事がなければ外に出ない。休みの日も家で寝ていた。
しかし、家の中は普通に出歩いていたし、学校やバイトには行っていた。
それなのに今の俺ときたら、トイレ以外部屋から一歩も出ない。食事も部屋の前に置かれている。
ガチな引きこもりじゃないか!
せっかく異世界転生をしたってのに、悪化してどうする!
異世界転生ってのはチート能力を手に入れたり、むやみにモテモテになったり、前世より良い状況になるもんじゃないのか!?
前世も今世も弱者男。
こんなことなら、生まれ変わりたくなんてなかった……