「いいのかよ、何も聞かないままで」
「予想はつくから」
裏からの帰り道、あの流れならバルドから色々
フォウの姿でいて良かったと言えるだろう。
キャラ作りとしてやや冷たい印象を周囲へ与えることを意識していなければ、今のフォウを見て小さく悲鳴を上げていておかしくない。
「……そっかよ」
言葉通り、先のバルドと戦うことになった原因には予想がついていた。
フォウを裏闘技場で戦わせるにあたって、どの程度の魔物を用意すればいいのかという物差しとしてバルドが差し向けられたのだろうと。
恐らく、フォウと戦うことを条件に留置所からの釈放を叶えられた、そんなところだと。
「はぁ、気持ちもなんもわかんねぇけど、ちったぁ落ち着けや」
「む……そんな、露骨だったか?」
「オレ様じゃなくてもわかるくらいには」
「そっか、悪い」
バルドにしてみれば、フォウと戦ういい口実に使える内容だ、食いつくのは仕方ない。
ただ、それはつまり、フォウの実力を測るだけのためにバルドを捨て鉢にしようとしたということ。
それが、フォウルは何より気に食わなかった。
「はぁ……んで? どんな感じよ」
「流石にまだ情報が足りなすぎるよ。あのおばばさんはバルドのことを知っている。だから一枚嚙んでいてもおかしくはないけれど、フォウとフォウルの関係を知っているのは真実クリエラだけのはずだ。フォウルを知っていて、フォウを知らないあのおばばさんが噛んでる可能性は低いだろう」
「んじゃ、やっぱ裏闘技場の主催者クラスあたりがメインってとこか」
「だと、思う」
フォウルの立てた予想は正しい。
今回バルドを釈放し、フォウへとぶつけたのは裏闘技場のイベンター、マッチメイクを考える立場にいる人間だ。
しかしながらこれはある意味仕方ないのことでもあった。
裏闘技場ではよりスリルある戦いを演出、あるいは仕組まなければならない。
ならばより詳しいフォウの戦闘能力を知るためには、それなり以上の実力者の協力を仰ぐことが手っ取り早いし、なんなら利用してしまうのが一番だ。
とは言えそれはフォウルにとっては関係のないこと。
内心にはよくもまぁこんなくだらないことで、バルドという大切な仲間を利用してくれやがったなと言ったところ。
「けど、むしろ一枚噛んでいて欲しいとも思う」
「なんでだよ」
「おばばさんが力を持っているのは水商売界隈だけに限らないって証拠が欲しいのさ」
「なるほどな。まぁ確かにあのおばばは不気味だ。つーか、オレ様がてめぇの代わりに話してたらすっかり信じ込んじまってたかもしんねぇし。不気味だと思えるのはてめぇの話を聞いたからだが」
元よりすぐにあの娼館主の背景を簡単に探れるとは思っていなかったから、落胆するほどではないが、惜しいなとは思っている。
「でもまぁ、四神の型をバルドには見せられた。それでよしとすることにしよう」
「アレ、おっさんの必殺技だったよな?」
「あぁ。四獣の型をもっといいものにできないかって一緒に考えたんだ」
「つーか、おっさんのは何回も見たが、フォウルのは初めて見たな。十分イけんじゃねぇか」
実のところ、フォウルとバルドはよく似ている。
バルドは対戦相手の技を盗み自分の力とするし、フォウルは相手の技を自分の魔法で再現する。
どちらも相手ありきで自分の力へと変えるタイプの人間だ。
「とんでもない。魔法で誤魔化しながらであっても、完成度は闘神バルドに遥か及ばないよ。それはフォウじゃなくてフォウルであってもそうだ」
「そんなもんか? おっさんには十分通用してたじゃねぇか」
「初見だったからっていうのが大きいよ。何より四神の型は死角を最大限に活かした攻撃の形だ。地面に伏せた初動体制も、武器の出どころを分かりにくくしたり間合いを誤認させる目的が大きいし、それ以降の動きも死角へ潜り込むことを常に考えたもの」
「わからん殺しってやつか」
平たく言えばそうだとフォウは頷く。
実際、謙遜でもなんでもなくフォウが見せた四神の型はお粗末なものだった。
扱い手である闘神バルドであれば、伏せの体勢から全身の筋力を使ってもっと早く動くし、なんなら剣閃の疾さも段違い。
フォウの得物がミスティアスというスネークソードであったことと、魔法による自己補助があったからこそ通用したと言える結果に結び付いただけに過ぎない。
「今回、バルドは四神の型を知った。フォウとしてはこれで勝ち筋が無くなったとも言える」
「あん? いや、別に魔力の物質化だなんだでも十分戦えるだろうよ」
「手段を選ばなければ戦いにはなるさ。けどな、あのバルドだぞ? 四神の型を見せたことで、闘神バルドが使った四神の型以上のものに仕上げてきてもなんらおかしくない」
「……随分おっさんを買ってるもんだ」
呆れたように言うクリエラに対して、フォウは笑って。
「そりゃ、勇者アリサパーティの切り込み隊長様だから、な」
「さいですか」
今も昔も変わらない信頼を口にした。