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第75話「悪役街道まっしぐら」

「いや、おい……オレ様は少しおっさんのことを誤解していたぞ」


「誤解って。何を誤解してたんだ?」


「イイ奴じゃねぇか」


「あー……クリエラって、情に脆いのな?」


 フォウルはクリエラを顕現した状態で留置所からの帰り道を歩く。


 バルドから何故サクナの後見人紛いのことをしているのかを聞いたクリエラは、簡単にバルドへの見方を変えた。


 フォウルからすれば、元々それ込みで褒められた大人じゃないという見方をしていただけに、詳しいことを聞こうがどうしようが特に態度を改めることではないのだが。


「情に脆い? いや、だってよ」


「確かにバルド程込み入っている事情っていうのはあまりないし、何なら今世ではまだ・・珍しい話だと思う」


「……そうか、いや、そうだな。悪かった」


「クリエラが謝ることじゃないだろうに」


 バルドの正直な姿に加えて、クリエラがこうして反省する姿を見るなんて今日は空から槍でも降ってくるのではないかと、苦笑いを浮かべながらフォウルは空を仰ぎ見る。


 人情話が嫌いというわけではない。

 ただ、あまりにもフォウル、ひいては勇者アリサパーティは人情によって使われてきた存在だった。


 アリサは自分を削るように何とかしようと奔走していたし、そんなアリサの姿を見てフォウルは人情を事前に遮断するように動いたこともある。


 究極的に言えば、フォウルにとって情けとは悪意に近いものだった。


「……魔力を利用した鍛冶、か」


 バルドは女を一人の男と競い合った過去があった。

 言うまでもなく、その男とはサクナの実父であり、女は実の母。


 つまり、バルドは恋愛競争において敗北したのだ。


「フォウル、オレ様は魔導に関しては明るくねぇんだが」


「時期的に言えば、そろそろ発見されて研究が始まっていてもおかしくないな。魔力の物質化は、魔導鍛冶から着想を得たものだし」


 鍛冶然り、生活や他の製造に魔力や魔法を活かす発想を一般的に魔導と呼ぶ。


 競争相手の男は、予想通り鍛冶師ではあったが一つ予想外にも魔力を使った鍛冶の研究をしていた男だった。


 すなわち、魔導鍛冶師。


「なら、その研究成果をサクナが持っていてもおかしくない、か」


「あるいは後天的に目覚めるように仕込まれている可能性もある。見たところ、今のサクナさんに魔力的な何かは感じないけど、一定の年齢を超えたり、何らかをきっかけとして目覚めるようにすることは可能だ」


 そういう技術がある、という意味であってサクナがそう仕込まれているという根拠はない。


 ないが、事実としてサクナはバルドを動かすための人質として扱われた未来がある。


「ミスティアスを扱った感触から考えれば、これは鍛冶として考えても魔導鍛冶として考えてもそこそこ良い武器レベルだけど……鍛冶と魔導の融合研究から生まれた成果として考えれば、相当な代物」


「脳みそかなんかにその研究内容が詰まってる可能性があるなら……まぁ研究素材として扱われそうになってもおかしくはねぇ、か」


 バルドがガルゼスの娼館に下働きとしてサクナを囲わせた真意はそこにあるのかもしれないと。


 ライバルとはいえ親友と、惚れた女の間にできた娘を守りたいからとバルドは語った。


 その守りたいという気持ちと考えの中には、そういった研究材料として扱われる未来を回避させというものもあるのではないかと。


 故に、かもしれない。

 フォウルが魔力の物質化という魔法を見せた時に激しく動揺していたのは。

 ある意味、考えの中にあった最悪から生み出された技術を披露されたのだから。


「フォウル」


「わかってる。バルドの願いにしても、単純にサクナさんの保安にしても。ガルゼスにこのまま居続けていたのなら、あの未来と同じ道筋を辿るだろうな」


 枝を隠すには森の中、闇を隠すには闇の中。


 そうすることは一つの正解ではあるだろうが、闇の中に隠すにはサクナは少し眩すぎる。


「だがどうすんだ? この街にいるのは危ないから違う場所へってのはいいが、おっさんは納得しねぇぞ」


「それも、わかってる。未来を知っているからなんて胡散臭いにも程があるからな。バルド自身、話してくれただけで、助けてくれと言ったつもりはないって激怒待ったなしだろうさ」


 よくわかっている。

 少なくとも、フォウルとしてできることは少ない。


 それこそ、去り際にバルドが言ったように、だからこそ自分に稽古をつけてくれという訴えに応じることこそが、話の流れとしては正着と言えるだろう。


「だったら?」


「……サクナさんを、身請けする」


「……うぉおい」


 どうしてそうなったとクリエラはがっくり肩を落とした。


「フォウとして、サクナさんを身請けするんだよ。幸いにして、サクナさんが捕まっていないってことはまだ魔導鍛冶とサクナさんが結び付いていないんだ。世界に対してフォウが一歩先に行っている。どのみちバルドとフォウは戦うことになるし、そこに景品としてサクナさんを設定するように仕込む」


「悪役街道まっしぐらだなぁ? シズがどう思うやら」


「ぐ……ちゃ、ちゃんと説明するって……フォウルが」


「はぁ……まぁ、とりあえずの方針にしとけ? まずはフォウルとして娼館に行って話を聞いてからでも遅くねぇだろうから」


「お、おう……たまに良いこと言うよな、クリエラって」


「たまには余計だっての」


 そうして、行き先をサクナが待つ娼館へと変えて、再び二人は歩き出した。


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