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第74話「更生(小)」

「――で、何でこんなとこにぶち込まれてるんだ……」


「そりゃもうあれヨ。やらかしたからしかネェだろう」


 サクナのことについて本人から少しでも事情が聞ければと、フォウルはバルドを探したその結果やってきたのは留置所だった。


 引き取りかと聞かれたが、ただの面会だと答え、フォウルはバルドの前で肩を落とす。


「探す手間が省けたと言うべきか……」


「ンだよ……フォウルに迷惑かけたわけじゃネェだろうが」


 暴れるつもりはもうないのか、酒場で暴れた時のような腐りっぷりは見られない。

 それどころか多少バツの悪さでもあるのか、鉄格子の向こうで口を尖らせながらそっぽを向く素振りすら見せる。


「その仕草はおっさんがやっても鬱陶しいだけだぞ」


「ンぐっ。や、まぁなんだ……悪かった」


 フォウルが意図的に厳しい視線をバルドへと向ければ意外にも素直に謝るバルドだ。


 そんなバルドへと内心でフォウルは首を傾げる。

 仮に前世であったのならばここでバルドは呵々と大笑いしていた場面だが、今世において築き始めた関係ではどうにもしおらしい。


「釈放は?」


「あー……明後日、らしいゼ」


 一応、というべきか。

 バルドとしてはフォウルにあまり情けない、あるいはダメっぷりを見られるのは嫌だった。


 自分を負かした相手に、そんなだからと言われたくないといった思いがあったのだ。

 バルドはまだ自分がどうすればフォウ、ひいてはフォウルに勝てるかに見当が全くついていない。

 だからこそ、こうした自分にとっては何でもないようなことを取り上げられて言われてしまえば反論できないと考えていた。


「そうか」


「……そうか、ってよォ。はぁ、悪ィ、これでも反省してる。やっちゃダメってことは知ってるが、思わずヤりたくネェこともやっちまったんだ。勘弁、してくんネェか」


 何より今回については喧嘩になっていなかった。

 喧嘩をふっかけて喧嘩になった結果留置所や拘置所にぶちこまれるのなら笑い話だが、一方的な加害者になってしまったのは、バルドとしても痛恨だった。


「いいよ、別に。バルドの言う通り、俺に迷惑がかかったわけでもないし、何をやったのかも知らないから怒りようもない」


「話せってんなら、話すが」


「興味ないよ。俺にとってバルドは強いやつで、もしかしたら弟子になるかもしれない人。それだけでいい」


「……そっかヨ」


 実際のところ。

 ここでバルドがちょっとイラついたから人を殺してしまったんだ、なんて言ったとしてもフォウルは同じことを言っていた。


 もちろんかつてを基準にして言うのなら。

 バルドが何かやらかして、勇者アリサの名前に傷がついただとかになればフォウルは烈火の如く怒っていただろうが、かつてであってもバルドはそんなことはしていない。


 何か理由があって、必ずしも全てバルドが悪いとは、ハナからフォウルは考えていなかった。


「ありがとう、ヨ」


「いいさ」


 まぁ今回はバルドが全て悪いのだが。


 ただ、バルドはこうした信頼のようなものを向けられたことはなかった。

 無関心に近い感情のように見えて、その実フォウルの目はそう言っていないとバルドは感じたのだ。


 それが何故かはわからないまでも、少しだけ救われて、裏切りたくないと思えたのは確か。


「んデ? わざわざンなとこまで来て、何か用か?」


「あぁ。この前言ってただろう? 血の繋がらない娘が居るって」


「あァ、言ったがよ」


「詳しく教えてほしいんだ」


 目を丸くするのはバルドだ。


 強いやつで、弟子になるかもしれない男というだけでいい。

 間違いなくすぐ前にそういった男が、自分の事情を聞いてくる。


「なンで……聞きてぇんだ?」


「強くなる、なりたいって動機を詳しく知ろうとするのは変かな」


「いや、おかしいとは思わねぇがヨ。知って、どうすンだ?」


 気分を害したというわけではない。

 相手がフォウルじゃなければ、バルドは怒りを見せていただろうが、今この場においては何故という疑問が先に立った。


 同時に、フォウルはここでお前に話すようなことじゃないとすぐに断られるだろうと思っていた。

 あるいはクリエラと話していたように、そんなことよりも俺に剣を教えてくれと言われるだろうと。


 だから、ではないが。


「……フォウの動向、知ってるか?」


「いや、生憎とぶちこまれっからナ。Bランクに上がったくれぇしか」


 話してくれるかもしれない流れになるとは思っていなかった。


「裏闘技場に、出るらしい」


「はぁっ!?」


 裏闘技場なんて名前ではあるが、それなりに民衆の認知は進んでいる。

 というよりも、おおやけとまでは言えないがガルゼスの貴族も存在を知っていながら放置している存在だ。


 当然、バルドも知っている。あるいは、フォウル以上に。


「いや、おいおい、本気で言ってンのか?」


「本気って。少なくとも本当だよ、ほら」


 言いながらフォウルが懐から取り出したのは一枚のチケット。


「……モンスター・パレード……」


「手に入れるのは苦労したけど。噂じゃ、更に強くなりたいからとかなんとか」


 まじまじとチケットを見るバルドの背中に冷や汗が流れる。


 倒すべき相手として認知した者が、危険な裏闘技場で命を落とす可能性を想ったことと。


「これ以上、アレ以上に強くなンのかよ……」


 今以上に強くなったフォウという存在を、想像すらできなかったから。


「だから、だよ。おっさんの動機を詳しく知ることで、多少アドバイスくらいはできるかもしれないだろ?」


「……あぁ」


 我ながら無理やりな話筋だと、実はフォウルも冷や汗ものではあったが。


「わぁった……詳しい話って、何が聞きてぇんだ?」


 バルドは、フォウルの姿勢を歩み寄りとして捉え、受け入れた。

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