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第60話「おっさんとの邂逅」

「魔力の、物質化ァ……?」


 フォウルの手に淡く光る剣のようなものが現れた。


「ご明察。流石だな」


「て、てめェ……!」


 バルドが口にした通りフォウルが行ったことは魔力の物質化である。


 体内魔力を放出、固定、圧縮しモノとする。

 かつて魔族との戦争により人間が生み出した超高等技術の一つで、戦争末期の頃であっても実際に扱えた人間は両手の指で足りるほどの。


「どうした? かかって、こないのか? 楽しませてくれるんだろう?」


 当然、今世では生み出されていないものだ。

 もしかしたら発想自体は存在しているかもしれないが、今この時に置いてフォウル以外で実現可能な人間はいない。


「くっ……」


 無意識に、バルドは一歩後ろに退いた。


 バルドに魔法の才能はない。

 ないが、今見せつけられているモノが、どれだけ人間離れしている技術なのか位はわかる。


 フォウルは盗んでも良いぞと言った。


 つまり、盗めるものなのだ。

 バルドが己の強さと変えてきた技術の全ては強者の技術を盗み身につけたもの。

 強いやつへと喧嘩を売り、相手の引き出しを目にして、自分のモノへと変える。


 そうしてきたバルドであっても。


「ンの、やろォッ!!」


 盗めない。


 怯えの感情を抱いたこと、盗めないと悟ったこと。


「んなもんガッ!! あってたまっかよォッ!!」


「良い覚悟だよ、おっさん」


 全てを怒りに変えて前進する力としたバルドが勢いよく踏み込んだ。


 勢い任せに、全力で。


「ブ――壊れろやぁあああっ!!」


 上段からの袈裟斬り。

 型なんてあったものではない、力任せで考えなしの一撃。


 何よりもバルドの強さを示した、極まった一撃。


 そんな攻撃を。


「ふ――」


「な、あぁっ!?」


 容易く受け止めたフォウル。


 受け止めただけじゃない、バルドが予想した反発力とまったくの逆。


「こ、れ、はぁああっ!?」


「魔力の形があるわけないだろうに」


 クッションのように柔らかく木刀を受け止め、沈み込む。


「うおおおっ!?」


「さっすが、良い勘してる。だけど」


 これは不味い、やばい。


 直様手を離してもう一度間合いの外へと脱出を試みるバルドだったが。


「逃さないって」


「ぬぐっ!?」


 再び形状を変えた剣が、バルドへと迫る。


「スネーク、ソード……ガッ!?」


「……勝負あり、ってね」


 連接刃、のような何かに簀巻きとされたバルドの身体から。


 力が抜けた。




「ん、ォ……?」


「目ぇ覚めたか、おっさん」


「お、まえ……? イツツ……」


 バルドが気を失っていたのは数分程度。


 身体を起こしてみれば奔る痛みと、視界の先にはクリエラがいて。


「アイツなら焚き火に使えそうなもん探しに行ってるぜ。おっさんは大丈夫か?」


「あー……問題ネェ。問題ねぇのが問題だがナァ……つか、どういう状況だよこれは。お前でお楽しみしていいのか?」


「負け犬の身でか?」


「ぐヌ……」


 ただの強がりだと見抜いていたし、見抜かれていると。


「あ゛ー、かっちょワリィ」


「あぁ、クソダサかったぜおっさんは」


 もう一度仰向けに空を見上げるバルドは、久しぶりに敗北の味を噛みしめる。


 自分の力に思い上がっていたわけではない。

 むしろ、闘技場でフォウの戦う様を見てまだまだ強くならなくてはと志していた分、謙虚ですらあった。


「なぁんで、こんな強ぇやつがいンだよ」


「おっさんがまだまだ弱いからそう思うんだろ」


「……性悪なメスだ。やっぱり食っちまうゾ?」


「プライド捨てれんなら相手してやるよ」


 今のままじゃフォウには勝てない。

 ならばいつもの通り、そこらへんのやつに喧嘩を売って、自分を磨く。


 なんともまぁはた迷惑な修行方法ではあったが、過去より今までそうして強くなってきたバルドは、これ以外の方法を知らなかった。


「オイ」


「んだよ」


「アイツの、名は?」


「フォウル」


 自分を負かした相手の名前を心に刻む。


「最後に見せたスネークソードの技術……フォウルはあの、フォウとか言うメスの師匠とか言ったりすっか?」


「さぁな、そこら辺は本人に聞けよ。オレ様にゃ答えられねぇよ」


 内心でドキリとするクリエラだったが、表には出さず。


 相変わらずの観察眼とでも言うべきか、バルドの目から見れば同一の技術だとバレているようで。


「そうかヨ」


「あぁ、そうだ」


 それで二人の会話は終わった。


 図らずともバルドとの邂逅を果たしてしまったのだ。

 ここから先はフォウルにしかコトを進められないがために、話せることは少ない。


 もちろん、フォウルが知っていることをクリエラも知っている。


 バルドがなぜ強さを求めているのかだって、こうして荒れた生活に身を置いているかだって。


 全ては彼の愛娘のためだということを、十分に知っている。


「なぁ」


「あァ?」


「……いや、なんでもない」


「ンだよ。オレァてっきり、改めて夜のお誘いでもしてくれんじゃネェかと」


 あぁ、やっぱりこいつは褒められた人間じゃないと、クリエラは内心でため息をつく。


「お待たせ――って、目ぇ覚めたのか、おっさん」


「ちっ、さっきからおっさんおっさんと……オレにはバルドって名があンだよ。バルド・ベルシモン、バルド様って呼べ」


「フォウルだ。フォウル・ステラリス、よろしくなおっさん」


「けっ!」

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