「では、こちらからお選び下さい」
「ありがとうございます」
出番まであと少し。
そんなタイミングで職員にフォウは控室兼、武器庫へと連れてこられた。
最低限の見栄えしか意識されていない、部屋の中に並べられた多種多様な刃引きされた武器たちを見聞しながら、どれを使ったものかとフォウルは考える。
デビュー戦だ、わざわざ無愛想なのかクールなのかわからないキャラ付けまでしてお膳立てをしたのだから、出来るだけインパクトのある戦い方をしたいと。
「ツーハンデッドソード……流石にこの身体じゃ手に余るな」
一際目を惹かれた両手剣があったのはいいが、これはフォウルとして参加する時に使おうと心に決めて。
勝つだけなら、ここに置いてあるどの武器を使っても勝てる。
対戦相手は新規精鋭らしいあのバズとかいうFランク闘士で間違いなかった。
あの場で僅かであっても剣筋を見たフォウルの感想としては寝てても勝てるというもので。
「ん? これは……」
使用する者が少ないのか、少ないどころかいないのか。
部屋の隅にホコリを被ったままの一振り、
実用性はほぼ皆無といっていい武器だが、それだけにこれを使って勝ったのならインパクトは十分だろうとフォウは手に取った。
「……刃引きされてるけど、結構な業物じゃないか。銘まで掘ってある……何々? ミスティアス? ほむ」
連結されていない、鞭状態のミスティアスを軽く一振り、二振り。
「よっと」
そして、蛇腹剣の扱い手が少ない最大の理由、刃を連結させて剣にするという
「うん、良い剣だ」
気に入ったと一つ頷いた。
フォウルは、賢者である。
そして賢者とは魔法を極めしものであるというイメージが一般的だ。
もちろん、あらゆる現象を魔法で再現できるというフォウルもそういった意味で賢者の名に恥じない。
しかしながらフォウルはそういった世間的によく通じている賢者というイメージに加えて。
「新規精鋭っていうくらいだ、何かしら面白い技術を持っていればいいんだけどな」
学びを極めし者でもあった。
当然だ、フォウルは多くの現象を魔法に落とし込むために多くのことを学ぶ必要があった。
そして、その学ぶというこそが。
「フォウさん、出番です」
「はい」
かつて勇者パーティのお荷物と呼ばれていた男が、大賢者と呼ばれるまでに至った最大の理由。
『さぁ本日の低ランク闘士メインカード! 冷たい目を向けられながら弄ばれたい女ナンバーワン! フォウ VS 新規精鋭! ここは俺には温すぎる! バズの試合が始まります!!』
初出場にも関わらずこの扱いとはと、見た目やキャラ付けの大切さを改めて実感しながらフォウは闘技場の真ん中へと歩みを進める。
待ち受けるのは先程コケにしたせいか、やや顔を紅潮させながら怒りを見せるバズ。
軽装な装備にショートソードの二刀流。
なるほど、将来有望というのもあながち誇張表現じゃないんだなとフォウルは心の中で一つ頷いた。
「よぉ……無様な姿を晒す覚悟はしてきたか?」
「……」
必死に荒れる心を落ち着かせようとしているのが見て取れる。
今から戦うにあたってはあまりよくない精神状態と言えるだろう、寝ていても勝てるとは思っていたフォウルだったが、ここで期待することをやめた。
「おい、何か言ったらどうだ? それとも今更ビビってんのか?」
完全に小物のセリフにしか聞こえなくなった。
見下すような挑発を仕掛けたのはフォウルが先だったとは言え、効果覿面すぎるだろうと。
「おいっ!」
「はぁ……もう良いから、少し黙って下さい」
「あぁっ!?」
「別に、侮っているわけじゃありませんでしたよ。今は、見下していますけどね」
「て、め……!」
精神的な成熟を果たせばバズはそこそこ強くなるだろうとフォウルは思う。
一年も闘技場で戦い続ければBランク、あるいはAランクに届くかも知れない。
だが今は。
「腰掛けにすら、ならない」
「――」
フォウの言葉を聞いて、バズの目が据わった。
プライドが折られたわけじゃない、傷つけられた。
そして今、粗末なものおっ立ててるんじゃあないぞと嘲笑われた。
『それでは両者! 指定の位置へ!!』
燃え盛る炎を濃縮されたような、殺意に近い感情がバズの目に籠もった。
それを見て、やっぱりフォウは小さく呆れた後。
『両者尋常に勝負――始めっ!!』
「っ!!」
開始の宣誓が舞台に響き。
同時に、バズがフォウに向かって飛び出した。
「死ね、や――っ!」
二刀流。
右手が利き腕なのか、バズの腕が振り上げられる。
フォウルは落ち着いて振り上げられた腕ではなく、左腕を見た。
「――
「っ!?」
今手に持つ得物はスネークソード。
仕掛けが施された剣の耐久力は低い、バズが思っている以上に容易く目的を果たされてしまう。
「それは、遠慮したいところですね」
「な、ぁ」
言葉通り、それは困ると小さく笑って。
「――まだ、続けますか?」
「う、あ……」
連結を解除し、目にも留まらぬ速さでバズを締め上げた。
「明け透けすぎますね。ソードブレイクの狙い自体は良かったと言えるでしょう。ただ、武器が使えなくなった私を甚振りたい、そんな狙いまでが丸わかり……学びにすらならないです。やっぱり、学びを得るためにはさっさと上に上がるべきですね」
「ぐ……ギッ!?」
そう小さく呟いて、フォウはバズの側頭部へと蹴りを放ち意識を刈り取った。
『は……?』
先程までそこそこ熱狂の只中にあったというのに、あまりにも呆気ない決着へと実況までもが言葉を無くして沈黙が場を支配する。
「はぁ……」
ちょっとインパクト強すぎたかと、フォウルは反省しながら。
片腕を上げた。
『っ! し、失礼しました! 勝者! フォウ!』