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第54話「闘技場」

 ガルゼスへとたどり着いたフォウは脇目も振らず闘技場の受付へとやって来た。


「フォウ・アリステラさん……ですね? 闘技場のルールはご存知ですか?」


「Cランクまでは開催者側が用意した刃引きされた武器を使い殺しはなし、魔法も中級までのものに限る、でしたか?」


 周りを見ればいかにもといった闘士たちがいて、容姿端麗なフォウは一際注目を集める。


 受付の順番を待っている間に、何度フォウの胸を掠め見られたことか。

 中には隠すことなく露骨に舌舐めずりしている者すらいた。


「はい、その通りです。また、Dランクまでは一日に二試合まで希望すればマッチメイク可能で、同じく一つ上のランクの相手までならマッチメイク可能ですフォウさんはGランクからとなりますので、一つ上のFランク闘士へと対戦を希望できますが如何なさいますか?」


「なるべく早くCランクまでは上がりたいので、そこまでは格上を希望します」


 そんなフォウが放った強気な言葉。


 戦う相手ではなく、性的な目を向けていた女が調子に乗った発言をしたのだ。

 思わずと言ったように舌打ちがそこら中から鳴り響く。


「え、えぇと。フォウさんは何か武芸を修めていたり?」


「いえ、特には」


「で、でしたら魔物退治と言った活動を?」


「生活に必要な分程度なら」


 だと言うのになんでこんな自信満々なんだと受付職員は口端をひくつかせた。


 とは言え闘士として一旗揚げようと考える人間に根拠なき謎の自信を持っている者は一定多数いる。


 受付の目から見て、フォウという女はその類には感じられない。

 ただ、長く受付という仕事をしていればなんとなくであっても大成するものしないものの判断はできるもので。


「わかりました……それでは、今日から?」


「試合、できそうですか?」


「時間的に一試合だけにはなりそうですが」


「構いません、よろしくおねがいします」


 あやふやな勘が言っていた。


 こいつは、スターになると。


「おいっ! だったら俺が相手してやんよ!!」


「あぁ、ありがとうございます。では、是非」


 受付とのやり取りに耳を寄せていた一人の男が声高に叫んだ。


 ちらりと声の元へとフォウが目を向ければなるほど、多少はやるようだと判断できる相手。


「あぁっ!? てめぇ、俺が誰だかわかっていってんのか!?」


「なんですかもう、うるさいですね。知りませんよ、初対面なのに」


「え、えぇと……彼はバズ・ストロフ、Fランク闘士ではありますが今最も注目されている闘士です」


「へぇ」


 受付の補足へとフォウは興味なさげに返事をする。


 事実フォウは興味を持てなかった。

 多少はやる相手だとは思うし、何ならじっくり闘技場で研鑽を積めばそこそこの位置にまでは駆け上がるだろうとまで感じる相手だ。


「て、てめ……!」


「わかりました、わかりましたって。じゃあ、こう言っておきましょう……踏み台、ご苦労さまです」


「っ!!」


 だが、そもそもフォウがここにやってきたのは金のためで、名声を得たいなんてこれっぽっちも思っていない。


 Cランクにまで昇って、一ヶ月も戦えばそれで結婚式のための金銭は十分以上に集まるしそこまで稼げれたのなら闘技場に来る意味もなくなる。


「お、まえぇええっ!!」


「……はぁ」


 記憶に留める価値がないのだ。


 それよりもこの街の何処かにいるだろう、バルドの足取りをどうやって掴むかを考えるほうが大切で。


「よっと」


「っ!?」


「な、ぁ……」


 逆上して剣を抜き襲いかかっていたバズの剣が真っ二つに割れた。


「こちら、その剣の代金です」


「は、は……?」


 生憎残念ながら。


「受け取ってくださいよ。それ、私が折ったんですから」


「……」


 この場にフォウが何をしたのかを理解できた者はいなくて。


「はぁ……ここ、置いておきますね。それでは、また後ほど」


 心底面倒くさそうに硬貨を何枚か床に置いたフォウは。


「やっべ……スター、どころじゃねぇかもしんない」


 そんな受付の呟きを背に、出ていった。




「おいおい、良いのか? あんなに無愛想で」


「興味ないってのが大きいけど。まぁ、売名には丁度いいだろう」


 名声を求めているわけではない。

 しかし、できることなら目立ってマッチメイク相手の質をあげたい。


 それが今のフォウルが考えていることだった。


 注目されれば良いカードが組まれる。

 良いカードが組まれればどうなるか、当然試合に勝った時の賞金が増える。


 そして。


「修行にもなる、か」


「そういうこと。まぁ最初のほうは圧倒して終いだろうけどな」


 フォウルとしては今のままでもBランクまでなら安定して勝てると思っているし、その考えは間違っていない。


 Cランク闘士相手程度なら圧倒的な勝利を納められるし、Bランクも殺しを解禁すれば同じく。


 金稼ぎと並行しての目標は、殺しが解禁されるBランクで相手を殺さず圧倒できる程度に力をつけるというものだった。


「とりあえずクリエラ」


「あん? あーあーわかってんよ、賭けに参加しろってんだろ? ちゃんと全部お前に突っ張るから安心しろや」


「ん、よろしく」


 八百長をしているわけじゃないが、八百長しているような気分だとフォウは苦笑いを浮かべる。


 しかしながら、効率が断然良いことは確かで。


「んじゃ、試合を待つとしますかね」


 目を瞑って一息入れているフォウを見て、クリエラはバズとやらにご愁傷様と呟いた。

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