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第51話「ネクストタウン」

「で? これからどうすんだ?」


 グリモアで旅の道具や食料を買い込むフォウルの隣で、クリエラは露店の果実を一つ摘みながら聞く。


「あ、こらそれ売りもんだっての! す、すいませんこいつちょっと頭がアレで……はい、こちらで。――ったく。あぁ、ガルゼスへ行こうと思っている」


「だったらオレ様にも金持たせろっての。頭がアレってなんだよクソが……しっかし、ガルゼス、なぁ」


 娯楽都市ガルゼス。

 大規模な賭博場カジノと闘技場が目玉の都市。


 娯楽都市とは呼ばれているが、蓋を開けてみれば享楽に身を沈めるための闇があちこちに潜んでいるこの国の中でも一番治安の悪い悪都とも言えるだろう。


 表通りこそキレイなものではあるが、一本裏道へと反れてしまえば酔っ払いが垂れ流した汚物が広がっていることも珍しくないし、裏へ裏へと進めば進むほど地面に転がっているものが悲惨なものへと変わっていく。


 中毒性の高いクスリといったものも裏では流れているし、奴隷売買といった話も聞く。


 いわば犯罪の温床となっている都市である。

 更に言うならガルゼスを管理している貴族自体もそうだ。

 裏に生きる者たちからの献上品を受け取っては私腹を肥やし、そういった犯罪に対する取り締まりを意図的に緩めてすらいた。


「なんだかんだで魔物退治依頼と同等かそれ以上に稼げるってなるとガルゼスしかない」


 とは言え、流石にそれは意図的に裏社会と関わろうとしなければ関係のない話だった。

 お行儀がいいとでも言うべきか、そういった存在が観光客へと牙をむくことはない。

 管理している貴族含めて、裏でやるべきことは裏でとちゃんと理性を持っていた。


「賭け事で儲けるなんざ破滅が待ってるぜ?」


 ニヤニヤと笑いながら言うクリエラだが、ソッチで稼ぐわけじゃないだろうことはわかっている。


「バカ言うな、アリサのギャンブル嫌いくらい知ってるだろ」


「でもお前は嫌いじゃねぇよな?」


「勝てる勝負が好きなだけだよ」


「ハッ、ちげぇねぇな」


 もちろんというのはやや汚いが、周りにバレることなく魔法というインチキで勝ち金を積むことは可能だ。


 だが、アリサはそういう金をあまり好まないとフォウルは思っている。

 やはり健全に汗水流して稼いだ金こそがということだろうと。


 しかしながら、実のところアリサはギャンブルを毛嫌いしているわけじゃなかった。

 むしろ遊びで終わる程度の額なら自分もちょっとやってみたいと思っているほどだ。


 フォウルがアリサはギャンブルを嫌っていると感じている理由は、単純に賭博場にいる際どい姿をしたサービスガールたちの姿を見せないよう、何かとアリサがフォウルを賭博場から遠ざけようとしていたからだった。


「闘技場で稼ぐはいいがよ、てめぇ自信の程は?」


「フォウルでAランクまでなら余裕だろうさ。フォウでも、まぁB位ならいけるだろう」


 じゃあ残るは闘技場で闘士として稼ぐという道。

 フォウルとしては金を稼ぐと同時に一度戦うだけでそれなりの金銭を得られるCランク闘士程度にはなっておきたいと考えている。


「魔法抜きで大した自信じゃねぇか」


「俺がどれだけおっさんに扱かれたと思ってんだよ……」


「ちげぇねぇな」


 カラカラと笑うクリエラに対してフォウルの目は暗い。


 思い出すはおっさんと称した勇者アリサパーティの頼れる前衛、闘神バルド。


「この時期に何をしてんのかわからないが、できればバルドにも会っておきたいしな」


「なるほどね。今なら……まぁ、初めて会った頃程腐ってはねぇだろうが」


「あるいは、アレ以上に腐ってるかも知れないけどな」


 闘神とは闘技場の覇者に与えられる称号である。

 言うまでもなく、バルドという男は闘技場で強さの頂きにまで上り詰めた男だが……決して褒められた人物ではなかった。


「ま、そん時ぁテメェがわからせてやったらいいだろ」


「あぁ、そのつもりだよ」


 褒められた人物ではないことは確かだが、それでもフォウルにとってはかつての大切な仲間で今度こそ幸せな人生を歩んで欲しい人の一人には違いない。


「じゃ、そのためにも道中剣の訓練しねぇとなぁ?」


「何だよその嫌らしい笑いは」


「あぁん? フォウとしてバルドに会うんだろ? シズともそうだったじゃねぇか」


 何のためにフォウという存在を用意したのか。

 もちろんシズの場合において都合が良かったの確かだが、そもそも偽装身分を求めたがため。


 闘技場に関してはフォウルであろうがフォウであろうが、どちらでもいいとは思っていたが、バルドに会うとなるのならフォウのほうが都合がいい。


「まぁ、そうだな」


「だろう? んで、バルドとフォウとして会うってんなら闘技場で名を通すのもフォウのほうが都合いいじゃねぇか」


「一理ある。けど、それがどうした?」


 ニヤニヤ笑いは引っ込まない。

 何がそんなに面白いのかとフォウルが首を傾げていると。


「あのデカパイで、剣振るんだ。ちゃあんと、下着は選ばねぇとなぁ?」


「……あ」


 すっかり忘れていたと、フォウルは口を開けながら。


「いやぁ! 楽しみだなぁ!! おい! オレ様が責任を持ってしっかり選んでやるからな? 大船に乗ったつもりでいやがれ!」


「こぉんの、エロ精霊が……」

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