「で? てめぇはどこまで理解してやがる」
「正直何も。ただ、こうして二回目を迎えられたのがお前のおかげだってのはなんとなくわかった」
姿以外は相変わらずのクリエラによって強制的に落ち着かされたというべきか。
フォウルは頭の中に浮かんでいる疑問をとりあえず横においておくことができた。
「は、やっぱ憎たらしい位に相変わらずだな、テメェは」
「お前こそな。まぁ、ひとまず確認させろ。お前はかつてを知ってるんだな?」
「そうだつってんだろうがよ。むしろオレ様の力だとわかったからこっちに来たんじゃねぇのか?」
「残念ながら違う、が……なるほどな、この世界はダブル、か」
フォウルは合点が言ったと言ったように大きく頷いた。
クリエラが宿主に対して与える精霊魔法は事象の二重化というものである。
勇者アリサはこの力を主に剣撃の二重化であったり、自分の分身を作ったりという使い方をしていたが。
「精霊界の奴らもあの結果は不満だとよ。未来視の力を持つものが見てもあの結果からプラマイゼロの世界には辿り着かなかった。ったく、これだから人間ってやつはクソだよな」
「俺からすりゃお前らも大概だよ」
「ケッ」
見た目が儚げな銀髪美人ということもあって、悪態をつく姿がなんとも妙なギャップではある。
しかしながらフォウルの知るクソ生意気な子供といった容姿で同じことをされるよりは随分ましだと小さく笑った。
「それで? こうして俺の目の前に出てきたってことは」
「あぁ。てめぇを宿主と認めてやるためだよ」
心底面白く無いようにクリエラは言った。
そうとも、フォウルはまだ精霊視を使っていなかった。
にも関わらずこうして見えるということはすなわち精霊に認められたということ。
「フォウはお前のために作ったようなもんだったんだけどな」
「あぁ? あー、マスカレイドな? まぁ、確かにオレ好みでアリサを知る前なら飛び込んでだろうな、主に胸へ」
「なんだ? フォウのこと知ってるのか?」
「知ってるも何もねぇよ。ルクトリア、だっけか。あの街でてめぇが何をしていたのかも知ってる、シズのことだって……てめぇが今生で何を為そうとしているのかもな」
クリエラの表情が変わった。
同時に、フォウルは一つ息を呑んだ。
「随分と、精霊らしい顔をするじゃないか。その見た目だと思わず敬ってしまいそうになるよ」
「らしいもなにもオレ様は精霊だし、前の時であっても敬っておくのが普通だっての」
精霊とはプラスマイナスゼロの世界を望むものだ。
その上で、フォウルは二周目の人生を許されたなんて特別待遇。
何を代償としているのかを想像すれば、この後に続く言葉を覚悟する必要があったからだ。
「先も言ったがこの世界はオレ様が作ったダブルだ。巻き戻してはいるが、基本的にあっちの世界の未来を辿るように設定されている」
「こうして俺が動いてなればか?」
「そうだ。仮にテメェがハフストで呑気にアリサといちゃついていれば、シズは聖女になっていたしかつてのパーティメンバーも同じだろう。いや、テメェとアリサがいない分、余計に悲惨な未来へ身を投じていたかも知んねぇな」
「……さらっと言うな。心底動いてよかったって思ったよ」
本来辿るべき世界の道筋にフォウルが割り込んだ形だった。
もう少しフォウルが動くのが遅ければ、シズはカッシュと開口を果たし、ルクトリア教会の崩壊を持って聖女になるべく動いていただろう。
「いいか? テメェは前世を知っている。それには理由がある」
「理由?」
「テメェはプラスマイナスゼロの特異点として選ばれたんだ。散々な前世だったからな、精霊界から、テメェが齎した結果にケチはつけねぇって約束も貰ってる」
「行き先が決まっている世界の改変を認めたって認識でいいのか?」
クリエラは頷いた。
事実、シズが本来と別の道を歩みだしたことに世界からなんらかの強制力は今のところ働いていない。
「が、それはプラマイゼロを放棄したってわけじゃねぇ。オレたちの代わりにきっちりゼロになるように動けって意味だ」
「……ゼロって言われてもな」
「はんっ。じゃあお手本を教えてやる。先の件で言えばルクトリアのシスターと司祭だがな。まず逃げた司祭は道中魔物に食われるし、シスターたちはこれから街の人間から石をぶつけられることになってるぞ」
「っ……それは、俺がシズとあの孤児院の子どもたちをあぁしたからか?」
誰かが幸せになった分、誰かが不幸になる。
「説明できていなかったからな。今回はサービスだ。だが、次からはねぇ……助けたい人間を助けたなら、覚悟決めて誰かを地獄にぶち送れ」
まるで神様か選定者にでもなった気分だとフォウルは笑ってクリエラの言葉を受け取った。
「地獄に叩き落したいやつは、腐る程いるだろう?」
「復讐に駆られてはないさ、自業自得な部分もあるしな。けどまぁ……要するにあの未来を作り上げたやつを排除する理由ができたのは、嬉しいことだな」
そんなフォウルの不敵な笑いをみてクリエラは静かに頷いた。
「いいか? 今度こそアリサと幸せになれ。もうテメェはあん時みたいな鈍感クソ野郎じゃねぇ。アリサの幸せを託すに相応しい野郎だとオレ様は思っている。だから」
「わかってる。お前の分も、しっかりきっちり幸せにして、幸せになってやる」
「は……それがわかってるなら尚良しだ。じゃ、契約してやるよ、つっても、この世界を創っただけに、ほとんど力はねぇが……まぁ、うまく使ってくれや」
「あぁ。ありがたく、な」
――よろしくな、クソ野郎。
そう言って、クリエラはフォウルの胸の中に吸い込まれていった。