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第42話「お迎えに行く前に」

「ご感想の程は?」


「……正直、夢でも見ている気分ですよ。ハフストの方々に受け入れられたことも、シズさんの願いについても」


「何だったら頬でもつねりましょうか?」


「ご勘弁の程を」


 話は決まった。

 ならば残るはルクトリアの孤児院から子供たちを連れてくるのみ。


 フォウルとカッシュはハフストから子供たちを連れてくると出発し、デミオークを討伐した森で一息ついていた。


「しかし、稼いだお金のほとんどを教会と孤児院建設に頂いてもよろしかったのですか? 聞けばあのアリサさん、でしたか? 新居建築と新婚旅行にあてるお金だったのでしょう?」


「アリサは恨めしそうな顔をしていましたか?」


「……いいえ」


「なら、いいんですよ。これでいい、じゃあない。これがいいんです」


 孤児院から子供たちをというのなら、院長であるシズを連れてくることが必要ではあるが、身体の調子はまだ戻らない。ようやく自分で食事を採れるようになったとはいえ、ほとんど流動食に近いものをまだ食べている。


 村長の計らいで早くもハフストに大工たちが到着し、建築が始まっているがそれでも当たり前に時間はかかるだろう。


 シズの回復、出稼ぎの再開、何よりアリサの納得。

 多くの面から考えても、フォウルはこれがベストだと感じていた。


「それで、カッシュさんが各地から集めたハーフは今何処に?」


「ルクトリアから少し離れた場所にキャンプを作っています。人目にも魔物の目にも触れにくい場所ですし、何かあれば連絡用の魔石に報せが来るようになっていますから、ご安心を」


「わかりました。ならば、確認です」


 確認と言い、フォウルはマスカレイドの仮面を被り、フォウとなった。


「……いつ見ても、中々にありえない魔法ですね」


「ふぅ。わたしからすれば、あなた方の特殊能力のほうがありえませんけどね」


「どうせといえばなんですが、再現も可能なのでしょう?」


「さて、ね」


 不敵に笑うフォウを見て、カッシュはどうやっても目の前の存在に勝てないことを実感する。


 恐らく、今回の件にしても。

 いざとなればどうとでもなるんだぞということを、暗に伝えて牽制としているのだろうと。


 そしてその考えは当たっていた。

 フォウルは特別心優しいわけでもなければ、お人好しではない。


 カッシュを信頼すると決めたことはそうだが、念押しは必要だと考えている。

 だからこそ、ハフストやそこに暮らす人々、アリサのことをどれだけ大切にしているのかを教えつけるかのように振る舞っていたのだ。


 ――この人たちを害そうとしたとき、どうなるかわかっているなと。


 ある意味、カッシュが苦労して保護したハーフたちは人質の意味もあったのだ。


「本当に、あなたは恐ろしい」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


「ええ、魔族としては実に仲良くなりたい相手だと言えるでしょう」


 ただ、カッシュが言ったようにそんなフォウルの冷たいとでも言うべき部分を好意的に思っている。


 そもそもフォウルという存在がイレギュラーなだけで、魔族と人間は相容れないことが普通であり常識。


 そんな壁を超えて納得できる理由を用意してもらえたことで、カッシュはフォウルを信用に足ると感じたのだ。


「まぁ、それはいいでしょう。ここで一休みした後、まずはあなたをテレポートでそのキャンプへと送ります。その後わたしはルクトリアに向かい、教会の方々とお話してきます」


「これほどお話しという単語が不穏に聞こえることもないでしょうね」


「茶化さないでください。わたしとしても、シズさんの状態をこういう形で利用したくはないんですよ」


 フォウルの設定としては。


 シスターたちの圧力によりシズはアンデッド処理に向かわされた。

 慌てて追いかけたが、合流できた時には既に満身創痍な状態で、辛うじて助け出し近隣の村で療養している状態である。


 これが神の道を歩む者たちが行うことなのかと糾弾し、孤児院の子供たちを連れて行くことへ話を結びつけ、ついでに自分もシスターを辞める流れに持っていくつもりだ。


「十中八九、あの教会のシスターたちは乗ってくる。元よりシズを排他するために仕掛けたこと、わたしに糾弾されることで気分を害しはするでしょうが、ここを我慢すれば後は安穏が待っていると」


「……嫌な、話ですね」


「とか言いながら、あなたも利用できるなと思ったでしょう? 顔に書いていますよ」


「はは、お見通しは止めて頂きたい」


 止めてくればかりだなとフォウは肩を竦めた後、再び口を開く。


「恐らく一週間もかからないでしょうが、それまでにカッシュさんには子供たちを乗せる馬車なんかを用意してもらいたいです。合流地点はそのキャンプをと考えていますが」


「ええ、準備しておきます。キャンプへといらっしゃる際には男へ?」


「難しいでしょう。子供たちはフォウルではなくフォウを慕い信頼している。合流時にはフォウとしてお会いします。そのままハフストへ向かい、わたしはシズさんへお別れの挨拶をしようかと」


「お別れ、ですか」


 できれば少しの間とカッシュの顔に書いていたが、緩やかにフォウルは首を横に振って。


「アリサもシズも、なんて欲張れませんから」


「そう……ですか」


 寂しそうに笑った。

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