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第41話「夢、願い」

 シズとカッシュが会う。

 これが前世における聖女シズ誕生の一歩目だったのだろうとフォウルは思う。


 シズがフォウルと先に出会ったことでルクトリアから出たように、カッシュと出会いルクトリアから出たのだと。


 少なくとも自発的にルクトリアから出るようなことは無かったはずなのだ。

 孤児院を投げ出すようなことはしないだろうし、必ず何かしらのきっかけがあった。


 カッシュとシズが穏便に出会ったか、自分のように教会のクサれシスター達を利用したのかまではわからないが。


 恐らくシスター達を利用したんだろうなとフォウルは思っている。


「嵌められた、と言うべきか。いえ、改めてあなたの本気加減というものを思い知ってしまいましたね」


「人聞きの悪いことを」


 苦笑いで済ませるフォウルではあったが、自覚はしている。

 カッシュのことを信頼していると言ったのは主にやり口が自分と共通している部分があると感じたからだ。


 誰も不幸にならないことを絶対条件とした上で、手段を選ばない。


 逆に言うのであれば、幸せの形が定まっているのならば乗るだろうということ。


「まぁ、救われたというか助かったことは事実です。それに、先の村長さんにしても他の村人さんたちにしても。私を魔族だと知った上で信頼の眼差しを送ってくるのですからね……これは裏切れません」


「だろうなと思っていたからハメた。なんて言えば俺のことが嫌いになりますか?」


「まさか、実に魔族のやり方を熟知されていると感心しますよ。あるいは尊敬すると言ってもいいでしょう。本当にあなたならば魔王様と上手くやれるのじゃないか、そんな風にも思います」


 目には目を、歯には歯を。

 信頼には信頼を、好意には好意を。


 それは多くの魔族、根底にある流儀とも言えるものだ。


「良い評価を貰えたと思っておきますよ。念押ししておきますが、フォウとフォウルに関しては」


「わかっています、私としても後に響くようなことをしたくない。最終的な判断は魔王様にして頂きますが、それまでは」


 落とし所として。

 魔王復活まで二人は揺るがない協力関係を結べたと言っていいだろう。

 具体的には魔王とフォウルが接触し、話し合いが持たれた後と言うべきだろうが。


 フォウルとしては話し合いを上手くやれると考えているが、それでも物別れとなる可能性はある。

 話し合いの末やはり人間とは戦争する他にないと魔王が判断したのなら、カッシュとの関係もなくなり、当初の予定通り集めたハーフへと道を選ばせる。


「ありがとうございます」


「こちらこそ」


 利害の一致だ。


 お互いに、利害の一致からこの関係は始まっていると正しく認識している。

 同時にそれでいいと思っているのだ、今は。


「――お待たせしました。シズさん、準備できましたよ」


「ありがとうございます、アリサさん」


 フォウルの部屋から出てきたアリサがカッシュへと小さく頭を下げた後、入室を促した。




「その、驚き、ました」


「私としても同じ気持ちですよ。まさかこういった形であなたと話し合いの場を設けられるとは思っていませんでしたから」


 当たり前だが、魔力切れによる昏倒であろうとなんであろうと、一週間寝たきり状態になってしまえば身体に大きく負担がかかる。


 フォウルが作った羽毛のクッションで身体を支え、ベッドで上半身を起こしている状態のシズはまだまだ本調子ではなく、顔色も悪い。


「改めて、カッシュと申します。お察しの通り魔族です」


「……シズ・エラントーシャと申します。今までは、その。あたしにしても子供たちにしても、申し訳ありませんでした」


 だが目には力が籠もっていた。


 魔族は魔族の魔力を感知することができる。

 カッシュが世界各地でハーフを見つけられた理由の一つでもあるが、ハーフであろうと魔族の血を引いている者も魔族の魔力を精度こそ下がるが感じることができた。


 だからこそ、シズは今までカッシュから逃げていた。

 何を言われるかわからない。わからないし、もしかしたら人間と生活するなんてと無理やり引き裂かれてしまうのではないかと思っていたから。


 そして今、どうやっても逃げられない状況だから腹をくくったというわけではなく、向き合う時が来た、今の自分なら向き合えるはずだと覚悟を決めた表情を浮かべていた。


「あまり、長々とお話しても身体に障りますので単刀直入に。シズさん、あなたは魔族と人間、どちらになりたいですか?」


「……アリサさんから、少しお話は伺っています。あなたが世界を巡って魔族と人間の合いの子を探していることは。そして今の質問……あなたは、どちらかのあたしを消せると考えて、よろしいのでしょうか?」


 シズの疑問にカッシュは小さく頷いた。


「そう、ですか」


「もちろん、強制はしません。ですが、それとは別にシズさんへお願いしたいことがあります」


「お願い?」


「私はこの村で孤児院を建てます。そこでシスターとして働いて頂けませんか?」


 カッシュの勧誘にシズは目を見開いた。


「お察しの通り、その孤児院には各地で手を取ったハーフたちが来ます。もちろん、ルクトリアでシズさんを慕っている子供たちもと考えております。ですがそうした場合しょうと――」


「ぜひお願いますっ!! あい゛っ!? いたたた――」


「お、落ち着いて下さい、身体に障ります」


 カッシュの言葉が最後まで紡がれない内に、シズは自分の状態も忘れて前のめりに返事をした。


「あ、あたしっ! そのっ! ずっと、ずっと!」


「……はい」


「魔族と! 人間が! 一緒に仲良く過ごせないかって!!」


 シズの目から涙がこぼれ落ちた。

 その涙で、カッシュはシズを落ち着かせようとすることを諦めた。


「あたし、ゆめっ! ずっと願って! だ、だから! おねがい、おねがいしますっ!」


「ええ。是非、お願いします」


 痛む身体で何度も頭を下げるシズを見てカッシュは。


 ――あぁ、本当に。魔族と人間は、手を取り合えるのかも知れない。


 心のなかで、呟いた。

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