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第37話「ワルモノ探し」

 一先ず、ではあるが。


「孤児院の子供たちは、大丈夫そうか」


 孤児院の子供たちの様子を見に来たフォウルは胸を撫で下ろした。

 最悪虐待でもされているのではないかという不安は杞憂だったと。


 外で遊んでいる子供たちを見守っているシスターは穏やかな表情を浮かべていた。

 腐っても聖職者とでも言うのか、子供たちに八つ当たりのようなことはしていないようだ。


「ただ、これって結局シズの居場所はルクトリアにないってことなんだよな」


 元々居場所を作ろうとしていないフォウはともかくにしても。


 心を乱す存在がこの場にいないからこそ、こうして子供たちの面倒を見られているんだろう。

 子供たちも少しギクシャクしている様子があるが、シスターたちへ怯えているわけでもない。


「まぁ、一時的なものではあるんだろうけど」


 フォウルの言葉は正鵠を射ていた。

 目の上のたんこぶ扱いしていたシズとフォウがこの場にいない。

 あるいは、もう帰ってこないとまで思っているかもしれないだろう、つまりはようやく自分に陽の目が当たると考えられている。


 だが、誰かを排して手に入れた安寧であれば、代わる何かが現れればすぐに元通りとなるのは道理というもので。


 元々からいるシスターか、新しくやってくるシスターか。

 それはわからないが、今の安寧へ一石を投じるかも知れない存在が現れればまた同じことが繰り返されるだろう。


「そこまで、面倒見る気は全く無いがな」


 フォウルは一つ頷いた。


 シズだったからこそどうにかしたいと思ったわけで、見ず知らずの人間がどうなろうと関係ない。

 ある意味、一周目の結末が元からの気質である身内を大切にするという部分を変質させたと言えるだろう。


 かつてのフォウルであれば、面倒くさいと思いながらも多少の介入はあった。

 それもアリサが放って置かないだろうから先に手を打つと言った程度のものではあっただろうが。


「となると残るはワルモノか」


 はっきり言って検討もつかないとフォウルは頭を悩ませる。


 子供たちへと直接聞くことができればそれで終わる話かも知れないが、生憎と今はフォウルであり、シズが回復するまではフォウになるつもりはない。


 いっそシズが犠牲となったなんて熱り立って突撃するのもありかとは考えたが、その結果はどうあがいてもフォウとルクトリア教会が対立するだけで終わってしまう。


 正直な所、こんな教会無くなったほうがいいんじゃないかと思っているフォウルだけに、一度対立してしまえば容赦なくヤってしまうだろうという予感があり、つもりがないというよりは、なってはならないと戒めているというべきだろうか。


「まぁ、ハフストに来るってことを考えるなら今から子供たちと関係を築いておくべきだが……嫌われてるんだよなぁ……」


 子供たちのワルモノ定義の一つに、性別が男であることは疑えない。

 こうして陰から監視している間でも、男の来客が来れば子供たちは牙を剥く。


 他に何かあるのではないかと張り込んで二日、まだ掴めたものはない。


 いっそのことワルモノの件を無視してハフストに連れて行くこともできるが、ワルモノが想像以上に悪者であったのならハフストに被害が及ぶわけでと、フォウルは行動を起こせないでいる。


「ん?」


 されどうしたものかと思考を巡らせ始めたフォウルの視界に。


「……なんだ、あいつ」


 ヒトではない。

 人の皮を被った何かが、孤児院の門を叩いた。




「あっ!! ワルモノだっ!!」


「なにしにきたのよー!!」


「シズおねえちゃんはいないぞ!!」


「帰れっ! 帰れっ!!」


「……やれやれ、困りましたねぇ」


 門の中から石を投げつけらているのは、長身細身、細目の男。

 本当に困ったと頬に手をあてながら、いつ来てもどうしてこうなってしまうのかと。


「子供たち? できれば大人の方を呼んできては貰えませんか?」


「やだーっ!」


「いーっ!」


「これでもくらえーっ!」


 帰れの一点張り。

 相変わらず話をさせてくれないと方を落とす男の頬に。


「あっ」


「っ……」


 大きめの石が掠め、僅かに皮膚を裂いた。


「あ、ぅ……」


 動揺する男の子。

 顔にはそんなところに当てるつもりはなかったと、後悔の色がありありと浮かんでいて。


「ワルモノを追いやろうとする勇気は立派なものです。ですが、やるならきっちりやりなさい」


「う……」


 凄みを見せたわけではない、相変わらず困ったように笑いながら男は言う。


「……ごめん、なさい」


「結構。まぁ、今日は帰ることにしましょう。本当に、いらっしゃらないようですし」


 そう言ってハンカチで頬を拭いながら男は踵を返す。


 ――どうした、ものか。


 顎に手を当てて、考えを巡らせたせいか。


「おっと、申し訳ありません。考え事をしていまして。怪我はありませんか?」


 人とぶつかってしまった。


 ――え?


 そしてぶつかったという事実に驚き、顔を上げれば。


「どうして魔族がここにいる」


「っ!?」


 そこには誰もいない。

 慌てて周囲へと目を巡らせるが。


「今日の夜、ルクトリア外れの水車小屋で待つ」


「まっ――あなたは誰ですかっ!?」


 やはり誰もいなかった。

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