大凡の着地点が出来上がった。
シズの抱える問題。
いや、問題と言うべきではないだろうあくまでも個性であり性格なのだから。
故に解決したではなく、前を向いた、一歩踏み出せる精神状態に辿り着いたと言うべきだろう。
ちゃんと返事を聞いたわけではないフォウルだが、村長の言葉通り孤児院の子供たちが望むのであれば、シズはハフスト村、初めてのシスターとなる。もちろん、孤児院の院長という肩書とともに。
「……打算があったわけじゃないんだけどな」
自嘲するようにフォウルは呟いた。
最初から描いていた未来図ではない。むしろ、筋書き通りにいったことなんて欠片もない。
状況へとなんとか食らいついていった結果にすぎないが、ハフストの発展も叶えられるかもしれないのだ。
孤児とは言えハフストに子供たちが来れば、当然未来の労働力としてカウントされる。
子供たちが成長して自立できるようになるまで、シズはその責任感と慈愛を持って最後まで導くだろう。
加えて、魔力を扱えるようになったシズは、立派にとは言い切れないかもしれないが子供たちを守るためにハフストも守る。
すなわち、この件が落着すればフォウルに後顧の憂いがなくなることを意味する。
アリサと共に、新婚旅行という名の世直しの旅に出発する準備が整ったということだ。
「上手くいってる、上手くやれてる。フォウと子供たちの関係も良好だし、シズがハフストに来ると言うなら子供たちも来る」
ルクトリアからシズと子供たちをハフストへ移住させて、孤児院が建つまでは出稼ぎしながらちょくちょく戻って様子を見に来ればいい話。
この件の責任者はフォウルにある。
フォウとして稼いだ金銭もそれなり以上にあるし、何の問題もない。
だが。
「……ワルモノ、か」
子供たちが言った言葉が気にかかる。
シズからワルモノという単語はついぞ出てこなかった。
ならばシズに自覚はなく、子供たちが一方的にか敵視している存在が残っているということだ。
それに。
「シズの願いってのも、聞いていないしな」
ぶつかった。
ぶつかって、受け止めた。
それだけ、それだけなのだ、まだ。
託すに値する人間なのかどうか、シズの口からちゃんと聞けていない。
なら、まだ動くべきではない。
ルクトリアへとフォウとして戻るか、フォウルとして戻るかは、その答えによって変わる。
片道三日、仕事を終わらせる時間も考えれば10日間は見ていておかしくない。
ルクトリアを出発して今日で五日が経過した、日数上の余裕は残り半分だがテレポートを使えば日数短縮できる。
シズが目を覚ますまではまだ時間が必要だろう。
その間にフォウルとしてルクトリアの様子を見て適時調整するべきだなと結論づけた。
「二重生活も大変だ――ん?」
「あ、やっぱりここにいた。こんばんは、フォウル」
「あぁ、こんばんは、アリサ」
フォウルが自分の家の屋根へと寝転がろうとした時、ひょっこりと梯子を昇って顔を出したアリサが現れた。
「我ながら後先考えなかった。自分の部屋を渡したら、俺が寝る場所なくなるなんて当たり前なのに」
「だったら私の家に来ればよかったのに」
「襲わない自信がない」
「おそ――!? も、もうっ! そ、そういうのは! ちゃんと結婚してからなんだからね!」
二人並んで見上げた夜空は生憎と雲が多く星は覗けない。
「よし、言質取ったからな」
「ふぇっ?」
「式挙げたら、覚悟しろよ」
「あ、ぅ……ひゃい」
それでも暖かかった。
むしろ一人は今すぐにでも火を吹いてしまいそうなほど顔を真赤にしている。
やはり、とでも言うのか。
アリサと共にいる時が一番心が安らぐとフォウルは実感する。
いつか幸せに、ではなく、今この瞬間ですらフォウルは幸せなのだから。
「そういや。料理、美味しかったよ。頑張ってくれてるんだな、ありがとう」
「ちょちょっ!? も、もう! た、畳み掛けないでよ! あーもう……顔熱いよぅ。でも、うん、どういたしまして」
俺のために、なんてフォウルは口にしなかった。
言うまでもないことだったし、改めて誰のためかなんてうっかりでも口にすればアリサが怒るなんてフォウルはわかっている。
「そ、その」
「うん?」
「フォウルも、魔物退治で頑張ってくれてるんだね。フォウさんからちょっとだけ聞いた」
「そっか」
返事をしながら、フォウルとフォウが同一人物だと勘付かれていないと安堵しそうになった時。
「フォウさんって、フォウルと似てるね」
「ぶっ――え? な、なんで?」
何の脈絡もなく急所狙いの一撃が飛んできた。
「名前が似てるっていうのもあるけど。目が凄く似てた」
「め、目?」
瞳の色も変えたし、少なくとも外見から紐付けられるものは欠片もないはずだが。
そんな風に内心で慌てふためいているフォウルを余所に、アリサは空を見上げながら。
「うん。他人の幸せばっかり考えてる目」
「……フォウさんはシスターだし、そういうものなんじゃないのか? というか、俺ってそんな目をしてるのか」
「そうだよ。だって……ううん、やっぱり恥ずかしいから言わない」
「なんだそりゃ」
――だって、プロポーズされてから。私、絶対幸せにされちゃうって思いしらされちゃってるもの。
後に続いていただろう言葉は期待や願望混じりかもしれないからと、アリサは照れたように笑って。
「はやく式、挙げたいね」
「あぁ、任せとけ。がんばるよ」
「ん、私もがんばるからね」
フォウルの肩へとアリサは頭を預けた。