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第35話「外堀埋め」

 どのような戦いであったのかはともかくとしても。

 フォウルとシズの戦いは激闘であったと言えるだろう。


 激闘を証明するものの一つとして、墓地であった場所が一見ただの平原にしか見えなくなってしまった。


 埋葬されている人間にはただただ詫びるほかにないが、抱えている問題が解決されれば、改めて墓石などを用意する予定がフォウルのやることノートに記されたことは言うまでもない。


 ともあれそんなはた迷惑な戦いが終わった後、敗者であるシズは倒れた。

 フォウルに比べれば軽症ではあるが、限界を超えた魔力の奔走を生み出し体内に残る魔力はゼロどころかマイナスに振り切れている。


 この分だと、早くても一週間は寝込んだまま。

 フォウルはそうシズの状態を決定づけてからすぐに墓守の小屋を、シズを背負い後にした。


 そして。


「フォウルッ!!」


「まーて待て待て! 俺もものすごく受け止めたい気持ちがあるんだけど、こいつを見てくれどう思う?」


「……浮気?」


「俺がけが人に手を出すような人間だと思われていたのなら悲しいよ、アリサ」


 フォウルの姿を見つけて駆け出し、飛びつこうとしたアリサはフォウルの一歩手前で着地して、てれてれと頬を掻く。


 流石に墓守の小屋で一週間シズの回復を待つことはできない。

 何よりルクトリアの孤児院が心配だし、ハフストにシズの孤児院を建てるというのなら連れてきた方がいいと、フォウルはフォウルとして一時帰郷した。


「おお、お帰りフォウル、どうした? まさかもう出稼ぎ終わったのか?」


「あーん? 早速外で新しい女作ってきやがったのか?」


「そんなわけないでしょ、あんたと違うのよ、あんたとは」


 どうしたどうしたとフォウルのことを、それぞれ行っていた作業の手を止めてまで出迎える村人たち。


 そんな温もりに浸ってしまいたい欲求を堪えて。


「仕事の途中で、少し」


「うん? あれ? その人ってもしかして、シズさん?」


「知ってるのか?」


「えっと、フォウさんってシスターさんとここに来たことあるんだ。訓練の途中で失敗したとかなんとかで」


 努めてわざとらしくないようにフォウルはなるほどと、合点が言ったと言うように頷いた。


「そか、だからか。詳しいことは説明するよ。とりあえずこの人を……俺の部屋でいいか、ちょっと休ませてやりたいからアリサ、手伝ってもらっていいか?」


「うん、わかった」




 シズをフォウルの部屋に寝かせた後、そのまま居間へと村長を含めた何人かの村人たちが集まった。


「なるほど、のぅ」


 魔物退治依頼でこの近辺までやってきた時、シズを背負ったフォウ出会い、どうかシズを休めるところに連れて行って欲しいと依頼されたとフォウルは村人たちへと説明した。


 加えて、ルクトリアの教会におけるシズとフォウの扱いを端的にではあるが、説明もした。


「なにそれ、許せない……!」


 その結果、早速嫁力の向上を見せるときだと張り切ってお茶と軽食を用意していたアリサはどこへやら、正義感メラメラの勇者アリサが爆誕してしまった。


「まぁ落ち着いてくれアリサ。フォウさんとは何度か魔物退治依頼で一緒になったから少しだけ人となりは知ってるけどさ。それでもこの話を鵜呑みにはできないし」


「フォウルッ!?」


 ルクトリアの教会に乗り込んでやろうかなんて思っていたところに、最愛の人から向けられた冷水に驚くアリサだが。


「俺にとって何より大事なのはアリサ、君だ」


「はうっ!?」


「そのアリサや、ひいてはこの村が厄介事に巻き込まれるかもしれないなら見過ごせない。こうして一時的に休ませてあげるとかなら良いけど、シズさんやフォウさんに加担するってことは、ルクトリアの教会と喧嘩するってことだからな? 流石に慎重にもなるよ」


 止める、ではなく慎重になるという言葉にアリサは冷静さを取り戻した。


 心の底ではなんとかしてやりたいと思っていることがわかったからだ。


 同時にやぱりフォウルは格好いい、好き。

 なんて乙女回路をギュンギュン稼働させていたがそれはさておき。


「フォウルが村のことを考えてくれているのは嬉しい限りじゃ。じゃが、手を貸してやりたいとは思っているのじゃろう?」


「はい……少なくとも、孤児院の子どもたちが巻き込まれていることはどうにかしてやりたいと思っています。子どもたちに罪はないし、その子供たちがフォウさんとシズさんのことを慕っている光景を見れば、どちらが悪いのかは明白ですから」


 光景を見るどころか感じている者としては、尚更。


 テーブルの上においてあったフォウルの手に力が込められたのを見て、この場にいる村人たちはフォウルを通してルクトリア教会は想像以上に劣悪な状態にあることを感じた。


 ちなみにアリサはフォウルの真面目かつ痛ましいと感じている表情に胸の高鳴りを止められないでいる。


 ――あのフォウルがここまで言うのなら、なんとかしてやりたい。


 村人たちの意思は一つにまとまり、村長へと向けられる。


「……未来を担う若者がこの村に溢れるのは良いことじゃ。そう思わんか? 皆のもの」


「村長……!」


「何、フォウルが外でもらしくおることがわかって嬉しいよ。教会の件がどうなるのかなぞワシにはわからん。じゃが、子どもたちがハフストを、ワシらを求めるのであれば、快く受け入れると約束しよう。それでよいな? フォウル」


「はいっ! ありがとうございます!」

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