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第28話「怪我の功名にかえるため」

 失敗、というより想定外の予想外。


「――」


 フォウルの三歩後ろをしずしずとシズが歩く。

 その歩みはフォウルという神の従僕たらんという意識のためかしっかりとしたもの。


 シズが自分の知る聖女シズのようにはならないかもしれないとは思っていた。


 むしろ、完成された聖女となってしまえばまた魔族との戦争へ参入しなければならなくなる可能性が高くなる。

 ならば積極的に真逆を目指すように誘導すべきとも言えるだろう。


 つまり、聖女シズの真逆とはそのまま誰かの好意に気づけない自己肯定感ゼロのままであれということだ。


「着きましたよ、シズ」


「はっ」


 だが、そうであり続けても幸せを掴むことは出来るだろう、確かに可能性を考えれば低くなるのかも知れないが。


 余計なお節介、あるいは思い上がり。

 フォウルが失敗と考えたのは、そんな自分の傲慢さを自覚したからであった。


「見えますか? いえ、えますか?」


「……はい」


 過去に戻ることは出来ない、人生にやり直しはない。

 そんな当たり前をどういうわけか覆してしまったフォウルだから。


 もう、失敗はありえない。


「グールが11体、ゾンビが21体、リビングデッドが6体、です」


「素晴らしい感度です。ですが、惜しい。それらに加えて、首無し騎士デュラハンが一体いますね」


「っ! も、申し訳ありま――」


「いいえ。今のシズでは感知できなくても仕方ありません、実力差がありすぎる。あれはこの辺りのボスですね、通りで周辺の墓地から処理要請が来ないわけです」


 一点。

 こと、シズが魔法の練習をするに極めて都合がいい状態になったと考えるべきとフォウルは頭を切り替えた。


 今のアンデッド気配探知に関しても、少し前のシズであれば不可能だったものだ。


 判断基準を含めて、全てフォウルへと捧げたということつまり、フォウが出来ると言ったのなら出来る。


 ならば怪我の功名とするためにも、今のシズへと徹底的に魔法の扱いを仕込み、仕込み終わった後に盲信状態を解決する。


「良いですかシズ。わたしがデュラハンの相手をします。他のアンデッドたちは任せました」


「そ、それは」


「あなたならできます。自分を信じることはまだ難しいでしょうが、わたしを信じてください」


「っ……御心の、ままに!」


 改めて魔女であるシズは基本的に魔力的な成長をしない。

 逆に言えば、今出会ってもシズは聖女シズと同等の力を持っているのだ。

 唯一と言っていい心理面と技術的な問題は、フォウを盲信することで一時的に解決している。


 そんなシズを、デュラハンはともかく、確認できたアンデッドがどうにかできるわけがない。


「デュラハンの注意をわたしが引き、この場から遠ざけます。確認出来次第、浄化を。良いですね?」


「はっ!」


 あまり嬉しい目ではない。

 シズから向けられた視線へ、心のなかで頭を下げた後。


「いってきますっ!」


 フォウはデュラハンめがけて身体を踊らせた。




「ヴォォオオオオッ!!」


「しかし、デュラハンとはな」


 背後から追ってくるデュラハンを引きつけつつ、墓地から離れて戦いやすい場所へと移動するフォウ。


 本来ならこの規模の墓地から生まれるアンデッドではない。

 この墓地の地形が原因だろう、周辺の穢れとでもいうべき魔素が集まり、デュラハンを発生させた。


 自分よりも遥かに聖職者としては格上のシズが感知出来なかった事実を鑑みるに、かなり強力な力を持っていると考えられる。


「今のわた……俺より少し強い、ってところか」


 自人称を言い直しつつ、フォウルはデュラハンの目付けを始めた。


 名前の通り、首のないアンデッド。

 片手にはボロボロながらも大きな剣を持ち、もう片方には自分の頭を持っている。

 感じられる魔力量は現在のフォウルよりも少し多く、浄化系の魔法は通用しないだろう。


「まぁ、ある意味その方がやりやすいが」


「ヴァッ!? ヴォオオオッ!」


 この辺りで良いだろうとフォウルはデュラハンと正対した。

 一瞬驚いた様子のデュラハンだったが、どうやら獲物を追い詰めることができたらしいと声をあげ剣を振りかぶりながら突進を開始する。


「よっ……と」


「ッ!?」


 大振りの振り下ろし。

 常人なら死を幻視して動けなくなってしまうだろう迫力を伴った一撃を。


「騎士、ねぇ? 名前負けしてるよな、相変わらず」


「グォッ!? グ、グ!」


 容易く掴んだ。


重力無効化リバース・グラビティ。重さを軽減するだけで掴めるなんて、アンデッドになったら剣の扱い方も忘れるんだもんな。本当に騎士であったのなら、可哀想としか言いようがない」


 言ってしまえば刃筋が立っていない。

 本来刃というものはぶつけるものではない、斬るためのものだ。

 それをただ力任せに振ってくるのだから、勢いを殺してしまえばこうなるのも道理というもので。


「さて、シズが試行錯誤して頑張る間だけだが……遊んでやるよ、デュラハン。精々楽しませてくれ」


「グ、グ……」


 簡単過ぎる戦闘ばかりじゃ、勘の鈍りは取り戻せないと。


「グオオオオオオオオッ!!」


 血が巡っていたのなら怒りに顔を染めていただろうデュラハンを手招いた。

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