目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第17話「陽の当たらない場所」

 ルクトリア教会にいる多くのシスターは、孤児院のこともありシズを完全に排除、排他したいとまでは思っていない。

 だが、一度痛い目に合わせてやりたいとは考えている。


 いや、多くのというより、ルクトリア教会のシスター総意であると言っても良い。


 シズのことをサンドバッグ程度に思っている者が多いのは確かだが。

 驚異的なスピードで立場の階段を昇っていくシズを、なんとか孤児院の責任者という立場に留めてしまいたいと願っているなんて。


 いわば競争相手の脱落を期待している者を含めれば、シズに味方は存在しない。


 しかしながらに、曲がりなりにも聖職者であり、神の道を歩むという立場にいるのだ。

 自らたちが願いを叶えるための主犯となり、コトが露見してしまえばどうなるか。


 今度こそ人間らしい生活を送ることは出来なくなる。


 日陰に生きたものたちだったからこそ、陽の当たらない場所の怖さを知っていた。


「つまり、あなたが全ての責任を負う、と?」


「ええ。そういう形を取りましょう。その方が、やりやすいでしょう?」


 だからこそ、フォウルはシスターにとって渡りに船な存在と言えた。


 シズを汚したいと願う男。

 協力するだけで、後は全部やってくれるのだ、都合が良すぎると言っても良い。


 何よりタイミングが今しか無かった面もある。


 フォウという新人見習いに対して、シスターたちはシズと同じように立場を築き上げていくだろうと共通認識を持っていた。


 動くべき時は今なのだ、今動かなければシズとフォウはあっという間に階段を駆け上る、自分たちを差し置いて。


 今動いて、どうにかあの二人を孤児院に押し込めておきたい。

 最悪、シズが使い物にならなくなっても、フォウという後釜はいるのだ、問題ないと。


「素晴らしいです。神もあなたの行為をきっと祝福するでしょう」


「それは、どうもありがとうございます」


 こんな悪巧みを祝福する神が居てたまるかとフォウルは笑いを堪える。


 フォウルの要求は単純だった。

 シスター・シズにアンデッド駆除依頼を教会から正式に出せ、出している間孤児院の子どもたちの面倒を見ろというもの。


 勘の良い、むしろ悪いのかシスターたちは揃って理解を示した。

 すなわちその道中でなにかするのだろうと。


「その上で、お伺いしたいことがあるのですが」


「もちろん。お答えできることであれば」


「彼女は、魔女なのですか?」


「っ」


 さて、シスターたちの反応は如実だった。


「なるほど」


「……まぁ、あのようなことがあったのです。司祭様は秘匿されようとしていますが、その通りです」


 あのようなことと言われた内容をフォウルは知らない。

 知らないが、少なくともここにいるシスターたちにとっては周知事実であるようで。


「最悪の考えなければなりません。自分の身を守るためにも、具体的な内容を聞いても?」


「良いでしょう。知っての通り、シスター・シズはどこからかルクトリアへ流れ着きました、ボロボロの格好でね。哀れに思った当時の司祭に拾われ、彼女はシスターとして普通の生活を送る事になりましたが、あろうことかシズは司祭へ肉体を武器に迫りました」


 あのシズをしてまず無い話ではあるが、シスターたちの認識ではシズから迫ったということになっているらしい。


 恐らくも何も、その当時の司祭とやらがここに居ない以上、シズの美貌に目が眩んだ司祭がシズへと迫ったのだろうとフォウルは話を置き換えて続きを促す。


「司祭はシズを窘めようとされたでしょう、しかしシズが強引に迫った結果……魔力爆発が司祭の部屋で起こり、司祭は重症。今は別の場所で療養されています」


「魔力爆発……」


「色は灰色。即ち魔が持つ色と聖職者しか扱えない白色が混ざったものでした。恐らく、魔法で無理やり迫ったシズに対して魔法を使われたのでしょうね、司祭様は」


 炎なんしへの変換前。

 すなわちその人が持つ純粋魔力には色が着く。


 人間は魔法への適正によって様々な色を持つが、魔族の血が流れている者は適性属性を問わず黒。


 実際にあったことはともかくにしても、当時の司祭かシズに魔の血が流れていることは確定した。


 確かにフォウルはシズの純粋魔力を見たことがない。

 というより、魔法を扱うものに見せる理由がないのだ。


 今思い返せば、シズは意図的に純粋魔力を秘匿しようとしていたのかも知れないと思えることもあり、状況証拠としてシズが魔族の血を引いていることは疑えないとフォウルは判断する。


「ですのでご注意を。彼女が魔の血をひく魔女であることは明らかですので」


「ええ、ありがとうございます」


 シズがこの街に居られなくなった理由はこの辺りにあるだろうとフォウルはあたりを付ける。


 自分というきっかけ一つでこの有様だ、別の何かがあってシズが追いやられたことは想像に難しくない。


 ならば残る気がかりは一つだけ。


「孤児院の子どもたちは、私という男に対してワルモノという言葉を使っていました。何か、心当たりはありますか?」


「わるもの……? いえ、申し訳ありませんが、私達には」


 本当に心当たりがないのか、顔を見合わせるシスターたち。


 ワルモノに関しては別件か、あるいはシズが聖女になった理由はそっちか。


「わかりました、ありがとうございます。では、吉報を待っていて下さい」


「はい。あなたに神の祝福を」


 もうここに用はないとフォウルは立ち上がり、教会を後にする。


「――認識阻害ミッシング解除、っと。さて、準備するか」


 フォウルをフォウルだとわからないようにしていた魔法を解除して。


 マスカレイドを再び発動し、孤児院へと歩みを進めた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?