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第14話「キマ失敗」

「じー……」


「あ、あのあの、あのぅ……あ、あたしが、悪いのはわかってるんですけどぉ」


 魔女とは穏やかな単語ではない。

 フォウルの感性のみで言うのならまったく問題ないものではあるが、少なくとも世間にとっては無視できないものである。


「うぅ……ふぉ、フォウさぁん……その熱い視線をどうにかぁ……」


 魔族とのハーフ、あるいは血を辿れば魔族に行き着く人間。その女を魔女と呼ぶ。


 こんなところでお役所仕事はやめてくれと、フォウルは思わず司祭が管理していた黒で塗りつぶされた調書に言葉を漏らしてしまったが、魔女と言われて納得できる部分もあった。


 中でも群を抜いて納得してしまいそうになったのは、シズの魔力量だ。


 魔族は人間のように魔素を取り込んで成長はしない。

 成長しないが、多く魔素を持って生まれてくるし、魔素を魔力へと人間の数倍の効率で変換できる。


 シズは極めて人間離れした多くの魔素を保有しており、魔力のスタミナとでも言うのか魔力切れを起こさなかった。


「ね、ねぇ? フォウお姉さまの目……なんだかドキドキしない?」


「う、うん……み、見つめられたい」


「おなかがあつい」


 故に、あり得るかもしれないと。


 だが、重ねて仮にシズが魔女だったとしてもフォウルがシズに向ける感情に変わりはない。

 かつてより今も、アリサとは違う意味で大切な人であり仲間だ。


 だからだろう、熱心に見つめている視線を本人含めた周りの者が熱愛に勘違いしてしまうのは。


 早熟な男の子たちはなぜか一斉にトイレへと駆け込んでしまったし。

 この場に残っている女の子は、こぞって太ももをもじもじとこすり合わせていた。


「ふ、ふえぇ」


 例外はフォウル自身とシズだけだろう。

 フォウルはシズの内面を探るべく目に魔力を宿しガン見継続中だったし、シズはそんな不躾な視線を受けて半ベソをかいたまま、何かを誤魔化すように夕食を口にしている。


「シズさん」


「はひゃっ!? ひゃいっ!!」


 漂っていた緊張感がフォウルの声で霧散した。


 上擦った声で返事をしてしまったものの、シズの胸には安堵が広がり始める。


 あぁ、これで空気が――


「わたしとお風呂に入りませんか?」


「どおしてそうなるんですかぁあああっ!? ふえぇええっ」


「え? あ、あれ? 何でギャン泣き?」


「キマシタワー!!」


 ――余計に変な方向にへ、転がり始めた。




「いやまぁ、流石にダメだよなって」


 ダメ元にしても限度があるだろうと、自室にて絶賛反省中のフォウルである。


 誰に対してかは言うまでもなくアリサに向けて言い訳だが、シズという女性にフォウルは恋愛感情をこれっぽっちも抱いていない。


 無論、美しい人であるとは十分以上に思っているが、敢えて言うのなら身内を自慢したくなる気持ちへと変換されている。


 どうだ、うちの聖女はすごいだろう? なんて。

 親バカの素養とでも言うのか、元々にぶチン賢者と呼ばれ続けていた一因が垣間見える。


 だからこそ、一緒に風呂へと入ったところで劣情を抱くわけがないという、あまり誇るべきではない確信があったがための提案だった。


「けど、俺だけならまだしも、子供たちとも入らないってのは……やっぱ身体に魔紋があると考えて良さそうか」


 魔族の血は身体の何処かへ紋章として現れる。

 浮かび上がる場所は人によって違うが、たとえばサキュバスの血を引いていれば下腹部に浮かんだりと特徴がある。


 なんだかんだで馴染んだフォウル、もといフォウは早くも子どもたちと一緒によく入浴していた。

 そして聞くのだ、シスターって存在と初めてお風呂に入ったと。


 あのシズが恥ずかしいからを理由に子供の面倒を見ないなどとは考えられない。

 どうしても一緒に出来ない理由があるという方が妥当だとフォウルは考えた。


「ルクトリア教会の前司祭がいなくなったことと、シズが修道士として認められたのは同時期だった。そして、シズが魔女である可能性……」


 迫害とまでは言わないが、やはり魔族の血を引くと露見してしまえば世間へは馴染みにくい。


 当然、シズとて知っているだろう魔紋を隠すように生きてきたはずだ。

 フォウルも経験したようにシスターとなるためを口実とした身体検査など無く、シスターになるためを理由に露見する危険はない。


「現司祭の好色家ぶりから考えても、ルクトリアでは司祭と寝ることで得られる何かがあってもおかしくない。仮に、前司祭もそうであったのなら、シズに迫って断りきれず魔女であることがバレた」


 その辺りが本筋かとフォウルはひとまずの結論を出した。


「子供たちが俺のことをワルモノと言ったことも気になる。もう少し調査が必要になりそうだ」


 アンデッド狩りは順調どころかフォウルが想定していた以上に捗っている。

 既に孤児院、シズへと報酬の一部を渡した上であってもこの調子ならば一ヶ月もすれば出稼ぎには十分な額が稼げるだろう。


「物足りなさはあるけれど、だいぶ力も取り戻してきたしな」


 手を開き、握る。

 フォウル基準で現在レベル20と言ったところ。


「そう孤児院から離れていたくもない、手っ取り早い方法を取るか」

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