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第13話「止まれ、ロマン罪だ」

 同性の容姿を褒める言葉に信憑性はない。


 誰が言い始めたかは知らないし真偽も確かめたいとは思わないが、フォウルの知るところではかつてのスケこませない残念イケメンなパーティメンバーはそう言っていた。


 そんな言葉の含むところとして、つまりは異性に容姿を褒められたのなら信じていいかもしれないという意味がある。


 そう、重ねて言うがフォウルが作り上げたフォウという女は美少女だった。


 本人の意図というか意向からズレてはいるものの、道行く男性にどう思うかとアンケートでも取れば10人中全員が可愛いと言うだろう。もしかしたのなら、100人までは可愛いと言うかもしれない。


「おお、フォウさん。本日はどうされました?」


「こんにちは、司祭様。神へと祈りを捧げに参りました」


 フォウルに自覚はなかったが、平たく言えば男の欲望を煮詰めて顕現したかのような容姿となったのだ。


 こうして司祭が呼んでもいないのに近づいて来たように、男なら是非お相手を願いたいと思ってしまう。


「熱心でいらっしゃる。神もお喜びですよ」


「であれば嬉しいこと、神の喜びはわたしの喜びですので」


 何より清廉だった。清廉に思われた。


 フォウルにとってフォウとは手段の一つだ。

 目的から手段は生まれても、手段から目的は生まれないように。

 フォウという道具はある意味何よりも清らかであったがため。


「おぉ……」


 祈りを捧げる姿を見れば、思わず感嘆のため息を零してしまう程に美しかった。


 同時に。


「フォ、フォウさん? よろしければ少しお話をしませんか?」


「お話、ですか? わたしは修練士の身です、司祭様より直接お話を賜うなど身に余ります」


「神の教えを与えることに、位など関係ありませんよ」


 綺麗なものを汚したいという欲を持つものにとっては、最高の獲物であると言えるだろう。


「……わかりました、ありがとうございます。是非、拝聴いたします」


「おおっ! 流石フォウさんは敬虔なシスターだ……では、こちらへ」


 内心どの口が言うのかと呆れかえっているフォウルではあったが、予想外の幸運だった。


 こうして教会へとやってきた目的は内部を調査すること。

 悪意に対して敏感なフォウルだ、もちろんフォウへと向けられた修道女たちからの暗い視線には気づいている。


 露骨に存在を示すことによって、どういうことをされるのかという調査から始めるつもりだったが、この司祭の動きは狙い通りを加速してくれるだろう。


「ち……」


「あんのアバズレ……」


 聞こえない振りをしながら司祭の後へと続くフォウルは、思わず腹を抱えたくなってしまった。


 確かに司祭の狙いはわかる。

 フォウをどうにか手籠めにしたいと考えているなんて、わかりやすすぎて呆れてしまう程だ。


 同じかそれ以上に、修道女たちが自分をどうしたいかも、わかってしまう。


 今こうして手籠めにされかけている光景を疎んじるということは、その立場に成り代わりたいと願っているということだ。


 アバズレとはどの口が言うのかと、フォウルは笑いを嚙み殺す。


「……まぁ、仕掛ける側に、なるとは思ってなかったけど」


「何か仰りましたか?」


「いえ、どのようなお話を賜れるのかと」


「はは、ご期待にお応えできるよう神にお伺いしなければなりませんね」


 好色な司祭、露骨な狙い。

 こういう相手にはハニートラップが有効だ、なんて。


 前世において星の数は言い過ぎだが、呆れるくらいに仕掛けられたハニートラップを思い返しながら、どんな形で迫るべきかとフォウルは思考を巡らせた。




睡眠スリープス


「――」


 必要以上に暖められ、甘ったるい香が焚かれた部屋。


 フォウルが連れられたのはそんな司祭の私室だった。


「古今東西、面倒の回避方法はこの手に限る、ってな」


 媒介を通していないせいで魔力の消費は大きかったものの、問題ない範疇。


 もちろん考えていたようにハニートラップを仕掛けてあれこれ聞きだそうと考えてはいたものの、司祭のスケベ心は思ったよりも強かったようで。部屋に着くなり司祭の腕がフォウルの臀部へと伸ばされたのだ。


「許せよ? 流石にそのケはないし、俺はアリサ一筋なもんでな。パンツくらいならくれてやるから」


 何かあったと思わせるにはこれで十分だろうと下着を脱いで司祭の頭に被せた後、颯爽とフォウルは部屋の物色を始める。


 探すべきはまず資金の動きが記載されたもの。

 やりたい放題できるとまでは言えないはずだとフォウルは考えている。

 もしも治外法権と言えるほどに自由が利くのであれば、問答無用で迫られているのだからと。


「孤児院に対しての金の流れだけでもわかればいいんだけども、っと」


 上層部へ提出しなければならない書類といったものはある。

 金の流れであったり、所属している修道女の詳細であったりはあって然るべきものだ。


「これ、は。修道女たちに関するものか」


 目当てからは逸れるが、シズに関して何かわかるかもしれないと、フォウルは目を走らせ始める。


「借金のカタ、娼婦崩れ、軽犯罪者……いやぁ、中々」


 この辺りは田舎なんだけどな、なんて呟きながら記載されていた修道女たちの経歴を頭に入れる。

 あるいは都落ちとでもいうのか、都会でヘマをやらかし落ち延びてきた人間ばかり。


「シズ、シズ……あった」


 シズの名前が書かれたページを見つけ。


「……魔女?」


 最初の一文で、目が止まった。


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