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第11話「これだから人生二回目のやつは困る」

 墓守という仕事がある。

 名前の通り墓地の管理を行う職業だが、実際に行っていることと言えばアンデッドの発生を報告する監視員のような存在だ。


 ルクトリアにはそんな報告が多く集まる。

 寄せられた報告書を見て、各地を旅する冒険者たちが路銀を得るためにアンデッドの駆除を行う。


 そんな駆除依頼を、フォウルはフォウとして受注し依頼場所へとやって来た。


「まずは、ここか」


 シズを説得するのに手間を要しはしたが、フォウルは無事聖水を手に入れた。


 ――こここ、効果は! 期待したら、駄目ですからね!? ごごごめんなさい!


 なんて言いながら最終的には世のため人のため、子供たちのためという言葉に折れたシズが最後に言った言葉を思い出して小さく笑う。


 何よりもアンデッド駆除は本来冒険者に任せるようなものではない。

 神官系の魔法が扱える魔法使いや、洗礼を受けた純粋な僧侶でもいるのなら話は別だが、然るべき手順を踏んで浄化しなければ、再びアンデッドとして発生する時期は早まってしまうのだ。


 聖職者がやってきて、然るべき手順、方法で浄化してこそ。


 そういった説明と言う説得もあり、シズは渋々ながらも聖水を作った。


「ったく、数百のアンデッドを一度で浄化する聖女様が何言ってんだか」


 思い返してみても圧巻の光景だった。

 浄化ターン・アンデッドの魔法はアンデッドを浄化、消滅させる効果のあるもので、そこまで難易度の高い魔法ではない。


 難易度や消費魔力こそ低いが、それでも一度の行使で浄化できるアンデッドの数はせいぜいが片手の指で足りるほどの数だ。


 それを、一度に百以上。


「素質や才能ってのは開花する前から片鱗を覗かせているものだな、本当に」


 今のシズが同じことを出来るとは思わないが、無理を言って作ってもらった聖水はかつて聖女シズが作った聖水と遜色ないものになった。


 かつてのフォウルであれば聖水など必要とせず、目の前で呻き声のようなものを上げながら徘徊するアンデッドを一掃できたが、生憎全盛期の頃にはまだまだ遠い。


 今であっても十数匹程度であれば低級の火炎魔法で問題なく処理できるだろうが、依頼場所にはどれだけ放置されていたのかかなりの数のアンデッドが発生していた。


「どれもただのゾンビ、か。まぁ、これなら十分すぎるな」


 放置されていた一因だろう、確認できたのはただの脆い動く死体、通称ゾンビだけ。

 決まった場所から出る事もなく、何なら視覚や聴覚、嗅覚もない魔物が故に、人を襲うことも少ない。


 それだけに駆除しても得られる報酬は少ないが、子供たちの食事代としては十分な額は手に入る。


「シズ、魔法借りるぞ? ――祝福の雨レイニーブレス


 聖水の入ったビンの蓋を開けて、フォウルは両手を組み、祈りを捧げるような姿勢で詠唱を始めた。


 ビンから聖水が抜け出し、空へと浮かび上がり、広がる。

 やがて広がった聖水は雲へと形を変え、墓地を覆う程度の小さな雨雲となった。


「――哀れな亡者たちを地に流し、御許へと運び給え」


「グ、ググググゥ――」


 詠唱が終わると同時に、淡く輝いている雨が墓地へと降り注いだ。


 聖水の混ざった雨はゾンビたちの腐った身体を優しく溶かし、地面へと流していく。


「ん、まぁ及第点か」


 ゾンビたちが浄化されていく光景を見てフォウルは一つ頷いた。

 フォウルの下に集まって来た魔素も十分な量で、また一つ強さを取り戻したと満足気だ。


 少しだけ魔力が足りるかと不安はあったものの、デミオークを討伐した時に感じたことに間違いはなく、媒介を通してならば、多少難易度の高い魔法であっても十分に行使できると。


「あいつは何もない状態で、聖水の雲を作ってたしな……今思えば、十分化け物だわ」


 今であっても、回復魔法と浄化魔法に関してはシズの足元にも及ばないとフォウルは思う。


 どれだけ訓練しても、シズのように部位欠損までした傷を治療することはできなかったし、浄化作業にしてもそう、媒介を利用してでしかできなかった。


 もしも、もっと熱心にシズの指導を受けていたのなら――。


「いや、それはいい」


 アリサを蘇らせるために、シズが命を落とさなくて済んだのかもしれない。


 そんな考えを頭を振って追い出し、大きく深呼吸をしたフォウルは。


「――これで、大丈夫でしょう。よろしければ、こちらに確認のサインをお願いいたします」


「あ、あぁ……いえ、はい」


 呆気に取られている作業を見守っていた墓守へと依頼完了のサインを促した。


「万が一、一カ月以内にアンデッドが再び発生するようならご連絡下さい。その時は、無償で作業へと参りますので……はい、確かに。では、ありがとうございました」


「……」


 返された書類のサインを確認し、フォウルはその場を足早に去る。


 受けた依頼はまだ多く残っているのだ。

 孤児院から長く離れているわけにもいかない、早く帰って美味しくて身体にいいものを作らなければと。


 だから。


「せい、じょ……? いや、めが、み?」


 フォウルの背中に向けて、呆然と呟かれた言葉には気づけなかった。

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