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第10話「腹黒いってこういうこと」

 唐突な暴露になってしまうが、アリサは料理が下手である。


 料理が、と言うよりは家事全般が不得意と言うべきか。

 鍋は毎回焦げ付かせるし、掃除をすれば余計に汚すなんて典型的なメシマズ嫁の才能を持ち合わせている。


 もっとも、これには故郷であるハフストの風習が原因だった。


 今こうしてフォウルという新郎が出稼ぎという名目の下村から離れているように、花嫁側はこの準備期間ともいえる時期に花嫁修業へと勤しむ。


 かつてを言うのであれば、魔王討伐の旅に出たときはもちろんお互いは結ばれていなかったし、ただの幼馴染という関係のままだった。


 その時からアリサはフォウルへと好意を寄せてはいたが叶うことはなく、行き場のない想いを魔王討伐に燃えることで一時的に蓋をして、改めて家事の練習なんてすることも、時間もなかった。


「う、うんめぇええええっ!?」


「やだ、あたしよりりょうり、じょうず?」


「あはは、お代わりありますからね? しっかり食べてください」


 当たり前だが、旅に出た当初は二人だけだ。

 そしてアリサの壊滅的な家事スキル、求められた答えはフォウルが家事担当になるというもので。


「んぐ、んぐ……おいしい、れすよぅ……あぐあぐ」


「な、何も泣かなくても」


 必要に迫られて磨かれたフォウルの料理スキルは、シズ含めたパーティメンバーが合流するころには一人前どころじゃなく、店を開いても通用するんじゃないかと思えるほどにまで昇華されていた。


「おかわり!!」


「おかわりください!」


「あ、あのあのあの、わ、私にも、ちょ、ちょっとだけ……」


「はい、遠慮なさらずどうぞ」


 フォウルが改めて見た孤児院の懐事情は厳しいものだった。


 まずパンがない。

 固く、小麦の甘さなどないに等しいが辛うじてパンに分類される黒パンという主食すら僅か。


 スープにしてもこの地域では格安で手に入る人参が一人あたりに一口分入っているかどうか。

 山積みにされているジャガイモは、売り物にならないと捨てられそうになっていたところを手に入れたのだろう芽が伸び放題。


 フォウルとしてはアリサと旅立った当初のことを思い出さないこともなかった。

 フォウルとて何も最初から料理ができたわけじゃないのだ。

 旅立つにあたって故郷の人たちから山と言うほど食料を貰ったが、それも料理ができない二人だったからすぐ無駄にしてしまった。


「本当に、美味しい、です。フォウさんは、どこでこんな料理を?」


「シスターの過去を聞くのは野暮と言うものですよ」


「ご、ごご、ごめんなさいっ! そ、そうです、よね!」


 少なくなってしまった食料を何とか保たせようと四苦八苦。

 結果、何とか食べられるものを作れるようになってからは、無駄ではないがやりくり上手になってしまったフォウルだから。


「でも、ジャガイモがあってよかったです」


「こ、これ、アレが入っているのですか?」


「ええ。このパンなんて、半分以上がアレで出来ていますよ」


「う、うそ……」


 あえて言うならイモパン、だろうか。

 黒パンを細かくしたものをジャガイモのすり下ろしと混ぜ合わせ、再び焼き上げたもの。


 パサパサしていて、そのままでは黒パン同等できれば口にしたくないものではあるが、腹には溜まる。


 その代わりではないが、スープはしっかりとしたものを作った。

 一見何の具も入っていないように見えるが、人参をとことん煮込みトロトロにしたスープと言うよりはスムージーに近い形状の飲み物。


 イモパンを浸しパン粥のようにして食べれば、子供たちが声をあげて喜ぶような一品となる。


「そ、その、ごめんなさい、えと、お金、なくて」


「謝られずとも」


 落ち込むシズを何とかしようとフォウルは思考を凝らすがいい言葉は思いつかない。


 なんとなく予想はしていたが、渡した金には手を付けていなかったのだ。

 あの金を使えばいいのになんて言えるはずもない、何せフォウルとフォウはシズにとって別人なのだ。


「教会からの運営資金が十分ではないのですか?」


「い、いえっ! そ、んな、ことは……ないのですけど! あ、あたしが! 悪くて!」


 と言うことは貰ってない。

 シズの様子を見てフォウルは確信する。


「そうですか……。ですが、味で誤魔化しても栄養は誤魔化せません。何とか子供のためにも野菜をもっと用意してあげたいものですね」


「……はい」


 わかっているのだろう、そんなことは。

 小さく頷きながらも、シズの手が震えている。


 教会内部を早く調べたいことは確かだが、ここをこのまま放っておくにはいかないとフォウルは。


「わかりました。では、わたしがお金を稼いできましょう」


「え、えぇっ!? で、ですが修道士になるためにはそんな時間が――」


「目の前で困っている人を放っておいて、何が聖職者ですか。安心してください、ちょっと……あ、そうです。ならシズさんにも、一つ手伝って頂きましょうか」


「ふえぇっ!?」



「聖水、内緒で作ってもらえませんか?」


 一石二鳥、どころか三鳥だと笑ってシズへと改めて提案した。

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